第72話人形少女は命を遊ぶ
皇帝の脳裏に浮かぶのは一つのある考え。
闇から這い出して来る人形はその全てが顔の無い…何の特徴もない人の形をしているだけの人形だった。
そしてその中で例外なのはリリの背後にいる巨大な口の無い彼女にそっくりな人形。
それに火の攻撃をしてきた女性型の赤い髪の人形。破壊の力をもって惟神を破壊した青い髪の男性型の人形。
そして今、目の前いるのはメイラによく似た人形で…。
「まさか…お前…その能力は…」
リリの口が三日月形に歪み笑った。
「【第二幕】命悪戯(いのちあそび) 魂散劇場(たまちりげきじょう)」
次の瞬間、飛び散った皇帝の血が無数の巨大な棘となり闇の世界を走った。
惟神のナイフで斬りつければ元の血に還元され消えるのだが、ナイフ一本で対処できる物量を越えており…皇帝は無数の棘に串刺しにされてしまっていた。
辛うじて急所は守ったが腕も足も棘が貫通しており、動かすことすらままならない。
「うーん…大丈夫?」
「大丈夫そうに…見えるか…?」
喋るたびに皇帝の口からは血がこぼれだしていく。
しかし決して彼女はあきらめてはおらず、その手には光のナイフがまだ輝きを失わずに存在していた。
そしてリリはゆっくりと身動きのできない皇帝に近づいていく。
それは異様な光景だった。
リリに付き従うように後ろに控えながら同じく歩みを進めるメイラに似た人形。
それとは対照的にリリの足にまるで、何かを請うように必死に手を伸ばしながら、しかし繋がれた赤い糸により近づくことができない這いつくばった青と赤の髪の二体の人形。
「はっ…とんだ恐怖体験だ…」
「怖いの?」
風でも吹けば顔同士が触れてしまいそうなほど近づいたリリが、首から歪な音をたてながら横に傾げた。
「お前は…そんな不気味な連中を引き連れて…何、とも思わんのか…?」
リリは後ろに振り替えると少しばかり人形たちを見つめた。
「…言われてみれば少し怖いかも?というか怖いはずだよねコレ。う~ん…やっぱりこういう感性も変わっちゃったのかなぁ?」
そんなことを呟きながらリリが皇帝のほうに向きなおった時、その顔に光のナイフが突き立てられた。
「戦いの最中に油断をしてはいけない。常識だぞ」
完全に捉えたと皇帝は思った。
リリの人形の顔に深々と突き刺さったナイフは、その能力によりリリの顔の半分ほどを砕いて、さらにそこから全身に亀裂が走って行く。
(完全に計画が狂ったな…だがもう殺すしかなかった。手間はかかるがやはり教主の男を神に仕立て上げるしかないか…)
ばしゃばしゃとリリの顔の崩れた部分から大量の赤と青の液体がこぼれ落ちていく。
その光景を見ながら皇帝は実のところ少しだけ安堵していた。
)こいつの惟神…おそらくだが他人の力を自分の人形の能力として使っていた…。そういう能力だけなら理解はできるがこいつの能力は多彩すぎる…訳が分からない。こいつをこのまま放置しておくのは危険だと我の直感が言っている…どこの言葉だったか、触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。だがここからが大変だな…我が悪魔神の手に落ちるまで時間がない…間に合うか…?)
皇帝が今後の事に思考を巡らせていた時、リリの残った瞳がギョロリと動いた。
「痛いなぁ」
「なっ!?」
リリの腕が皇帝の首を掴む。
そこからギリギリと力が加えられていき、万力の様に締め上げた。
「なんで…おま、生きて…」
「さぁ~?」
離している間にもリリの身体が逆再生の様に修復されていく。
そして皇帝は気づいた。リリの背後、青い髪の男性型の人形がリリに反比例するように崩れていく。
まるでそのダメージを肩代わりしているかのように…。
「そんな…こと、が…」
「ねーねー死ぬのって怖い?」
リリが子供のような無邪気な声で皇帝に問いかけた。
「はぁ…?」
「怖い?どうなの?」
「さぁな…我はもうそういう段階は通り過ぎた」
「そっかぁ~…じゃあもうういや。ばいばい」
リリの首を掴む腕に一気に力が加えられた。
だがその瞬間、皇帝も力を振り絞り光のナイフでリリの腕を切り裂き、逃れた。
「ありゃりゃ」
なんとも気の抜ける声を出すリリだが、切り離された腕の再生はすでに終わっており、皇帝の惟神はリリにほとんど有効打を与えられなくなっていた。
「…お前は…一体何なんだ」
「あれ?リリですってちゃんと自己紹介したよね?」
「そんな事を聞いてるんじゃないわ!!」
惟神を構え、今度こそリリの息の根を止めようと動き出そうとした皇帝だったがその腕に何かが絡みつくように囚われており動けなかった。
それは赤い髪の女性型の人形だった。そして目の前にはいつの間にかリリがいて、上空からも巨大な人形がその大きな瞳で皇帝を見つめていた。
「…ここまでか」
「うん。もういい?」
「今からお前の要求を全て飲むと言ったら許してもらえるか?」
「ん~…殺しちゃったほうがめんどくさくない気もするし、そうしてもらったほうがいい気もする」
「なら…」
「だけどこうやって悩むのもめんどくさいから、もう死んでほしいの」
リリの刃が無造作に皇帝の首に向かっていく。
あと瞬きをする程度の時間で皇帝の命は散るだろう…今の皇帝はもちろん子をなしてなどいない。
つまり今殺されてしまえば本当に死を迎えることになるだろう。
それを悟り、ゆっくりと皇帝は目を閉じた。
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