第49話龍神少女は人形少女の秘密を解く
「おめおめと逃げ帰った神様が…今さら何の用だ」
「ふむ…まぁその点に関しては少し話をさせるがよい」
クラムソラードはその手に黒く濁った何かを握っており、それをアルギナに見せつけるように差し出した。
「これは…?」
「ワシの能力の一つで奴の「惟神」の一部を奪い取ったものだ」
「これがリリの…?」
「まぁさすがに惟神をあの短時間ではこれが限界だったがな」
「これが逃げた理由だとでも?」
「いや、それはともう一つ…アレにあのまま手を出していたらもっと酷いことになっていたと思ってな。おとなしく身を引いたわけじゃ」
「どういうことだ?」
「アレの惟神にはまだ続きがあるということだ」
神ではないアルギナには詳しくは分からなかったがクラムソラードにはなにか感じることがあったらしいと納得した。
普段は人を見下したような態度を取っているクラムソラードがいつになく真面目な顔をしているためというのもあった。
「まぁそういうわけで、この奪い取った力を少しだけ覗いて見たのだが…いろいろ分かったぞ」
「なに…?」
「まずあの惟神だが…その能力の詳しいところまではわからぬがどういう系統なのかは把握できた」
「今すぐ話せ!」
アルギナはクラムソラードに掴みかかる。
特に気にした様子もないクラムソラードはそのまま話し始めた。
「まずはあのでかいガラクタ…やはりあれは本体ではないな」
「あれを本体だと言ったのはお前のはずだが?」
「ありえないとも言ったであろう?言ってなかったかのう?…まぁよい、そもそも「惟神」とういうのはな神が神であることの証明として現れる力のわけだ。つまり「私は神だ!」とこの世界に宣言しているようなものよな。ゆえにあのような自立行動する惟神はありえない。それだとその動いている奴が神になってしまうではないか?説明が難しいがなんとなくわかるかのう?」
アルギナはゆっくりとうなずいた。
惟神の能力は神である本人に現れる…自立行動する力は自分を神とする能力である惟神ではありえない。
アルギナはそう理解した。
「ではあのでかいガラクタはなんなのか…それに他の大量の人形たちもだ。そこに他人の身体を人形に作り替える力…訳が分からんと言いたいところだがつまり答えは一つだ」
「それは?」
「あの人形の惟神の能力はおそらく「創造」…もしくはそれに準ずる何かだな。産みだし作り替える…そう考えれば少しは説明がつくのではないか?」
「…あの人形たちも全ては惟神の能力で産み出されたと?」
「ああ、それなら惟神の一部と思わしき存在が自立行動していたことに説明がつく」
確かにそれならとアルギナは思った。
べリアの身体もその力で作り替えられたのだとしたら確かに説明はつく…だが。
「だが本当にそうなのなら…創造の力を持った神など…そんな大層な力をリリが持っているというのか!?」
「残念ながらな。それにそういう力を持っているのなら先ほどの魔王の小娘の状況にもつながるだろう?魂だけでは子供などできるはずないのだから」
「たかが…たかが数百年しか存在していない人形だぞ…?あり得るのかそんなことが?」
「そこについてもワシは一つ仮説を立てた」
クラムソラードはその手の中でリリから奪った力を弄んでいるが、その表情は変わらず真面目で深刻そうなものだった。
「仮説だと?」
「うむ。お前は当然パペットモンスターがどうやって召喚されるかは知っておるよな?」
「当たり前だ」
パペットモンスターと呼ばれるものは正確にはモンスターというよりは使い魔のような存在だ。
野生で存在はせず術者が特殊な魔法に専用の人形石と呼ばれるものを触媒にし召喚されるのである。
「あの人形の魔物は同じ触媒を持って召喚される都合上、個体差はほとんど存在せず、戦闘力は術者の力量によるところがほとんどだ。なのに奴はどうだ?明らかに個体として異常な力を持つ上に神にまで覚醒している…そこで私が出した答えだが」
そこでクラムソラードは一度言葉を切った。
視線は手の中の闇に注がれている。
「どうした?」
「…つまりだがあれの召喚に使われた触媒のほうに何かあるのではないかと思ったわけだ」
「触媒に…?」
「ワシの予想だがおそらく神具が使われたのではないかと思っておる」
「神具というとあれか?お前が持っている本のようなものか」
「うむ」
クラムソラードが懐から一冊の本を取り出した。
それはかなり古いもののようで表紙は薄汚れており、隙間に見えるページも変色してしまっている。
「我ら神が惟神を使うための鍵のようなもの…だな」
「それがリリの召喚に使われたと?馬鹿な、パペットモンスターは少し才能があれば子供でも召喚できるような簡単なものだが、あれは人形石を触媒にしなければ成功はしない!もしそれ以外を使えば術は失敗するし触媒も砕け散るはずだ!もし神具など使えば…」
「そやつはいろんな国からボコボコにされるであろうな」
「なら…!」
「だが考えてみよ。奴は神具を持っているような素振りはなかった。貴様も心当たりはあるまい?」
アルギナは記憶を呼び起こしてみるものの確かにリリがそんなものを持っている様子はなかった。
リリの衣服や所持している道具は今は魔王城から支給されているのでおかしなものを持っているということもない。
「しかし、奴が神具を触媒に召喚されたのなら…それは奴の身体が神具ということだ。それなら惟神が使えたことに加え、たかが数百年存在しただけの人形が神性を帯びていたこと、貴様に聞いた存在ごと断ち切る謎の斬撃、膨大な魔力にわけのわからん魔法…異常な身体能力の全てになんとなくだが説明がつくだろう?」
「たしかにそれらは全てリリの身体に備わっている力だが…だがやはり召喚に神具を使うなど…可能なはずが…」
「普通に考えればそうだ。だが何者かがそれを成功させたのだとしたら…あの人形を召喚した者は?」
「…一族の末裔とその組織ごとリリに始末されているらしい」
「ふむ…ならばまずはそこを調べるところからじゃな」
「そこに意味はあるのか?」
「神具が使われているということはその神はすでに死んでいるはずだ。神は殺されるなどの外的要因で死ぬ場合は神具は残るからな。つまり奴の元になった神は何らかの手段で殺されているわけで…神具が何なのかわかれば奴の弱点も判明するかもしれぬぞ」
それは今までの中で一番確率が高い手段に思えた。
もしかすればリリを本当に倒せるかもしれない…。
「クラムソラード…なぜこの事を私に話した」
「なに、お前が言ったようにワシはあいつから逃げた。このワシがたかが人形一体に背を向けて逃げたのだぞ?許せるものかよ…ワシはあいつを殺す…必ずだ。貴様も協力しろ女狐」
「…お前が裏切らない保証がどこにある」
「ない。だがワシは珍しく本気だぞ?メリットしかないと思うが?」
数瞬の思案ののちアルギナは顔を上げた。
「いいだろう。クラムソラード…お前に協力しよう」
「うむ…では早速ワシは行動に移す。お前は落ち着き次第ワシに連絡を取れ。そこで何をするかは指示を出そう」
「私はお前の部下にはならんぞ」
「わかっとるわ。さきほど眷属の契約も切れたみたいだしのう…なぁ貴様…そろそろ神になってはどうだ?」
「・・・」
アルギナは何も言わなかった。
しかしその目は何かを決意したかのように燃えていた。
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