第461話 実情把握と福建省グルメ伝説
「はづき小姐、まずは今、この中華がどうなっているかをご覧いただく必要があります」
案内役で私に付けられた人は、カチッとしたスーツのかっこいい感じの女の人だった。
この小姐(しゃおじえ)っていうのは、中国で言う~さん、みたいな意味なんですって。
お名前はスーイェンさん。
党の偉い人にセクハラされた時に、特技である柔道でふっ飛ばしたら左遷されて出世できなくなった人なんだそうです。
豪傑~。
「結果、私は生き残りました。何が人生に幸いするか分からないものです」
人間万事塞翁が馬ですね、みたいな話をした。
このことわざ、中国由来だったんだー。
淮南子というのからの出典なのかあ。
「ということで、福建省を見て回り、この国への理解を深めていただく。そうすることではづき小姐も戦うモチベーションが湧いてくることでしょう」
「なるほどー。なんか中華街を巡るんですね」
「はづき小姐、ここは中華ですから全てがあなたの仰る中華街ではあります」
「あっ、そっか!!」
そう言われればそうだった!
後ろでカナンさんが笑っている。
ということで行ってみましょう。
彼女の運転するオープンカーに乗って、出発することになった。
「なんでオープンカーなんですか」
「この方が、外の世界の風を感じられるでしょう?」
かっこいー!
福建省の一番大きな都市、福州を見て回りましょう。
「福建省のお料理をまず視察せねば……」
「ほう、はづき小姐、福建料理にご興味が!? いいでしょう……私オススメの最高の梅菜扣肉(メイツァイコウロウ)が食べられるお店にお連れします。予約を取りますのでお待ち下さい」
なんだその料理はー! と思ったら、豚バラ肉を厚切りにしてトロットロになるまで煮込み、そこに爽やかな梅の味を付けたお料理らしかった。
豚の角煮の高級なやーつ!
私のお腹がグーッと鳴った。
得意げなスーイェンさん。
「いいですか、覚悟して下さい。日本の言葉で言うなら、ほっぺたが落ちますよ」
「あひー」
すごい殺し文句だ!!
ということで、街の見学の前に大きいレストランに来たのだった。
なんと私貸し切りで、大きなお皿にドドーンとそのお料理が乗っていた。
日本人向けということで、ご飯も用意してある!
ありがたあい。
「あっ、これは美味しそうだ。ご飯もあるのは本当に分かっているな……。むっ、この煮込みスープは?」
「福州鱼丸(フーチョウユーワン)です。魚のすり身の団子スープですよ。素晴らしい出汁が満ちています」
「絶対美味しいやつ」
ということで食べ始めた。
チンジャオロースーもここのお料理なんだそうで、大変美味しくいただいた。
いやあ、豚バラ肉の油が口の中でとろっと溶けちゃうの。
煮込まれたお肉は柔らかく、団子スープも滋味あふれるお味と、さっぱりした団子が美味しい。
本当は前菜もあるそうなんだけど、私の食べっぷりを知っていたのでいきなりメインディッシュから出したそうです。
ありがたい~。
福建省のパワーを思い知ってしまった。
恐るべし……。
「いやいやはづき小姐、ご飯食べただけで感心しないでください。今回は我が国の素晴らしさを伝えるのが目的ではありません。私は今我に返りました。美味しい料理を食べさせて相手を感服させてどうするんですか」
あっ、スーイェンさんなかなかうっかりものだな?
なお、お料理を運んでくる人がトカゲの尻尾を生やして鱗のある女の人だったりしたので、この国にも異種族の人は暮らしてるんだなあと感心した次第だった。
「彼らですか。現れた当時は物議を醸しだしました。当初は差別的に扱う者もいたのですが、何分、相手が多種多様で数が多く、それぞれの能力の秀でた部分は素晴らしい才能を持っていましたし、話してみたら自国民より話が通じます」
「自国民より!!」
「はっはっはっは」
これにはカナンさんも笑うしか無い。
今日、食べるか笑うしかしてないよね?
「世界でもそのような状況のようですね。人種差別は変わらず行われていたところに、人種どころではない種族が違う者が大量に出現した。もはや差別どころではない。世界は異種族との共生に全力状態ですし、彼ら異種族は優秀で対ダンジョンの能力にも長けている。世界にとって欠かせぬ存在ですから」
「そうだろうそうだろう。私達はファールディアでずっと戦い続けてきた。そのための技術も知識も多くあり、それらの大半は人間には使いこなせないものだ」
「ええ。だからこそ、奇妙な形で人間同士の諍いは沈静化しました。生まれや人種、それが違うことがどれほどの意味を持つか? 隣人は生まれた世界に種族すら違う人々ではないか、と」
なんと、世界は一つになっていたんですねえ。
それでも色々問題は起きてるみたいだけど、異種族の人はファールディア人なので、ダンジョンにちょっと近い性質があるんだよね。
つまりですね、銃が効かなかったりします。
なので過激派な人たちも、根本的に手出しをする手段が無いという状況らしく。
「全てははづき小姐が始めたことであると私は認識しています。実は私は、お前らの一人でして」
「な、な、なんですってー!!」
「本物に会えて光栄です、はづき小姐。お腹が膨れたところで、ダンジョン被害について見て回りましょう」
世界は狭いなあー。
これは、ファンからのサービスということで夕食も凄く期待できるのではないか。
今から胸を躍らせる私なのだった。
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