第155話 ラジオ侵略即迎撃伝説

「野中さとなの~」


「「マンデイを、ぶっ飛ばせ!」」


「わーわー、始まりましたー! 今週のマンデイをぶっ飛ばせ! なんだかタイトルコールを唱和してくれた可愛い声の人がいますね? 誰だと思います?」


※『誰かな?』『すごく聞き覚えがある特徴的な声……』『さとなんが大好きな女子って言ったら決まってるじゃんw』『いっつもラブラブ言ってるもんねw』


※『きら星はづき!』『はづきっち!』『はづきちゃん!』


「せいかーい! なんと今日は、スタジオにあのきら星はづきちゃんが来てくれていまーす!! わーわーわー! パチパチパチー!!」


 コメント欄も猛烈な勢いで流れる。


「あひっ、よ、よよよよ、よろしくお願いします」


 私は猛烈に緊張していた!

 誰だ、慣れたからそんなに緊張しないみたいに言ってたのは。 

 私だ。


 緊張しないどころか、ド緊張しとるが!!


「はづきちゃんには八月にも一度出演してもらったんですけど、あの時は色々ありましたね! はづきちゃんがスタジオを占拠した大罪勢をやっつけたり!」


※『あそこからが人類の反撃の始まりだったよな……w』『普通に歴史の転換点じゃんw』『このラジオ、持ってる……』


 物騒なコメントが流れていく……。

 歴史の転換点とかそんな大仰なものでは……。

 たまたまナカバヤシさんが大物だっただけで。


 そう言えばもんじゃ調べで、ある程度以上に育った大罪勢は自分の名前じゃなく、象徴になっている悪魔の名を名乗るんだって。

 嫉妬のレヴィアタン、強欲のマモン、怠惰のベルフェゴール、傲慢のルシファー。

 これが残りの大罪勢で……。


 えっ、私がベルゼブブ!?

 蝿なんか食べ物の天敵じゃないですかー!!

 ブタさんなら美味しいので許す。


「気がついたらはづきちゃん、ずいぶん遠いところまで行っちゃったなあ……と思ったんですけど、お誘いしたらこうして気さくに来てくれました!」


※『優しい』『はづきっちは驕らないよねー』『腰が低いし勤勉だし』『人の手伝いとかしてるから嫉妬とかもしなさそうだし!』『ガツガツしてないもんねえ』『食べ物はガツガツしてるけどな』


「あひー、お褒めにあずかり恐悦至極です~」


※『女子高生のボキャブラリじゃねえよw』


 ラノベとかマンガで読んで変な言い回しは色々知っているので……。

 その後、野中さんから色々お話を振られた。


 アメリカの事は大いに盛り上がった。

 そりゃもう、話すこといっぱいだもんね。


 機内で目覚めたらなんかデーモンがいたから、自己紹介がてらゴボウでつっついたらやっつけちゃったこと。

 機長さんと談笑してたらジャンボジェットが光り輝いて、空のモヤモヤ~っとした空間を突き抜けちゃったこと。

 空港に降り立ったらなんかゲーミングな感じのピンクの光が、滑走路辺りをブワーッと広がっていったこと。


「無自覚無双だったんだねえ……さっすがはづきちゃん!!」


「無自覚と言いますか、私が見てたものとアーカイブに残ってる映像が全然違うと言うか」


※『はづきっちの目に映る現実は常にショボいw』『あれだけの偉業を成し遂げておいてw』『リアルな俺何かやっちゃいました?だなw』


「いえいえいえいえ、私なんかもう、アメリカで楽しくハンバーガーとかタコスとかピザを食べて、コーラとレモネードを飲んで、ついでで朝活でダンジョンをちょっとだけ踏破したみたいなもんで……。あ、三人友達ができて、うち一人は私の事務所の所属になってくれて……」


 おお、私、案外話ができるじゃないか。


※『あれだけの密度のある一週間の配信をついで扱いだ……!!』『大物すぎる……』『あの配信で、はづきっちが登録者数関係なく気さくに接する人だって分かったの良かったよな』『あまりに人間ができている』


「うんうん、はづきちゃんは本当に凄い。素敵。私はいっつも配信ではづきちゃんを追いかけてるし」


※『あっ』『察し』


「えーっ、野中さんいたんですか!? し、知らなかった……」


※『えっ!?』『本当にござるかぁ!?』『この鈍感力』『主人公体質にござるなあ』


 散々な言われようだ!

 こうして楽しく進んでいく配信。


 私からは特に告知も何もないのを、またリスナーの人たちから『無欲』『毎日が見どころ』とか言われてしまった。

 そうこうしていたら……。


 突然、私たちの拾うマイク音声に変な言葉が混じりだした。

 日本語じゃないような。


 ねちょねちょっとした質感で、なんか言ってる。


※『なんだこれ!』『こわっ』『気持ち悪い!』『何語?』『放送事故……!』『フランス語だ』


 野中さんもスタッフさんも慌てている。

 だけど私は見逃さなかったね。


「フランス語有識者~」


※『フランス語専攻です! えっと、なんか嫉妬っぽいことを呟いてます! 嫉妬勢の攻撃です!』


「なるほどぉー。じゃあ反撃します」


※『即断した!』『疑うことを知らないw』『このフットワークの軽さがはづきっちだよな』


「あちょっ」


 私はゴボウをリュックから引き抜いて、マイクをペチッと叩いた。

 ボグッという打撃音が流れる。


※『ゴボウ殴打ASMR』『重低音が響いたな』『ゴボウの打撃音あんなに重いのw!?』『ウグワーッ!!』『あ、なんか叫んでる奴がいる』


 コメントに幾つものウグワーッが流れて、さらにマイクから途切れ途切れのフランス風ウグワーッが聞こえた。

 ちょっとタイムラグがあって、マイクからスタジオ全体に、ピンク色の光が溢れる。

 すぐに光は消えてしまった。


 そこから、変な声が流れなくなる。


「な……なんだったんだろう? えっと、皆さん失礼しました! 機材トラブルだったみたい」


※『嫉妬勢の攻撃でしょ』『さとなちゃん無事で良かったー』『こういう状況のスペシャリストがゲストで本当に良かった』『未知の事態を一瞬で解決しおったw』


「なんとかなったみたいですねー。あ、ゴボウで叩いたけどマイク大丈夫ですか? 壊れてないですか? あひー、べ、弁償はしますので……」


 私が恐縮したら、野中さんもスタッフさんも、コメント欄もドッと笑うのだった。


 その後……。

 私がマイクを叩いたのと同じ頃、フランスの大きめダンジョンがいきなりピンク色の輝きに包まれ、中枢部が壊滅したらしい。

 バタフライエフェクトというやつだね……。


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