第360話 人形少女はパーフェクト人形少女になる
マオちゃんの私を呼ぶ声が聞こえたので、それを聞きつけてかっこよく参上…なんて事あるわけがなく。
ただ単にあの気持ち悪い人形を倒してしまおうと向かっていたところでタイミングよくマオちゃんの声が聞こえただけというオチだ。
でもまぁマオちゃんの中で私の株は上りに上がっただろうし結果はオーライだ!それに偶然そういうタイミングだったというのはもはや運命だったんだよ!好きな人の呼びかけを聞きつけ駆けつける。
愛に対して真摯に生きる私たちはきっとそういう風になるようになっているのだ。うん。
「それよりマオちゃん…いっぱいケガしてるみたい。大丈夫…?」
「うん。全然大丈夫」
マオちゃんの頬の傷をそっと指でなぞるとヌルリとした感触と共に指に赤いものが付着する。
それを見て私は心底腹が立った。
マオちゃんのまるで芸術品のような綺麗な肌に傷が、しかも寄りにもよって可愛さの象徴であり化身であり可愛いという言葉そのものと言っても過言ではないお顔に傷をつけるなんて世界の損失だというのにこれでもし傷跡が残りでもしたらどうするつもりなのか、どうにもならないし誰にも責任なんか取れなくて、それが原因で世界が滅んでもおかしくないほどの事なのにどうしてこんなことが出来るのか、だいたいマオちゃんはこんなに可愛いのに何故か自己評価が低いところが度々あって、黒い痣の事もあるし私が何度も何度もマオちゃんは可愛い、素敵だと言い聞かせているのにこの傷の事でまたマオちゃんが自分を卑下しだしたらどうするんだ、いや気分が沈んでるマオちゃんもそれはそれで趣があるのは間違いないけれどだからってマオちゃんが悲しい気持ちになっていいわけないだろいい加減にしろ。ようやく痣の事をマオちゃんが何も言わなくなったのに私の努力を無に帰すようなことしやがって…絶対に許せねぇ!
「リリ?なんか顔が怖いよ?」
「おっと。ごめんごめん、ちょっとお腹が痛かったかもしれない」
「そうなの…?」
「そうなのです。さてマオちゃん。ちょっとあの人形畜生を物言わぬ廃材に変えるから下がっててね」
「え?う、うん…」
マオちゃんに安全なところまで下がってもらったところで、私は背後でうめき声のようなものに聞こえなくもない耳障りな鳴き声を上げている人形に向き直る。
さてさて人の大切な人に手を出した報いを受けてもらおうじゃないか。
我が自慢の妹分が残してくれたこの力を試すにはいいサンドバックだ。
クチナシから還元された力で魔力も全快とはいかなくてもほとんど補填できているし、身体の隅々までなんというか…力がみなぎっている。
今までにない感覚…私の新しい力。
ううん、私が本来持っていたはずの力。
今の私は完全体だ!パーフェクト人形である。
…なーんてイキリ散らしてると足元を掬われるのが世の常なので調子に乗るのはほどほどにして気持ちを切り替える。
実際の所は自分の力がどれくらいのものなのか知っておかないとまずいし、この程度の相手にすんなり勝てないのなら…この後に控えているであろうマリアさんとの戦いでも負けてしまうだろう。
「だから来なよ。片手間で乗り越えてあげるから」
「──────!!!!」
人形が叫び声と共に私に頭から突っ込んできた。
目がたくさんついているその頭部に触りたくもないけれど嫌悪感を抑え込んでそれを正面から拳で迎え撃つ。
クチナシ流物理術だ。
さてどうなるかと思ったけれど、いつか見た光景の様に私の腕は見事に人形を抑え込めている。
正面から力のみであの巨体と拮抗できている。
すごいパワーだ…これが力…!!
私はもう片方の手で拳を握ると、人形の目の一つを思いっきり殴りつけてみた。
「────────!!!!?」
人形の顔には見事に穴が開き、その身体がのけぞった。
いや私これ何も特別な事はしてないのよ?本当にただただ純粋な物理だけでやっている。
これはいくら何でも日常生活に支障が出そうなレベルで力が強すぎて笑えない。
この戦いが終わったら何か対策を考えないといけないレベルだ。
クチナシはインテリ系に見せかけた脳筋ちゃんだったけど…そのパワーまでもが戻って来たらしい。
こんな有り余る力をあの子は果たしてどう制御していたのか…。
おっといけない、今は戦闘中だ。
余計な事を考えてないでとにかく今は集中しよう。
「どうしたの。ちょっと顔が痛いくらいで終わり?」
「────────!!!」
私の言葉を理解できているのかは分からないけれど、人形は心做し怒っているような視線を向けてきた後にいっぱいある脚をシャカシャカと気持ち悪く動かしながら暴れ出した。
まるで癇癪を起した子供だ。
私の可愛い娘たちが小さい頃でもここまで暴れたりしなかったぞ!リフィルはやけに大人しかったし、アマリリスはよく泣いていたけど暴れたりはしてなかった記憶。
「つまり君は赤ちゃん以下だ」
なので遠慮なくやらせてもらう。
今の力はだいたい分かった。
ならば次はどこまで細かな動きができるのか試してみたい。
せわしなく動かされている人形の脚一本一本を見据えてその動きを観察する。
落ち着け、拳でのダメージが通った相手だ。
何をどうやっても勝とうと思えば勝てる…だから今はただの実験。
あの子が私に残してくれた力を調べるためのお遊びだ。
だから焦らなくていい、失敗を気にしなくていい。
ただやるだけ。
「すぅ~…今だ!」
私が指を引くと同時に人形の動きがぴたりと止まった。
傍から見るとまずで時間が止まったかのように見えるかもしれない。
でもよく見ればそうじゃない事なんて…いや、意外と分からないかな?
ただやっていることは難しいけど単純だ。
四方八方から人形に向けて糸を闇の中から吐き出し、巻き付けて押さえつけているだけ。
つまり結局のところパワーだ!!
…まずは話を聞いてほしい。
確かに糸であの巨体を押さえつけていること自体に使っているのはパワーだよ。
だけどね?そこに至るまではなかなか細かい事をやっているのだよ!
まず闇を複数かつ小さく人形を取り囲むように展開。
その後で闇の中に無数にいる私の人形ちゃんたちに指示を出してクチナシが使っていた特別製の糸を大量生産させてそれを人形の関節に目掛けて打ちだして身体を雁字搦めにする。
そしてパワーで押さえつける!ほらね?大変でしょう?闇を複数かつ狙った場所に作り出すのにかなり繊細な魔力操作がいるし、それと並行して人形たちに指示を出し、魔力を与えて糸を作り出させ、そして正確な位置に発射し巻き付ける。
ぶっちゃけ二度とやりたくないくらいには頭を使うめんどくさい作業だ。
まぁそれはともかく、今までは出来なかった細かい事もできるようになっていることは確認できた。
「じゃあもういいや、ゆっくりお休み」
とある子の技から着想を受けた新魔法を喰らうがよい。
現魔力の1割ほどを使い上空に暗雲のような闇を展開し、そこに魔力を集中させる。
今の私はほとんど魔力を消費せずともアレにダメージを与えられることはマオちゃんのところに駆けつけた時に確認済みだ。
クチナシが私と一つになった。
言葉にすればそれだけなのに私が手に入れた…あの子がもたらしてくれた力は絶大だ。
「さぁ刮目して!これから起こることは散々暴れまわったあなたに対する空からの裁き!」
天に渦巻く闇から一筋の漆黒の閃光が、まるで雷の様に人形の身体を貫く。
「オリジナル魔法、カオスジャッジメント」
貫かれた穴から亀裂が広がり、人形は塵の様に細かく砕けて地面に盛り上がる砂の山に変わった。
「ふぅ…まぁそこそこやれたんじゃないかな!」
後方に控えていたマオちゃんに向かってvサインをしてみた。
するとマオちゃんも可愛く微笑みながらサインを返してくれたのだった。
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