第18話人形少女は神都に入りたい

「じゃあ行ってくるね~」

「ああ、気を付けて」


そんなマオちゃんとの感動(?)の別れを終えて、約四日、私は最大のピンチを迎えていた。

変装は完ぺきだ。アルギナさんが用意してくれた黒いドレスは首元からつま先までを覆い隠すデザインになっており、私の人形的関節が見えないようになっていた。同じデザインの手袋をすることで指関節も見えなくなるし、上を見上げると首の付け根が見えてしまうと思うけどまぁ大丈夫だろう。

顔もお化粧を施すことで印象が変わってみるようになったし安心である。

ちなみに私が動く時に出る関節などが軋む独特な音だが…私自身が人形遣いと偽装して小さなパペットを持ち歩くことでごまかすことにした。

そもそも注意して聞くとか静かな場所でとかではない限りはそんなに大きく目立つ音じゃないし大丈夫だろう。

そんな死角なしの私が直面した最大のピンチ…それは検問である。

神都についた~と思いきや中に入るのに検問を受けなくてはいけないらしく…身体検査とかあるので触られたら一発アウトの私にはかなり厳しいのである。


「どうしたものかな~?」


そこそこ離れた位置でずっと様子を伺っているのだけど交代制で24時間ずっと検問しているらしく隙がない。

そして神都の周りは…というかこの世界の主要都市などは高い壁でぐるっと囲まれた造形が多いらしく上から侵入することもできない…いや侵入自体はできると思うけれど絶対に着地するときバレる気がするし、なんか空からくるモンスターとか用の罠とかあったら嫌だ。

というわけですでに二日くらいこの状態です。


「あぁ~これをどうするかも評価の対象なのかもしれないけれど、教えてくれてたっていいじゃん~アルギナさんは意地悪だなぁ…」


とにかく中に入らないと始まらないわけだし…今は人気の少ない深夜…検問している鎧を着た人間は二人…サクッと殺してしまえば入れない事もない。

それがいい気がするなぁ…。


「よし、やるか」


この服、いつもの服と違って腕が露出していないので腕から刃を出すと服を破ってしまうので、拳で行く。

さぁれっつらごー。


「およ?」


私が方針を決めた直後、運のいい事に検問の二人が死んだ。

なんか突然現れた黒ずくめの人間たちが鮮やかな手口でサクッとやってしまったのだ。

もしかしてアルギナさんかマオちゃんが手助けしてくれたのかな?


いや…そんな感じじゃないなぁ~それに完全に人間だし。

もしかして私と同じように侵入したい人たちだったのかな?

男たちはそのまま音もなく検問を抜け、神都に入っていった。


「やっぱりそうか~、よし!私も便乗させてもらおう」


誰にも気づかれないようにこっそりと、それでいて素早く入口に近づく。

検問していた二人の死体が目に入ったが首に穴が開いていた。

何かで一突きされた感じかな?あっさりとすぐに死んじゃってたから毒とか使ってるのかも?


「怖いことするなぁ人間って」


まぁいいかとやたらと豪華な入り口を抜けようとした時、上から何かが落ちてきた。

それは黒ずくめの男だった。

どうやら一人だけ残っていたらしい。


「貴様、何者だ」


男に先のとがった武器のようなものを向けられる。

アイスピックとかに近いかもしれない。先端をよく見ると少し濡れているように見えるから、やっぱり毒が塗ってありそうな感じだ。


「え~と私はあなた達と同じ目的…みたいな?」


不法侵入しようとしてる者どうしなのだから間違ってはないはず!


「この作戦に女はいないと聞いている。もう一度聞く、何者だ」

「う~ん…困ったなぁ…」


どうしようか悩んでいると男は武器を胸に向かって突き出してきた。

とっさに避けたけど…なんて短気な人なんだ!カルシウム取りなさい、まったく!


「避けただと…?貴様…まさか別の同業か?」

「え…知らないけど」


同業?まさか魔王様の部下…じゃないよねどう見ても。

あぁ~なんかめんどくさくなってきたなぁ。


「貴様を生かしておくわけにはいかないな。今横槍を入れられるわけには行かないからな。恨むなら貴様の依頼主を恨め」


男が再び武器を突き出してくる。

さっきよりも早い…だけど遅い。

私は男の腕を掴みそのまま、ぐいっと曲げて自らを武器で突き刺すようにしてみた。


「お、うまく行った」

「がっ…!?がふっ…!?」


武器が自分の胸に突き刺さった男が血を吐き倒れる。

なんか…かなり苦しそうだしやっぱり毒だなこれ。


「毒なんて物騒なもの使うからそうなっちゃうんだよ~反省しなさい!」

「きさ、ま…なにものだ…!?」


最初にされた質問を繰り返された。

答える義理はないでござる…キリッ!なんちゃって。


「さぁ何者でしょう~?」

「くっ…ぐぇぇ…!」


そうとう苦しそうだがなかなか死なない。

あ、もしかして自分たちの使う毒に耐性がある系かな?あるよね~そういうの。

じゃあこれって演技?すげ~迫真だよ。


「おや?」


男の懐から何かがこぼれ落ちた。

それは袋のようなもので、中からは金色のコインのようなものが見えていた。

…あ!もしかしてお金!?そうだよ人間の町に入るならお金がいるじゃん!無一文だったよ私!?

危ない危ない…まぁでも気づけて良かった…。


「このお金貰っていい?」

「うぐぅ…げほっ!」


男は苦しむばかりで返事をしない。ということは貰っていいってことかな?


「ではありがたく…」


私がお金に手を伸ばした瞬間、男が今度はナイフのようなものを突き出してきた。


「かかったな馬鹿が!」


私はそのナイフを男の腕ごと奪った。


「…え?俺の腕…?」


もぎ取った男の腕をぽいと捨ててナイフだけ懐にしまう。

こういうのもあったほうが使い道はあるよね~、おっといけない、お金も回収しておかなくては。

うむ、なんか一気にいろいろ揃ったな!満足満足。


「腕が…う、うわぁあああ、」


男が叫びかけたので眉間の部分を殴った。全力で殴るとつぶれちゃって返り血とか浴びてしまうかもしれないから弱めにね。

それでも男は動かなくなった。


「…死んだはずだけど一応、念には念を入れておこう」


男の首を踏んで力をこめる。

ゴリっ!という感触と共に骨が砕ける音がした。


「いろいろ譲ってくれてありがとうね。おやすみなさい」


こうして私は目的地へと無事に入ることができたのだった。

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