第48話人形少女を止める簡単な方法

「マオちゃん?どうして…」

「このゲートはね、術者に命の危険が迫ったりすると出口が解放されるようになってるんだよ」


「そうなんだ~…ごめんマオちゃんがレザ君のあの魔法の中に隠れてたの完全に忘れてた!」

「うん、でも今はそれよりも」


マオちゃんが今にも握りつぶされそうなレザ君をちらりと見て私に視線を戻す。


「レザを許してあげてくれないかな」


初めて会った時のようにマオちゃんは私にそう言った。


「う~~~~…」

「だめ?レザは私の大切な友達なの。レザが死ぬと私はとっても悲しい」


「でもでもマオちゃん!レザ君はもう二回目なんだよ!」

「そうだね。でもここまでされたんだからきっともう大丈夫だよ」


「そんなのわかんないじゃん!」

「リリ…」


マオちゃんが少しだけ悲しそうな顔をした。

ずるいよそんな顔!だけれど私の中でどうしてもレザ君を許すことはできない。

このままもう殺してしまおうか?

だけどマオちゃんが…。


「もう!マオちゃんは私とレザ君どっちが大切なの!?」


言ってから気が付いた…私はこんなにもマオちゃんの事が大好きだけれど、マオちゃんはもしかしたらレザ君のほうが大切だって答えるかもしれない。

そうなったら私はどうすればいいのだろう?

あぁ…私は今もしかして「怖い」のだろうか…楽しくありたいと思っているのに今こんなにも怖い。


「リリ」

「…っ」


優しく私の名前を呼んだマオちゃんが私の手をそっと握った。


「聞いてリリ。私はレザが大切なの、だけどそれとは別にリリの事も大切で…レザは友達でリリは…私の家族なんでしょう?そういう大切」

「わかんない!よくわからないよマオちゃん…だって友達も家族もいたことなんてないんだもん!」


今度はぎゅっと抱きしめられた。

マオちゃんの温かくて柔らかい身体の感触が伝わってくる。


「わからないならこれから私がゆっくりと教えてあげる…だから今はレザを許してあげて。大切な人が友達を殺すところなんて見たくないよ」

「うぅ…う~~~…うぅぅぅううううううう!!!」


もうそんなこと言われてしまってはレザ君を殺すことなんてできない。

私は「惟神」を解除した。

黒い闇が大きな人形と共に消えていく。

少し前にべリアちゃんの身体も元通りになったので小さな人形たちにも帰ってもらう。


「ありがとうリリ」

「うん…ねえマオちゃん…嫌いになった…?」


「なってないよ」

「ほんと?」


「ほんとほんと」

「うん…」


私もマオちゃんをゆっくりと抱きしめて、しばらくその柔らかさを堪能した。


「レイ、皆を見てあげて」

「わ、わかりまし、た!魔王様!」


レイちゃんが腕をパタパタと振り回しながらまずはレザの元に走り手をかざした。

するとその手からキラキラとした何かがあふれ出しレザを包み込んだ。


「あれは?」

「レイはね特別な力を持っているんだ。ああやって私達魔族を治療してくれる…医者のようなものかな」


「ほぇ~あんなに小さいのにすごいね~」

「うん、いつも助かっているよ…さて」


マオちゃんがアルギナさんの元に歩いて行く。

私がついて行ってもなんだかよくないかもしれないと思って大人しくしておくことにした。



────────


「アルギナ」

「…まさかあそこまでリリを手懐けているとは思わなかった」


「別に手懐けてるわけじゃないよ…だけどこれで安心してくれないかな。リリはこちらから触らなければ害はない…そして私の言うことは聞いてくれる。もう十分でしょう?」

「害はないか…アル、あれはそんな単純なものでは絶対にない。いつか必ず後悔する日が来る」


「だとしてももう引き返せないよ。」

「なんだと…?」


魔王は自分のお腹にそっと手を添えた。


「は…?なんだそれは…おい!アル!?」

「ここに私とリリの…」


「ふざけるな!そんな事あるはずがない!お前とリリのだと!?ありえないだろうが!」


そのありえないにはいくつもの意味があった。

種族に性別…そもそも手段がないだろうということに加えて可能であったとしても魔王がそんな事態に陥るのはかなりまずい。


「ね、おかしいよね。だけど本当だよ。あとでレイに見てもらおうか?」

「本気で言ってるのか…?」


「うん。なんかねリリが小さな魂を持ってたの…ちょっと聞いてみたらうちに来る前に手に入れたんだって。それを少しね」

「本当にそうだとしても魂だけでどうにかなるものか!」


「私もそう思ったんだけどね…だけどここに確かにいるのがわかるの。リリがなにかしたみたいなんだけどね」

「・・・」


アルギナは開いた口がふさがらなかった。

様々な思いがその頭を駆け巡る…それがすべてごっちゃになり彼女の頭脳をこれまでにないほどにかき乱した。


「だからねアルギナ…できれば見守っていてほしい。リリに関してはできるだけ私も注意を払うから」

「それでも私はお前の事が心配なんだ」


「アルギナが心配なのは私じゃなくてレイでしょう」

「っ!アル!!」


「…もちろん私の心配してくれてるのもわかってるよ。だけどアルギナの関心の一番はいつでもレイだよ。自分でもわかってるでしょ」

「私は…!」


「私だってね自分を一番好きでいてくれる人と一緒にいたいの。私を心配してくれるのなら少しだけそっとしておいて」


しばらくして応急処置が済んだレザとべリアをリリが抱えて魔王とレイの二人と共に戻って行ったがアルギナはその場を動けなかった。


「どうやらコテンパンにやられたようじゃなぁ女狐」


いつの間にかその背後にクラムソラードが立っていたのだった。

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