第50話人形少女は平和に過ごす
あれからだいたい一週間くらい経った。
今も私はメイラ(ちゃんづけは辞めて欲しいと言われてしまいました)と一緒にどこか住める場所はないかと探し回っている。
あれ以来みんながなんとなく優しくなってアルギナさんも出かけてるからいろいろ楽になっております。
いや別に好き勝手はやってないよ?こうしてメイラを連れて回る時も魔界の場合はレイちゃんがいないかちゃんと確認とってるしね!
「なかなかいいところないね~」
「あの…私は別に静かにいられるところならどこでも…」
「え~いいじゃん、どうせならいいところ見つけようよ~」
「・・・」
やけに家探しの時のメイラはテンションが低い。
こういうのって一人暮らしだぜ~やっふぅううううう!!ってなるんじゃないの?
まぁいいや、私はもう意地になってるからどれだけメイラが乗り気じゃなくても完璧な住処を探してみせるよ!
「1から家を建てるなんてできないし意外と難しいよね~」
「…ですね」
「あ、そういえばさ最近ちゃんと「食事」してるの?」
「…お腹すいてませんから」
「そっか」
本人がいいって言うのならいいのだろう。
でもそのうち私からご飯を持ってきてあげたほうがいいかもしれない。
「あの!それよりそろそろ休憩にしませんか?私、準備しますよ!」
「う~ん…そだね」
メイラに言われるままに空間移動で魔王城の私の部屋まで戻った。
ぱぱっと支度を済ませるとメイラが紅茶を入れているいい匂いがしてくる。
「別にそんなことしなくてもいいんだよ?」
「いえ私がやりたいんです、気にしないでください」
最近メイラはかいがいしく私の世話を焼くようになって、こうしてお茶をいれてくれたり部屋の掃除をしたり…まるでメイドさんみたいだった。
宿屋の娘さんだったことだけあって手際もいいしお茶も美味しいので好きにさせてるのです。
「でもホント…メイラもご飯食べたくなったら言うんだよ?私の力で外に連れて行ってあげるから」
音を立ててメイラの手から食器が滑り落ち、地面にぶつかり割れた。
「大丈夫?どしたの珍しい」
「い、いえ!何でもありません…すぐに片づけます…」
なんだかよくわからないけれど誰しも失敗はあるよね、うん。
メイラが割れた食器の破片を集めて箱の中に入れた。
「あ、それこっち持ってきて。処分してもらおう」
私は自分の隣の何もない空間をノックするように叩いた。
するとその場所にひびが入る…いや言葉にするとだいぶ奇妙な光景だけどとにかく何もないその空間にひびが入って大きな穴が開く。
その先は真っ黒な空間が広がっていて、果てしない闇が永遠と続いていた。
私はメイラから箱を受け取るとぽ~いっとその闇の中に投げ込む。
「あの…最近よくそれやってますけど大丈夫なんですか…?」
「うん。「中の子」も特に何も言わないし大丈夫だと思うよ」
穴の中に顔を突っ込んで覗き込むと下のほうにこちらを見上げている顔があった。
赤く先の見えないほどに長い髪に私によく似た顔つきの巨大な人形の顔…それとそのさらに少し下に組むようにして浮いているこれまた巨大な手…そう、私が惟神に目覚めたときにどこからともなく出てきたあの人形である。
いつの間にか私はこの不思議空間を自由に開くことができるようになっていて、そこにはこの子がじっと息をひそめている…というわけである。
特に敵意は感じないので試しにお菓子とか投げ込んでいたのだけれど下にぶつかるような音も聞こえないし人形は反応もしないので、物を投げ込むと消えちゃうのかな?と思ったのでゴミの処理をしてもらっているというわけである。
「元気?」
目が合ったのに何も言わないのもあれかなと思って声をかけた。
この子は口がないから喋れないんだけどね…意志がちゃんとあるのかもよくわからない。
少しすると、その大きな腕がこっちらに向かって上がってくる。
今気づいたのだけれどこの子…顔と腕しかないのではないみたい。
こっちに手が伸びてくると闇から腕が姿を見せるので、どうやら闇に隠れているだけで全身ちゃんと存在していそうな感じである。
やがてその手は私の前に差し出すように置かれた。
これは…どういう事だろう?
「メイラ~クッキーちょうだい」
「え?あ、はい」
メイラから渡されたクッキーを手に置いてみる。
「…何も起こりませんね?」
「だね~」
お菓子ちょうだい!ではないようだ…じゃあなんだろう?
「えい」
「リリさん!?」
思い切って手の上に自分で乗ってみた。
するとまるで前世のエレベーターの様に下に降りていく…そしておそらく一番下?まで到着するとそのまま両手でぎゅうっと握りしめられた。
一瞬殺される?とも思ったけれど力はそんなに入ってない感じだ。
これは…もしかして抱きしめられてるの…?
「大丈夫ですか!?」
メイラがパタパタと背中の翼を広げて降りてきた。
飛べたのねあなた。
「うん大丈夫~」
とか言っていると闇の中から伸びてきた無数の人形の腕がメイラを下に引きずり下ろした。
「きゃぁ!?」
「おや」
危ないかな?と思った私の目に飛び込んできた光景はなかなかに愉快なものだった。
闇の中から現れた普通サイズの人形たちはどこから取り出したのかクッションや小さなテーブルなどを取り出しセッティングを始め、最後にはメイラを座らせたのだ。
「…もしかして歓迎されてるのでしょうか?」
「たぶん?」
私を抱えて離さなかったり、メイラをもてなしたり…もしかして寂しかったのかな?
とりあえず手を伸ばしてその大きなほっぺたを撫でる。
「よしよし~そんなに寂しかったのならたまには遊びに来てあげるからね~」
戦いの時は頑張ってくれたし少しくらいは優しくしてあげないとダメだよね~。
そんなこんなでメイラもお茶とお菓子を取り出してくれたので、謎のまったりとした時間を闇の中で楽しんだ。
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