第517話 巣立ちまでの、ちょっとだけ伝説

 枕投げなどをしてみたのだけれど、私の枕投げは危険だということで審判役になったのだった!

 ま、枕投げしたかったー。


 夜は同室のみんなが、将来の話とか恋バナなんかをしている。

 ふむ……。

 私はこの三年間でたくさんの経験を積んできた気がするけど……恋バナは全くないな……。


「またまたー! はづきちゃん、配信者の凄い人たちと知り合いなんだからちょっといいなーっていう人いるんじゃないの?」


 旅先、深夜という非日常で、テンションが上がってるクラスメイトなのだ。

 だが済まない。

 無いものは……無いのだ……。


「皆無ですねえ……」


「そんなあー」


 がっかりさせて済まない。

 なお、この内容をクラスに共有していい? と聞かれたので、私はOKを出しておいた。

 元配信者たるもの、この程度の内情開示ではびくともしないのだ!


 なお、その後、なんかクラス内で私のパートナーに立候補する女子が数名出てきたとかでチャットグループが紛糾した。

 なんだなんだ、何が起こっているんだ。

 委員長がスマホを確認してから、私に話しかけてきた。


「はづきちゃんに質問がある人がいるんだけど」


「はいはーい」


 ボイスチャットを起動して、別の部屋から質問が飛んでくる。


『卒業後はどうするんですか?』


「イギリス留学して、ダンジョン学専攻ですねー。三年間の活動で培った知識と経験を活かしてですね……」


 ボイチャ(ボイスチャット)から、クラスメイト全員の納得の声が聞こえてきた。

 まあね、私にぴったりだからね!


「確かに……。これ以上無いってくらいぴったりな人選かも知れない」


「たくさんのダンジョンを攻略したし、魔王までやっつけたもんねえ」


「はっ。向こうではルシファーさんもお世話してくれるそうなので」


「ルシファーさんってあの、超絶イケメンの議員の人!?」


「きゃーっ! いいなー!」


「ファンになってる女の子多いんだよー」


「ファンになってる男子も多いかも……。中二心をくすぐられるんですって」


「ははあ……」


 なんか新しい情報を知って妙な気分だなあ!

 こうしてガールズトークは弾んだけど、日付が変わる頃合いで私は眠くなり、枕に突っ伏して爆睡したのだった。

 翌日も箱根観光は楽しかった。


 考えうる限りの観光地を回ったぞ!


 卒業旅行、楽しい時間はあっという間なのだ。

 二泊目を終えて、迎えに来たバスに乗って私達は帰ることになった。


「はづきさん、なんだかつやつやしてますね」


「分かります? めっちゃ楽しかったですー」


 タマコさんに充実した旅行を見破られてしまった!


「それでは、また世界を飛び越えて移動するので、皆さんシートベルトをしてください」


 あっ、帰りもショートカットするんですね?


 ファンタジー世界に突入!

 今度は火山が噴火している地獄みたいなところだったから、クラスのみんなが凄い悲鳴を上げた。

 私とイノシカチョウの面々的には、割と普段通りの光景なんだけど……!


 で、当然のように迷宮省は安全を確保した上でそのルートを通っているので、何事もなく通過。


「す、凄いものを見てしまった……。旅行の思い出が上書きされそうなくらい」


 委員長がドキドキしながらそんな事を仰る。


「委員長、あんなものはダンジョンだと普通なので、ちょっと絶景を見たなーくらいの気分でいいんです。箱根の温泉凄く良かったよねえ」


「あー、良かったねえ……。はづきちゃんの立派なものがセンシティブに浮かんでて……」


 忘れろ忘れろ。

 委員長、まさかセンシティブ勢……?


 こうして楽しい卒業旅行は終わり……。


 学校の前で、私達はお別れする事になった。

 そう、これで本当のお別れ。


 私はもうすぐ日本から発つし、この校舎も、クラスメイトのみんなも、これで当分の間見納めなのだ。


 何故かみんな並んで、私を見送る形になっていた。


「なんです? これ?」


 私が思わず疑問を口にすると……。


「いってらっしゃい、はづきちゃん!!」


 声を揃えてお見送りの挨拶が!

 ま、まさか私が爆睡した後の夜中、みんなでこれをやろうと話し合っていたのかー!!

 ジーンと来た。


「うおー、ありがとー!」


 ぶんぶんとみんなに手を振り……。

 私は学校を後にしたのだった!


 さて……これで休暇は終わり!

 ここからの私はとても忙しいぞ!


 帰宅した後、ルシファーさんに連絡を取って、それから向こうでの活動予定をもらい……。

 オンライン形式で、これから一緒になる研究室の仲間と顔合わせ……。


 おやあ……?

 勉強しに行くというか、既に即戦力として組み込まれる準備が整っていませんかねえ。


『君にダンジョン学をしたり顔で教えられるような教授が、この世界に何人いると思っているのだ? 君が教える側だ』


「あひー!!」


 今明かされるとんでもない事実!


 それはそれとして、向こうの大学での色々な勉強はお世話してくれるそうなので。

 学生兼、ダンジョン学の実学的見地の権威として講義もする必要があるみたいなのだった!


 私の忙しい日々は全然終わってなどいない。

 配信がなくなったけど、たくさんの人の前でお話するのは変わらないわけなのだ。


 これは忙しくなるぞお……。

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