第147話 人形少女は確かめる
「ど、どうしたの…?」
私の眼前に広がる光景に驚いてとりあえずマオちゃんに恐る恐る話しかけた。
いつもは垂れ気味の可愛らしい目がちょっと吊り上がってるので結構怒ってるっぽい。
「そこ、見てみて」
マオちゃんが指さした先を見るとそこには愛しの娘たちがいる。
「ふぇえええええん!」
アマリリスは今日も今日とて泣いているがこの子は喜怒哀楽全てを泣くことによって表現しているので最近はあまり気にしないことにしている。
メイラシェフによる離乳食を初めて食べたときなんて大泣きしながら完食してたので逆に面白かった。
そしてその隣にはものすごい速さで手を動かして何かをつつきまくるリフィル。
「何をつついてるの?」
覗き込んでみるとそこに…シーツにくるまれてすごく嫌そうな顔をした赤ちゃんがいた。
その赤ちゃんを「ずどどどどどどどど」と聞こえてくるような速度と勢いでリフィルがつついて、それを見ながらアマリリスが大泣きしている。
「えっと…?」
「クチナシがお願いしますって連れてきたのよ」
「ええ…」
アマリリスの時もマオちゃんは怒ってたのにさらに赤ちゃんを連れてきたとなればそりゃ怒るよね。
それを理解したのか土下座をしてる…っていう状況みたい?
「それでメイラはどうしたの?」
「いや…私は良く分からないのですけどクチナシちゃんと一緒にいたので…?」
どうやら巻き込まれたらしい。
「そうなんだね。で、クチナシ?この赤ちゃんは何なの?どうしてまた拾ってきちゃったの」
「その実は事情がありまして」
「ふーん」
マオちゃんの「ふーん」がめちゃくちゃ怖い。
でも可愛い。
「その事情って?」
「実は先ほどなのですが…帝国が跡形もなく崩れ去りまして」
「んあ?」
変な声が出てしまった。
帝国が崩れ去った?何それどういう事?コウちゃんとアーちゃんは?何があったの?
頭の中が「?」でいっぱいだったので詳しい説明をしてもらうことにした。
「…というわけでして」
「変な女がコウちゃんとアーちゃんを倒して龍に帝国を破壊させた…え、ほんとに言ってる?」
「事実です」
なかなか衝撃的すぎて頭の中で処理ができなくて飲み込めない。
「…そうだ、コウちゃんたちどうなったの?」
「アーちゃんさんは私が行った時にすでに息はありませんでした。皇帝さんも同様です」
「ふーん」
今度は私の「ふーん」だ。
なにがどうしてそうなったのか分からないけど、友達が殺されたって言うのはものすごく気分が悪い。
その女に少し話をつける必要があるかもしれない。
「ねぇ話は分かったけど…つまりその子供はどういう事なの?大事なのはわかるけど今はこの子の事でしょう?どういう事情にしろどうするかを決めないと…こんなに小さいんだよ?」
なんやかんやでマオちゃんは赤ちゃんの事が心配らしい。
やっぱり先ほど赤ちゃんだけは一応命を助けたのは正解だったかもしれない。
「クチナシには前にも言ったよね?子供ってすっごく大変なんだって事。それを覚えていてなお連れてきたって事はちゃんと納得できる理由があるんだよね」
「納得していただけるかはわかりませんが…理由はあります」
「うん。ちゃんと話して」
「実はその子供…皇帝さんなのです」
「…ん?」
まさに「…ん?」としか言えなかった。
さっきと同じく理解ができない。
「どういう事?」
「マスターは知っていますよね。皇帝…いえすでに帝国がああなってしまったのでコウちゃんさんで。コウちゃんさんは自身の子供に転生できる能力を持っています…つまりその、少し前に無事出産を終えていたらしくてですね」
「いつの間に」
確かにしばらく帝国に行ってなかったけど…コウちゃんも教えてくれてもいいのに。
「私たちが最後に帝国に行った時にはすでに身ごもっていたらしいですね。それでコウちゃんさんが死んでしまいましたので能力が発動して…いまその子に精神が宿っている状態です」
私は信じられないという想いでリフィルをコウちゃん(?)から引きはがし、抱え上げた。
「…ちっ」
赤ちゃんが私から目を反らして舌打ちをした。
身体の前で腕を組んで実に偉そうなその態度が確かにコウちゃんだ。
「もう意識ってあるのかな?」
「それは本人に確認してみない事には…?」
私はとりあえず赤ちゃんを包んでいるシーツをめくって中をのぞく。
女の子だ。
「んぎゃああああああ!!!ンラァアアアアア!!」
すっごい叫びながら殴る蹴るの暴行を赤ちゃんから受けた。
もうおそらく本当にコウちゃんだこれ。
「えぇ…リリ、この子が本当に皇帝さんなの…?」
「うん。たぶんそうだと私も思う」
「そうなんだ…いやでもだからって私に皇帝さんの面倒を見ろって事…?」
マオちゃんは子育てを楽しくやっていると言ってもすでに二児の母でさらに今は魔界のあれやこれでかなりごたごたしている。
そこにいくら自意識があるっぽい?といってもさらに言葉も喋れないような乳児をマオちゃんに面倒見てくれって頼むはさすがに私も怒る。
「クチナシ。さすがに無理だよ」
「申し訳ありません」
本人的にも分かっているらしく、それを含めての土下座のようだ。
ちなみにこの話し合いが始まってからクチナシは一度も土下座の姿勢を崩していない。
「でも皇帝さんなら誰かに預けるのもあれだし…だけど…でも…」
「マオちゃん落ち着いて」
今は本当にマオちゃんはいろいろと限界なのだ。
時折夜中に汗をびっしょりかいて飛び起きたり、ふと見ると部屋の隅で膝を抱えて震えたりしているし、ご飯も食べられないときもある。
そんな状態で言い方は悪いけど他人の面倒を見るなんて絶対に無理だ。
さてどうしたものかと悩んでいると…。
「私に任せてください」
そんな声が聞こえてきた。
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