第20話人形少女は街を歩く

 メイラちゃんに案内されて夜道を歩く。

それにしても杖なんかもなしですいすいと歩いていくのすごいなぁ…本当に見えていないのか疑いたくなってくるほどだ。

まぁ嘘ついてるわけではもちろんないんだろうけど…何かありそうな気配を感じる…気がする。


「あ、リリさんここです!」

「ん!」


メイラちゃんが指さした場所はなかなか立派な宿だった。

ここならゆっくり出来そうである。


「ただいま~」


メイラちゃんが扉を開けて中に入った。

すると大きな足音を立てながら、恰幅のいいおばさんと身体つきのがっしりとしたおじさんが現れた。


「メイラ!夜中に出歩いちゃだめって言ったでしょう!?」

「そうだぞ!何かあったらどうするんだ!」

「も~お父さん、お母さん二人とも心配しすぎだって。はいこれ、足りない分の野菜とか薬やらいろいろもらってきたよ」


どうやら二人はメイラの両親らしい。

家族経営の宿…なのかな?


「…家族か」


私にはよくわからないものだ。

今さら知りたいとも思わないけどさ。


「あ!それよりお客さんだよ!リリさんこっちこっち!」


呼ばれたので私も宿に入り、ぺこりとお辞儀をする。

こういうの大事だからね!


「お客さん?」

「うん!そこであったリリさん!泊まる場所無くて困ってたんだって。まだ部屋空いてたよね?」

「あらあらそれはそれは、すぐにお部屋を用意するわね」

「ありがと~」


おばさんが近くの階段を駆け上がっていったのを見届けると、こっちにどうぞ~とメイラに椅子を勧められたので遠慮なく座った。


「ふむ…ずいぶん若く見えるが一人旅かい?」

「そんなかんじです~一応お仕事なんですけどね」


おじさんが飲み物を持ってきてくれたのでそれを飲みながら世間話をして時間をつぶす。


「なるほど~大変なんだね。お金はあるのかい?当てがあるならしばらくはつけにしてあげるけど」

「ああ大丈夫です。はいこれ」


金貨を一枚取り出しておじさんに手渡した。


「むむ!金貨を出すとは…儲かってるんだね」

「そう!リリさんお金持ちなんだよ!」


飲み物を片手にメイラが私の隣に座った。


「仕事は何をしてるんだい?」


あ~…これってなんて答えればいいんだろう?スパイです!っていうわけにもいかないし。

う~ん。


「人形遣いって言ってたよね?」


それだ!

いやそれか?人形遣いって職なのか?ジョブではあると思うけど、そういう意味でも職業なのか!?


「へぇ~なにか芸のようなものでもできるのかい?」

「あ~まぁほどほどにですが」


大道芸人みたいなものだと思われてる…?この世界って人形遣いってそんな感じなのかな?


「ふむふむ。よっぽど腕がいいんだろうね~。とりあえず金貨一枚でそうだな…3週間ほどならうちでは三食食事付きで泊まれるけどどうする?」


おお~!すっごいじゃん金貨!食事までついてくるなんて!

まぁ私って眠る必要も食べる必要もないんですけどね!

でも私は寝るし食べるよ!眠ると気持ちいいし、食べると美味しいからね。


「じゃあそれでお願いします~」

「わかった。前払いって形だから精いっぱいサービスさせてもらうよ」

「部屋の準備できたよ~」


上からおばさんの声が聞こえた。

その後は今日はもう時間も遅いし寝ようということになったので私は部屋に入って大きなベッドにダイブしたのだった。

そこそこ広いしベッドは柔らかくて気持ちいい…ここは当たりだね、うん。

私は実に4日ぶりの睡眠を楽しんだのだった。


翌朝、目が覚めるとなにやら下が騒がしかったので覗いて見るとメイラ達が忙しそうに駆け回っていた。

宿だしそりゃ忙しいよね。泊ってる客も私だけじゃないだろうし。


「あ!リリさんおはよう!」

「おはようメイラちゃん」


「ごめんね!今すぐお母さんに言って朝ごはん準備してもらうから!」


メイラも忙しく駆け回っているし、話を聞くにおばさんが料理をしているのだろうか?

なんだか忙しそうで申し訳ない気持ちになるなぁ。


「ん~忙しそうだし私はいいよ~」

「だ、だめだよ!ちゃんとお金は貰ってるんだからリリさんはお客さん、私たちは仕事!なんだから遠慮しないで!」


そう言われてもな~。人がいっぱいだし…正直あんまり人が多いのは好きじゃない…気がする。


「やっぱ今日のところはいいよ。それじゃ」

「あ、リリさん!?」


私はメイラの言葉を振り切って走って外に出た。

昨日は夜中だからあんまりわからなかったけど…めっちゃ白い。

建物がだいたい白いのだここ。

不思議な場所だなぁ~少し見て回ろうかな?


「お、そこの姉さん!この冷やし串買わないかい?」

「およ?」


なにやら馬車みたいな物の前に立ったおじさんに声をかけられた。

これは…もしかして出店的な?

見ると串に刺さった果物のようなものが並んでいた。


「よく冷えてて甘いよ!どうだい?」

「ほうほう…じゃあ一本貰おうかな。この赤いのがいいな」


「はい毎度!一本20コルだよ!」


いやいくらだよそれ。

…そうだここでお金の価値を調べておくのはどうだろう?

私は一枚金貨を取り出すとおじさんに渡した。


「お、金貨かい!?」

「ダメ?お釣りはない?」


「いやあるよ、ちょっと待ってね!え~っと、ひぃふぅみぃ…」


おじさんがお釣りであろう銀と銅のコインを並べていくのを見つめる。


「はい!これお釣りね!確認してくれ」

「なんだか悪いね数えさせちゃって。お詫びにもう2本ほど買うよ~。黄色いのと青いのもちょうだい」


「おお!気前いいね姉さん!じゃあ40コル貰っておくね」


お釣りからおじさんが40コル分のコインを引いた。

よし、これで大まかなお金の価値が分かった。ありがとうおじさん。


というわけで街の探索に戻る。

冷やし串をつまみながら歩いているのだけど、なかなか美味しい。明日からもリピートしてしまうかもしれない。


「リリさーん!」

「ん?」


呼ばれた気がしたので振り向くとメイラが手を振りながら走ってきていた。

ちなみにだが後ろから声が聞こえたら視覚に頼らず振り向くようにしている。


「どうしたのメイラちゃん。お仕事は?」

「お母さん達が町の案内してやれって」


「あらら、気を遣わせちゃった~?」

「ううん!これも仕事だから気にしないで!」


「そっか。そうだこれ食べる?」

「わぁ冷やし串だ!いいんです?」


「いいよ、買いすぎちゃったし」

「えへへ…ありがとう!」


なんかこう…人懐っこくてかわいく思えてきたかもしれない。

ん?というかなんで今これが冷やし串だってわかったの?


「よくこれが冷やし串だってわかったね?音…はしないよねこれ」

「匂いと~冷気かな?甘くて冷たいって言ったらこのあたりだと冷やし串だから」


「へぇ~相変わらずすごいね~」

「そうかな?あ、ちなみにリリさんのことは音で見つけたよ!パペットの音かな?」


この子やっぱりすごすぎる気がする。

それともこの世界の人間はこれくらい普通なのかな…?

なんやかんやで人間なんて、あのカス一族と勇者達しか知らなかったからそこら辺の情報も欠落してるなぁ…。

はっ!?まさかアルギナさんはこういうのも学んで来いって意味で私をここに!?

これはますます気合を入れて頑張らねば…!


「リリさん?」

「おっとごめんね。じゃあちょっと案内してもらおうかな?」


「うん!よろこんで!どこか行きたいところあります?」

「とくには無いかなぁ~しいて言うなら有名な観光スポットとか?」


「観光スポットって言うと微妙だけど、もうすぐ教会で教主様のお話がありますよ!行ってみます?」


なにそれすっごい退屈そうだ…。行きたくない感がすごい。

でもでも調べてこいって言われてるんだからとりあえず一通りは回らないとだし…。


「じゃあ…お願いしようかな」

「は~い!こっちこっち!」


昨夜に引き続き、メイラの案内で私は神都を歩くのだった。


「ねぇあれ…」

「悪魔憑きの…」


なんか待ちゆく人たちがこちらを見て、ひそひそと話しているのが気になった。

なんだ…?悪魔憑き?なにそれ。

…もしかして私の正体がばれた…?


「…ごめんなさい」

「…?」


メイラも急に謝ってくるしわけがわからないので、私はとりあえず気にしないことにした。

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