第148話 人形少女は安心する
声が聞こえたほうを見るとメイラがいる。
本人は一斉に見られて不思議そうな顔で首をかしげているけれど…。
「メイラどうしたのそれ…」
「え?どれです?」
「気づいてないの…?」
「えーと?」
どうやら本当に気が付いていないらしい。
メイラの顔の穴という穴から紫色の液体が溢れるようにして流れ出している。
あまりにもあまりな光景に私たちは何もできず、じっと事の次第を見つめるしかなかった。
ボタボタとメイラから流れ落ちた液体がスライム状に固まるとグネグネと動き出して人型になっていく。
そうとうに不気味でリフィルは「うぉぉう」と何とも言えない声を上げ、アマリリスは安定の大泣きだ。
さすがにメイラも異常に気が付いたようで慌てて身体中を見渡して他に何か起こっていないか確認している。
やがて人型のスライムはペタペタと四つん這いでコウちゃんに近づいていく。
「うだぁ!!」
コウちゃんは赤ちゃんながらスライムを睨みつけて威嚇するように唸り声をあげているが、構わずスライムはコウちゃんを抱え上げて腕に抱いた。
さすがにまずいと思いスライムを止めようとした時、そのスライムの表面にだんだんと人間の肌のように色づき、のっぺりとした身体には女性らしい凹凸が現れだす。
やがてスライムはやや小柄ながらも異常なほど一部分が豊満な女性の見た目に変化し…そしてそれは私のよく知る人物…アーちゃんだった。
「アーちゃん!?」
「はい、お邪魔しております」
「…驚きました生きていたんですね」
クチナシが本当に驚いたような声色でそう言った。
ちなみにいまだに土下座の姿勢を崩していない。いい加減もうやめていいよって言ってあげたいけれど私が言っていいのか分からないしタイミングを逃している気もするのでどうすればいいのかわからない。
「いやぁ危なかったですけどね。たまたまメイラさんが帝国に来てくれて助かりました。私は悪魔に対しての絶対性を持っていますので少しだけですがメイラさんの身体をお借りしました。たぶんほとんど身体に負担はなかったと思いますがいかがです?」
「…不快な思いはしましたがそれ以外は大丈夫です」
「だぁああああああああああああ!!!」
コウちゃんが暴れに暴れている。
リフィルは謎行動は多いけれど大人しいし、アマリリスも泣いているだけで暴れたりはしないので新鮮でやや面白い。
「あらあらフォス様、そんなに照れなくてもいいじゃないですかぁ」
アーちゃんはもうそれはそれはニッコリとした笑顔でコウちゃんをその大きすぎる胸に埋めてご満悦している。
「むにゃあああああああああああ!!!」
「フォス様も楽しそうですし、この方のお世話は私がしますので気にしないでくださいませ」
それを聞いたマオちゃんがほっと胸をなでおろしていたので私も安心した。
「それはいいけどアーちゃんたちこれからどうするの?帝国無くなっちゃったんでしょう?」
「そこなんですよね~。一応フォス様が生き残った民の皆さんは神都に避難するよう命令を出したそうですが…それと同時にフォス様自身はこっちに来ることを望んでいたみたいですし」
「ふんす」
「コウちゃん何か考えがあるの?」
「だっ!あうえああうなぁ」
「この通り、しばらく会話が成立しないのでそこらへんでゆっくりしておこうと思っています」
「部屋貸そうか?」
言ってから気が付いたけど魔王城はマオちゃんの城なので私が勝手に部屋をかせるわけがない。
恐る恐るマオちゃんのほうを見ると気にしていないようだったので良かった。
それならだいぶ帝国にお世話になってたことだし、恩返しという事でしばらくいてもらうのがいいかもしれないと思っていたのだけどコウちゃんがゆっくりと顔を横に振った。
「そうですね…ここに居座るのは少しまずいかもしれません。帝国を襲ってきたあの人は魔界の事情に精通しているようでした。また襲われないとも限らないので」
「ん?ならなんでこっちに来たの?神都に一緒に行けばよかったんじゃ…」
「そこもフォス様が喋れるようになるのを待たないとわかりませんね」
「ふんす」
コウちゃんはアーちゃんの胸に頭を預けた状態で腕を組んで鼻を鳴らしている。
「あ!じゃああそこはどうかな?この前コウちゃんに貰ったってクチナシがどこかの地図を持ってきたけど」
「あ…確かにあそこなら隠れ家にはもってこいかもですね。しかしあそこはリリさん達にお譲りした場所ですので…」
「気にしないで!私たちのほうも今いろいろ大変でさぁ~そもそも家を探してたのも元はメイラの事情だったし、もう急いでないんだよね。娘たちを育てるのはそっちのほうがいいかな?って考えてたんだけど、大変そうだしアーちゃんたちで使って」
「ありがとうございます。フォス様もそれでいいですか?」
「う」
「しかしお譲りするつもりでしたので色々準備してたんですよね~…どうでしょう?差し支えなければ一緒に使いませんか?広さはあるので問題なく使えますよ」
「そうなんだ?なんだかんだで一回も行ってないし、今度見に行ってみようか?マオちゃん」
「うん。まぁでもまずはこっちのゴタゴタを片づけてからだね…ところでクチナシはいつまで土下座してるの」
ようやくそこにツッコんだマオちゃんの一言でクチナシは土下座を止め、いろいろと話し合いをすることができた。
私は最近いろんなことが起こるなぁ…思いながら娘二人と遊んでいた。
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