第19話人形少女は盲目少女に出会う

 神都…大層な名前がついてるけど結局はどういう場所なのここ?国?町?

そんな情報も一切なし!

そしてこの国で何をするのか…その指定もなし!アルギナさんからは最終的に有益だと思える何かを持ち帰って来いとだけ言われているので本当に手探りだ。

何から始めようか…?こういう時って何からするのが正解なんだろうか?


「うーん…」


辺りを見渡す。

うむ、真っ暗だ!深夜だからね!これはまずすることは寝床探しかなぁ?

こういうところって宿屋とかあるのかな…というか開いてるのか?時間的に。

そんなわけで私はしばらくの張り込みで疲れた体を癒すために魔法を発動したのだった。


_________


同時刻、魔王城にて。


「アルギナ、少し休憩にしよう」

「はぁ、そうだな」


魔王とアルギナは二人で仕事をしていた。

リリがガグレールとその配下を殺害してしまったせいで足りなくなってしまった人手を補うべく毎日のように激務に追われていたのだ。


「馬鹿だったとはいえガグレールも地位は高かったからな…面倒なことになってしまったものだ」

「付き合わせてすまないアルギナ」


「まぁ半分くらいは仕組んだの私だからな…後処理くらいは手伝うさ」


二人が疲労した身体に紅茶を流し込んでいく。

しばらくほとんど睡眠をとれていないので目元に隈がうっすらとだが浮かんでいる。

そんな時だった何者かが背後から魔王の顔を両手で覆った。


「魔王様!!」


アルギナは立ち上がり、臨戦態勢をとったが魔王は特に気にすることなく、その手に自分の手を重ねた。


「この独特な硬さにかすかな音…リリだ」

「正解~さっすがマオちゃん~」


腕だけしか見えていなかったその姿があらわになる。

空間から這い出すようにリリがその姿を見せたのだ。


「…心臓に悪い登場をしないでもらいたいな」

「ごめんごめん~アルギナさんまでいるとは思わなくてさ」


謝りつつもリリは魔王にべったりとくっつき楽しそうに微笑んでいる。

そして魔王もそれを拒絶することなく受け入れていた。


「ん、くすぐったいぞ…ところでリリ、急に帰ってきてどうしたんだ?問題か?」

「んーん。寝るところがないから帰って来たの!」


神都に入れたのが深夜だから止まる場所がない、との説明を聞いたアルギナは諭すようにリリに話しかける。


「いいかリリ。それをどうするかも検査のうちだ。いちいち魔法で戻ってくるならわざわざ条件を厳しくしている意味がないじゃないか。そうだろう?」

「え~!それもだめなの~?」


「ああダメだ。魔王様も何か言ってあげなよ」

「私は別に少しくらいならいいんじゃないかと思っているが…」

「マオちゃんは優しいなぁ~すりすり~!」


リリが魔王の頬に自分の頬をこすりつける。


「あぁ~痛い。リリ、それは少し痛い君の頬は私には硬すぎる」

「おっと、ごめん」

「いいから、さっさと仕事に戻れ?」


アルギナは強制的にリリを追い出し、魔王を仕事に戻したのだった。



_________


「ちぇ~今日一日くらいいじゃんか~アルギナさんは厳しいなぁ」


そんな愚痴をぼやきながら魔法で神都に戻る。

一度行ったことある場所なら瞬時に空間を移動できる魔法を思いついたのだけど、これはかなり便利なので重宝しそうだった。

しかし、ちょっと油断してしまっていたのか…空間を通り抜けた先で人にぶつかってしまった。


「いたた…」


見るとそれはエプロンのようなものをつけた女の子だった。

大きな籠のようなものを持っていて、ぶつかった拍子にバランスを崩してしまったらしい。

魔法を使って移動してきたところを見られてしまった。そして悪い事に今、手袋など外していたし色々とまずいかもしれない。


殺そう。


私は先ほどの男から拝借したナイフを取り出した。


「あ、あの…すみません。気を付けるようにはしていたのですが…お怪我はありませんか?」


少女は私に声をかけながら探るように手を動かしていた。

何をしているんだ?深夜だから周りが見えてない?いや、わずかだが明かりはある…じゃあいったい?

私は少女にナイフを突きつけてみた。


「…えっと、そこにどなたかいらっしゃいますよね?もしかしてどこか痛めてしまいましたか!?」


まるでナイフが見えていないように話ながら少女が手を伸ばしてきた。

いや、この子…本当に見えてない?


「いや、ごめんねこっちもよそ見してたからさ」

「ああ!よかった、無事なんですね…あのご手数でなければ私の荷物がどこかに落ちてはいないでしょうか」


私は落ちていた籠を拾い上げると少女の前に差し出した。

しかしやはり少女はそれに気づかず地面を探っている。


「…君、目が見えてないの?」

「あ…えっと…はい」


なるほど、盲目の少女か。じゃあ殺さなくてもいっか!

ナイフなんて危ない物は仕舞っておこう。怪我でもしたら大変だしね。


「はいこれ、籠」

「わぁ!ありがとうございます!」


「いえいえ」

「…あなたいい人なんですね」


少女がにっこりと笑った。

え?いい人…?悪い人ではないつもりだけどなんで突然?


「ん~?」

「私の目が見えてないって知ったのに何も盗らなかったから。籠の重さが変わってませんので」


「へぇ~そういうのもわかるんだ?」

「はい!これでも見えないなりに他の部分は敏感なんです!普段は人の気配もわかるんですけど気が抜けてたのかぶつかる直前まであなたのことわからなくて…本当にすみません」


「いやいやいいよ~こっちもよそ見しちゃってたって言ったでしょう?」

「ふふっありがとうございます。もしや旅のお方ですか?」


「なんでそう思うの?」

「あまり感じたことのない気配ですし…それに不思議な音がするので。キィキィと何かが軋む音というか…」


「ああそうなんだ。うん正解~少し前についたんだけど寝床がなくてさ~困ってたんだ。あとその不思議な音ってのはパペットの音かな?人形遣いなんだ私」

「へぇ~!すごいですね~!…あ、もしよければうちに来ますか?」


「うち?」

「はい!宿屋なんです。私の家」


これはとんでもない棚ぼただ!とってもラッキー!

やっぱりマオちゃんと少しでもイチャイチャできたのが効いたのかもしれない!


「あ、でもお金足りるかな?」

「もしかしてあまり持ってない感じですか?」


「うん~これくらいしかなくて」


これまた先ほどの男から譲ってもらったお金の入った袋取り出す。


「どれくらいでしょう?」

「あ、見えないんだったね」


となれば説明しなければいけないんだけど…どうしよう?これがどれくらいのお金なのかわからないし…かといってわからないというのも怪しまれてしまう気がするし…。

どうしようかと軽く袋を振ってみる。


「あら、今の音は金貨ですか?それもいっぱい!お金持ちじゃないですか!」

「え、今のでわかったの?」


「耳もいいので!」

「すごいもんだね~…これくらいのお金で泊まれる?」


「当たり前ですよ!金貨一枚で数週間は泊まれますよ!」

「おやまぁ」


もしやこの中身って結構な大金なのか…?

金貨一枚で数週間…この袋の中身は数えたわけではないけれど数十枚は絶対に入ってる。

金銭面では問題ないかもしれないなぁ~いい事だ。


「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな!」

「はいっぜひぜひ!あ!私はメイラって言います!」


「私はリリ。よろしくね」

「はいっリリさんよろしくです!」


こうして私は本日の寝床をゲットしたのだった。

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