第417話 屋上露天風呂でドラゴンと一緒伝説

※『でも十階建てだと、周りのもっと高いビルから丸見えにならない?』


「凄くいい質問をいただきました! これはですねー。イカルガでは新しい方法で解決してまして」


 お風呂専用のほこほこしたエレベーターで上に向かうのだ。

 あっという間に屋上到着。

 本当なら、周囲にはまだまだそれなりの高さがあるビルがそびえているはずなんだけど。


 私はAフォンでぐるりとマンションの周りを映し出した。


※『あっ! どこのビルよりも高い!』『なんだこれ!?』『どうして!?』


「魔法の応用で、ここだけ空間を切り離しているんだそうです。なので、周りの風景は高さ400mから見えるものになっていてですね。素晴らしい風景が見えるというわけですねー。おおー、外で喋ってたら寒い寒い」


 すでに露天風呂に入っているカナンさんとルンテさんの後を追いかける。

 温泉に浸かると、ほっとため息が出てくる。


「あったか~」


「こっちの世界の春は暖かいけど、それでも裸で外にいると寒いもんねえ」


 ルンテさんがニコニコ。

 今の私たちは、上に水着みたいなテクスチャーをかぶせて見せてるけど、実際はタオル一枚ですからね!


「そっか、二人とも夏の初めころにこっちの世界に来たから、春をまだ知らないんだっけ」


「ああ。私の中に強く残っているゴボウアースのイメージは、あの灼熱の夏だ。湿度がとにかくすごかったな! 火と水の精霊があちこちで手を取り合って踊っていた」


 そんな風になってたのか、日本の夏!


※『暑いはずだ……』『水と火の精霊が仲良くなることってあるんだ』『二つ一緒にやって来たからあの暑さと湿気ってわけ!?』『仲違いしろ』


 まあカナンさん曰く、この国の火と水の精霊はめちゃくちゃ仲良しらしいので、喧嘩はしないんじゃないかなー。

 さて、じゃあ次は露天風呂から見える光景をAフォンでお見せしましょう。


 飛び上がったAフォンが、マンションの外に見える風景を映し出す。

 それは、高度400mから東京を見下ろしたものだった。

 ほぼスカイツリー。


※『うおおおおお』『めっちゃ景色いいんだけど!』『富士山見えるじゃんw』『とんでもねえ露天風呂だなこれは』


 ただし、実際の高さは十階建てのビル屋上くらいなのであります。

 これはあくまで遠くの風景をここに映し出しているだけね。


 なので、人がいなくなるとこの魔法が解ける。

 人がやってくると魔法が発動する。


 マンションの外から見ると、人がいる露天風呂を視認できなくなってしまうみたい。


「この魔法を用意してくれたのがこちらのウェスパース氏です。イカルガの相談役ですね」


『やあ人間の諸君。わしがウェスパースだ』


※『当たり前みたいな顔してドラゴンが温泉入ってる!』『横にゲーミングPCが浮かんでるんだけどw』『えっ、入浴しながらゲームを!?』『すげえ防水性能だなあ』『冷却はどうした冷却は』


『諸君の疑問はもっともであるな。わしはな、全て魔法で解決しておる。冷却は水の魔法をぐるぐる回しながら行っておる。すなわち水冷式PCということじゃ! さらに、熱を隔てる結界を一枚張り、その状態でお湯に浮かべておる』


 電源はウェスパース氏の魔力から直接取ってるそうです。

 このドラゴン、ずっとマイPCの解説しかしないな。


「ウェスパース氏、温泉に掛かってる魔法について簡単な解説をですね」


『おお、そうじゃった!! まずはだな、この魔法は露天風呂に入りに来る人間の魔力を使って成立しておる。つまり一人で来ると、あまり長時間いられぬ。魔力が使われて疲れてしまうのだな。だから複数人で来るのが推奨だ。なお、一人で露天風呂を楽しむために、魔力を鍛えてから来るというのはそれはそれでいい』


※『入るのに覚悟を必要とする露天だ!!』『魔力を鍛えるってどうやるんだよw』『アワチューブで魔力の鍛え方動画出始めてるよ』


 今は一般人も魔力を鍛えて日常に活用する、国民総魔力時代!

 皆さんも頑張っていきましょー。


 ここで、先に屋上に来ていたエルフのスタッフから差し入れです。

 エルフは先天的に魔力が多いんで、長時間屋上にいても平気なのだ。


「あっ、ミルクコーヒー……!!」


 風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むのではなく、お風呂に入りながら飲む……!

 なんという贅沢さか。


 絶景を楽しみながら、私はミルクコーヒーを口にした。

 美味しい~。


※『ごくごくASMR』『一息で飲み干していくぞw』『もうちょっとゆっくり飲んでもw』


「まだ半分残ってます! でも、こうしていると、世の中がダンジョンとかで大変だーってのを忘れてしまいますねー。なんとも平和です」


 まあこの露天風呂を成立させている技術が、ダンジョンがあったからこそ得られた魔法に寄るものなんだけど。

 今後はイカルガスタッフにもこの魔法を伝授すると、ウェスパース氏が息巻いておられる。

 自分はゲームに専念したいのに、いろいろな仕事で呼び出されるからだって。


 つまり我が社に、ドラゴンの直弟子みたいな人が何人も誕生する……?


 ここで、兄が用意した求人のテロップが流れた。


『イカルガエンターテイメントで魔法を学び、施設管理者になろう!』


 諸々条件があるけど、やはり運の良さが大事で、それに加えて生来の魔力量も重要視される。学歴や外見、犯罪歴以外に、新たな面接の基準が誕生した瞬間だった!


「ではでは、今日はこれでスパ銭からの配信を終わります~。次回からはまたいつもの! ダンジョンに潜ろうと思います! おつきら~」


 私とカナンさんとカンナちゃんとウェスパース氏が並んで手を振った。

 よく考えると凄いメンツではないのか。


 その後、イカルガの施設管理者に応募が殺到したらしい。

 これに関する面白いエピソードは聞けたけど、それはまたの機会に。


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