第17話人形少女は仕事を貰う
あの後、敵を倒せたしマオちゃんも守れてスッキリしていた私だが、魔王の間を汚してしまったので掃除が大変だった…。
血ってなんであんなに取れにくいんだろうな~…今度からはあまり散らかさないようにしないと。
でもでもいいこともあった。
「リリ、そろそろ休憩にしないか?」
「うん、するぅ~」
マオちゃんがいい匂いのする紅茶を入れてくれる。
そう、なんと私…飲食ができたのだ!!!!これはすごい発見ですよ…楽しみが広がるからね!
そしてそしてマオちゃんが少しだけ私に優しくなった。
「今日は私のお気に入りの菓子を用意してもらったんだ。リリの口にも合うといいんだけど」
「へぇ~!どれどれ?」
こうして駄々をこねないでもお茶に誘ってくれるようになったし、会話も積極的にしてくれるようになった。
「あ、おいしー!」
「そうか、良かったよ」
「ありがとうマオちゃん!」
「おっと…」
さりげなく抱き着いてみるけども抵抗することなく受け入れてくれている。
うんうん、どうやら私は無事にマオちゃんの好感度を稼ぐことに成功したらしい。
頑張ったかいがあったね!
そんな日がしばらく続いた後、アルギナさんから呼ばれた。
「呼びつけてすまないね」
「んーんー、いいよ~」
いつものアルギナさんの部屋に私とマオちゃんとアルギナさんの三人で座っている。
部屋がめちゃくちゃ広いせいでなんだか落ち着かないなぁ…。
「それでアルギナ、急にどうしたんだ?」
「いやなに、そろそろリリにも何か仕事をしてもらおうと思ってね」
なんですと?
お仕事するんですか私が!なんてこったい…。
「それは…どうなんだ?」
「いやここにいる以上は働いてもらわないと、さすがに他の者に示しがつかないだろう?縁もゆかりもないパペットをこの城にただで止めておくなど不満の元だ」
なるほど確かに、一理あるね!
最近ずっとくっちゃねしてたし…申し訳なさがなかったわけでもないのでいい機会かもしれない。
それに仕事をふってくれるということはだよ?このままここにいてもいいということになるよね?
正式にここの一員と認めてくれるのならやぶさかではない私だよ。
「いいよ~何をすればいいの?」
「…いいのかリリ?」
「だいじょ~ぶ!心配しないでマオちゃん!」
「・・・」
「乗り気でいてくれるなら嬉しいよ。さて、頼みたい仕事なんだが」
「うん」
「人間の調査をお願いしたいんだが、どうだ?」
人間の調査とな。
え、なにそれ。なんで私にそれを頼むの…?
「…え~と、具体的にはどうすれば?」
「君がレザと出会った場所の近くに人間たちには神都と呼ばれている場所がある…そこに出向いて何かしら情報を持ち帰ってほしいんだ」
「待てアルギナ。それを…リリに頼むのか…?」
マオちゃんが困惑してるけどやっぱりそういう反応になるよね?
なんで私にそれを頼むの感がすごい。
「これはテストも兼ねている」
「テストですとな?」
「ああ。まぁいわゆる適性検査…というやつかな。こちらからは特に指示も出さないし干渉もほぼしない。何をするも自由だ。そしてリリがどう行動するかを見たい…というものなんだがどうだ?あぁ、もちろん普通に調査をしたいというのもあるがね」
「私は別にいいけど…どうなってもいいの?やり方とか何も知らないけれど?」
「ああ、構わない。それを含めての適性検査だ…その後こちらでの君にやってもらう仕事には影響すると思うが結果や過程はどうなっても問題にはしないよ」
まぁそれなら別に断る理由はない気がする。
多少、無理やりな気がしないでもないけれど最初に適性を見るのは大事だしね。
もし人間たちに私の正体がばれたとしても今はもう支配される危険はないので気楽だし。
「うん、いいよ。私行くよ~」
「だがリリが人間の土地に行くとすぐにばれないか?」
「そこを考えてもらうのも、検査の内だな」
そうだよね~シルエットは人間なんだけど関節が見えたらアウトだよね~。
あとは結構私って有名らしいから顔がそもそもばれてる可能性もあるし…。
「う~ん…関節は身体をすっぽりと覆える服を着て手袋でもしてればいいかなぁ?顔はどうしよう?髪を束ねてお化粧でもしようかな?」
割と行けそうな気がしてきたね。
変装は十分なのではないだろうか?
「いや、それだけだとリリの「音」はごまかせないのではないか?」
「音?」
「リリの関節の音だ」
「あ」
それもあったか~どうしたものかなぁ?
「私からの提案として…」
何か提案をしてくれようとしたアルギナさんが何故か少しだけ汗をにじませた顔で唾を飲み込む。
え、なにその挙動。
「…提案として誰かに人形遣いのフリをしてもらうというのはどうだろうか?人形遣いに使役されているパペット…という演技をするなら楽ではないか?」
「アルギナ!」
アルギナさんを見つめる。
何故か緊張しているみたいだけれど…なかなかいいアイデアじゃないかなそれ!変装とかもしなくていいし!
「アルギナさんそれすっごいいいアイデア!」
「…ふぅ…ここは大丈夫なラインなのか…」
アルギナさんはハンカチで汗をぬぐっていた。
さっきからどうしたのだろうか?熱いのかな?部屋の温度下げればいいのに。エアコンとかないのかな?この世界の技術レベルがわからん。
「じゃあ早速誰かに声をかけて…」
「いや、リリすまん。提案しておいてなんだが…今はレザもべリアも忙しくてな。魔王様も外に出すわけにはいかんし…人員がいなかった。忘れてくれ」
「ええー!?なんだよそれー!」
「悪かったよ。お詫びに衣服はこちらで用意するから許してくれ」
他の人を連れてくればいいのでは?と思わないこともなかったが別にいいか…。
そんなこんなで私の初お仕事…という名の無茶ぶりに思えなくもないが、とにかく始まったのだった。
_________
リリが準備のために部屋を去った後、残された魔王とアルギナは静かに見つめ合っていた。
「どういうつもりなんだ?アルギナ」
「理由は話したと思うが?」
「それだけが目的じゃないだろうに。話の持っていき方が無茶苦茶だ」
「結構うまくやれたと思うんだけどね」
「それにリリを普通のパペットに偽装させるなんて提案…心臓が縮み上がったぞ」
「どこまでアレが物事を許容してくれるのか…誰かが試さないといけないからな。若者にはやらせられんだろうさ」
はははと乾いた笑いをするアルギナに魔王はため息をついた。
「それで何が狙いなんだ?」
「一番の理由はあれをできるだけ近くに置きたくないから…次に毎度言っているがリリの行動確認だ。人間の中に放り込んだ場合どういうリアクションを起こすのか…あれに限ってはデータを集めすぎるということは無いからな」
「なるほどな…期間は決めているのか?」
「いや…できれば数年は帰ってきてほしくはないところだが…どうした?なんでそんな顔をする?」
「?」
アルギナに表情を指摘された魔王だったが、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
「…魔王様。前にも言ったな」
「なにをだ?」
「アレに気を許すなと」
「・・・」
「絶対にろくなことにはならん。お前には自由に生きて欲しかったと、こうなった今でも思っている…だから私はいつだってお前の行動は縛らなかった。だが今回だけはおとなしく私の言うことを聞いておけ」
「わかっているさ」
しかし指摘されたからこそ、魔王は自分でも気づいてなかった気持ちを理解していた。
魔王はそう、
(私は…リリが離れていくことを「寂しい」と思ってしまっていたのか…?)
そして、リリが神都に赴く日がやってきた。
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