第249話 魔女の正体
それは突然起こった。
虐殺の巻き起こる闇の中で黒いローブで全身を隠し、沈黙していた数十に及ぶ人形兵と呼ばれるマナギスお手製のパペットたちが一斉に動き出し、生き残っている兵士たちの元に駆け寄りだす。
「こ、こいつらは人形兵!?やっと動き出したのか!早く俺たちを助けろポンコツが!」
兵士の一人が人形兵の胸を力いっぱい殴りつけた。
人間という物は不思議なもので、今まで恐怖で怯えていたというのに人形兵の登場にもしかすれば自分たちは助かるかもしれないという希望から安堵感を得ると、次はどうして早く来なかったのかと怒りが湧いてくる。
他の兵たちも同じような物で口々に自らの元にやってきた人形兵を罵っていく。
人形兵たちはそんな兵士たちからの仕打ちにも作り物である人形故に一切反応しない…かのように思われたその瞬間、ローブを脱ぎ捨て兵士の一人に抱き着いた。
「なんだ!?おい!なんだよこれ!」
突然の人形兵の行動に慌てて引きはがそうとする兵士だがものすごい力で抱き着かれておりビクともしない。
いやそれどころか人形兵はまるで兵士を締め上げるかのように力を加えていく。
「うぎゃああああ!?た、助け…!」
「何やってんだこいつ!離せコラァ!!」
ただならぬ同僚の様子に周りに居た兵士は人形兵を引き離そうとするがやはりびくともせず…抱き着かれている男の身体が無理やり圧し潰されていくことによる異音を発し始める。
「痛い痛い痛い痛いぃぃいいいい!?ぐぁ…ガ…あぁぁぁぁ…あっ」
身体中の穴から血や臓器を押し出され男は絶命してしまった。
何が起こったのか理解が追い付かず、周りに居る兵士たちは茫然とその光景を見つめていた。
人形兵はそんなことなどお構いなしとでも言うように次の行動に移る。
地面に這いつくばり、今しがた圧し殺した兵士の血を啜りだしたのだ。
「なに、な、何をやってるんだ…何だこいつは…」
「味方じゃなかったのかよ!」
グチャグチャと不快な音をたてながら人形兵は血を啜るだけでは飽き足らず、貪るように死肉と内臓を食い荒らしていく。
しばらくそうしていると突然立ち上がり、一直線に歩き出した。
闇の世界でそのような光景は人形兵の数だけ繰り広げられており、リリとメイラも何が起こったのかと事態を眺めていた。
やがて人形兵たちは同じ場所に集合し…お互いの身体に絡み合うようにして一つに纏まりだし、まるでパズルを埋めるように複雑に組みあい、合わさって複数の人形兵は巨大な一体へと姿を変えた。
そんな様子を水晶を通じて見ていたマナギスは満足そうに頷く。
そこにマナギスがくつろぐ部屋の扉を蹴破るようにして王と複数の武装した兵士が現れたのだった。
「おや、王様どうかしました?」
「どうしたかだと?貴様よくもそのような事を言えたな!なんだあれは!?」
王はマナギスには内密に独自の魔法で兵たちの様子を見ていたのだ。
そして突如として友軍に牙を剥いた人形兵の姿を見て怒りのままにマナギスの元にやってきたのだった。
「なんだとは?これからがいいところなので後にしてもらっていいです?」
「ふざけるな!お前たちあの女を捕らえろ!」
王の護衛を務めていた兵がマナギスを捕獲しようと詰め寄る。
それをつまらなそうに一瞥したマナギスが指をパチリと鳴らすと、どこに隠れていたのか複数のパペットが現れ兵士と王を組み伏せてしまった。
「ぐっ!貴様ぁ!この私にこんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「あーあーちょっと静かにしましょうよ王様。わかりました、わかりましたよ。確かにあなたに黙って色々と進めすぎてしまったかもですね。反省したので少し解説でもしましょうか」
再びマナギスの指が鳴ると水晶に映っていた映像が空中にでかでかと投影され戦場の様子をまるでそこにいるかのように錯覚させるほどの臨場感で映し出した。
そしてそこには王の兵を掴み上げている巨大な人形兵の姿があった。
「なぜ貴様のガラクタが私の兵を襲っている!!」
「襲っているなんて心外ですね。あれは襲っているのではなくて少しばかり動力を補給しているだけですよ」
「なんだと…?」
マナギスは何かに思いを馳せるように遠く、それでいて爛々とした目をして映し出される人形兵を見つめていた。
そして彼女は王に語りだす。
「私はこれでも昔は真面目で優秀な研究者だったんですよ。いや今でもそうだと思ってますけどね?まぁ今に比べると一般的な科学者の粋を出ていなかったですね。当時仕えていた国の命令で死ぬ程つまらない研究をさせられて…なまじ優秀ではあったので色々とね…あぁ今思い出しても面倒でしたね」
「何を言っている…お前はフリーの人形遣いだったはず…」
「あははは!ここ数十年はそういう肩書でやってますからね!」
「数十年だと…?」
マナギスは確かに研究者というには妖艶な雰囲気を纏った大人の女性に見える。
しかしどれだけ高く年齢を見繕おうが20代後半がいいところだ。
数十年そういう肩書という言葉に釣り合う年齢ではないと王は思った。
「ええこう見えてもあなたよりだいぶ年上なのですよ私。もう数えては無いけど数千年生きてるのかな?我ながら長生きだ!あははは!」
「何を…言っている…?」
「うん?そんな難しいこと言ったかな。あんまり頭の悪い人の事って分からなくて…ごめんなさいね?でも王様も可能ならもっと勉強したほうがいいですよ~こんなに長生きな私でもまだまだ勉強中なんですから。この世界はどれだけ知っても知り切れない…どれだけの不可解を解き明かしても分からないことは次から次へと現れる!あぁ…なんて楽しい…うふふふふふふふふふ!!!」
狂ったように笑うマナギスは王にはおもちゃを前にした無邪気で残酷な子供のように見えた。
「…おっとすみません。それでですね?つまらない研究者だった私の元にある日とっても面白いものがやってきたんですよ。なんだと思います?」
「そんなもの知るわけがない!」
「ですよね。ふふっ!あぁ…今でもあの時の興奮は忘れられない…数千年前、腐りかけてた私の前にやってきたのは一人の女の子。ただの女の子じゃない…まさに「神の力」とでも言うべきものを持っていた女の子だった!」
耐えきれないとばかりに大きく両手を広げたマナギスの胸元にはネックレスのように加工された不思議な何かの欠片のようなものが光を放っていた。
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