第16話老獪魔族は事態を重く見る

監視下で行われた惨劇を見つめ…アルギナこと私は大きくため息をついた。

魔法でずっと魔王の間を見ていたのだがリリのどうしようもなさを見せつけられた。


「最悪だな…どうしたものか…とりあえずは情報の共有だな」


魔法でレザとべリアを呼びつける。

ものの数分で二人はここまでやってきた。そもそも近くに待機してもらってたのだから当然か。


「アルギナ様。なにかあったの?」

「突然の呼び出しだからいい報告ではないと思うが…」

「はいご名答。たった今、ガグレールが死にましたとさ」


「な!ガグレールが!?なんで!?」

「あぁ、まぁとうとうクーデターを起こしてなぁ…」

「なんだって!?」


二人は驚いた顔をしている。まぁ仕方ない事だ。

もともとその兆候があったとは言え突然のクーデターに死亡報告…混乱するなというほうが無茶だろう。


「魔王様は無事なの!?」

「ああ。ほら見てみろ」


魔法で映し出された映像を二人に見せた。

血の海の中でどういう感情なのか微笑んでいるリリの姿が映し出されている。


「まさか…リリが全部やったのか…?」

「そうだ。ガグレール含めて100人いないくらいか…まだ乗り込んでこなかった雑兵はちらほらいるかもだがな」


正直予想外だった。

リリの戦闘力を少しだけ侮っていたようだ。

ガグレールは決して弱くはない。でかい口を叩くだけあって実力はそこそこだ。

いや、もちろんレザとべリアが戦って実質負けていることからガグレール一人に期待していたわけではないが数の暴力も通用しないと来た。

さてさて…どうしたものか。


「アルギナ様、一つ聞いてもいいか?」

「どうぞ」


「…どうしてガグレールはこのタイミングでクーデターなんて起こしたんです?」

「私たちが出払っていたからだろうな」


「それを指示したのはアルギナ様だ」

「そうだな」


レザは気づいてるらしい。

まぁ別に隠す気もないので気づかれたからなんだという話でもない。


「ちょっとレザ、あたしにもわかるように言いなさいよ」

「…この事件を仕組んだのがアルギナ様ってことだ」

「はい正解」


とりあえず拍手を送っておく。


「え…なんでそんなことを…?」

「端的に言うのならば…この状況下でのリリの対応を知りたかったってのが大きいね」


魔王様と二人っきりの時に魔王様に何かあった場合、リリがどう出るのか知りたかった…そういう事だ。


「魔王様が危険だったかもしれません」

「そこはちゃんとやってる。いつでも魔王は逃がせるようにしてた」


「しかし!」

「私たちはリリの事を知らないといけない。あれは扱い方を間違えるとそれこそ終わりだ。お前たちもそれは肌で実感しただろう?」

「・・・」


二人はもちろんの事、この私もリリに対して恐怖感を払しょくすることができない。

いつ以来だろうか…この私が他人を怖がるなんて。

だからこそ、何としてでもリリの事を知らなければならないのだ。


「一応はどう転んでもいいようにはしていた。ガグレールが痛い目を見れば反乱の芽をつぶせるしリリがダメージを負えばそこから対処法を確立できたかもしれない…」


なんなら死んでくれても良かった。

言葉にはしなかったが偽らざる本音だ。


「しかし結果は最悪。ガグレールとその思想に傾倒していた魔族は根こそぎ殺され、こちらは危険ではあったが有力な戦力を失い、ただただリリの異常性を見せつけられただけだ」

「…アルギナ様。率直に言ってリリをどうこうすることは可能なのですか?」


レザの質問にどう返答しようか少しばかり思案する。


「…どうだろうな。確固たる個体として存在しているのだから滅ぼすこともできるはず…と言いたいがならばどうすれば?と聞かれても困る…といった感じか今のところ」

「あたしたち全員で挑んでも…だめですか」


「べリアは勝てると思うのか?」

「・・・」


べリアのその沈黙が答えだった。

現在は対処は不可能…そう結論付けるしかない。

あらためて映像に目を向ける。


リリと目が合った。


「っ!」


映像の中のリリがこちらに手を伸ばしてきて…そのまま空間を貫いて人形の腕が姿を現した。


ギギギギギギ

キィィィィ

歪なその音が私たちの耳に届く。

レザとべリアはその身体を激しく震わせていた。そして私も…。

そしてその綺麗な顔が、私の前に現れる。


「あ!やっぱりアルギナさんだ!レザ君とべリアちゃんもやっほー!」


私たちの気持ちをよそに明るい声で話しかけてくるその態度がさらに恐怖を煽る。


「…やぁリリ。どうかしたのかい」

「アルギナさんがずっと見てたみたいだからさ!もしかしたらあの人たち殺しちゃいけなかったのかな?って!ごめんね」


気づかれていた。

前回の反省を生かして今回は限界まで魔力をしぼり…そしてリリには干渉しないようにしていた。

それでも気づかれるのならもはやお手上げだ。


「いや気にしないでくれ…気分を害してしまったのなら悪かったね」

「ううん!別に大丈夫だよ!それだけ確認したかったの~じゃあね~」


リリが引き返して空間も閉じた。

そして映像の中でこちらに向かって笑顔で手を振っている。

私は魔法を解除して映像を消した。これ以上は見たくなかった。


「ね、ねぇ…あたしはよくわからなかったけど…今のってゲートじゃなかったよね…?」


そう、問題はそこだ。

私たちが移動に使っているゲートは別空間に道を開き、その出口を目的の場所に開くことで道筋を大幅にショートカットできるという魔法である。

つまりはゲートの中は移動しなくてはいけないため瞬間的な移動はできないのだ。

あくまで近道をする魔法なのだから。

だが今のは…リリが伸ばした手が直接ここまで届いた。

空間と空間をゼロ距離でつないでいた。


「…やはりだめだな」


アレをこのままにするのはリスクが大きすぎる。

早急に手を考えるべきだ。


あまり気は乗らないが「龍族」に声をかけてみるべきか…もしくは人間の勇者…。

人の世に伝わる魔を滅する聖剣とやらならばあるいは…。


「とにかく今は少しでもリリを遠ざけよう…魔王様のところに置いておくのも限界だ」


今回は危ない橋を渡らせてしまったが魔王様はあの子が幼いころから面倒を見てきた子供のようなものだ。

リリの危険性は十分わかった。

私はこれからの事に思考を巡らせていくのだった。

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