第194話 魔王少女は再会する
――昨日私は明日あなたを殺す夢を見ました。
その夢を現実にしてしまわないために私は今日、あなたを殺すことにしました。
きっと私はその後で今日、他の誰かを殺す夢を見るのでしょう。
明日目覚めた私は…まだ私ですか?
────────
「…ろ、ア…」
声が聞こえる。
随分と懐かしい気がする声…。
「起きろ…ア…」
まって…まだ私は…もう少しだけ…。
「起きろ!アルソフィア!」
「っ!?」
耳元で聞こえた怒声と共に視界が爆発したかのように光に包まれた。
慌てて飛び起きると私の目の前に数年ぶりに見る顔があった。
「…アルギナ…?」
「ああ、久しいな」
それは確かにアルギナだった。
数年前に過去の私との決別としてこの手で殺したアルギナだ。
ただ一つおかしなことがあるとすればその身体がまるで幽霊のように半透明になっている事だろうか。
「あなたなんで…」
「悪いがあまり話している時間はない。お前にはやってもらわなければいけないことがある」
「も~っダメだぞっ☆女狐ちゃんはそうやってお話をちゃんとしないから色々おかしくなっちゃうんだよ~☆」
アルギナの背後からやけに甘ったるい声が聞こえるかと思ったら何故かピースとウインクを決めるクララさんまでいる。
というか…ここどこ…?
何処を見渡しても真っ白で何もない…いるだけで不安を覚えるような場所だ。
そういえば私さっきまで何をしていたんだっけ…?
混乱していた私をよそにアルギナとクララさんは何やら二人で話をしている様子だ。
「…誰だお前?」
「えぇ~!?わからないのぉ~!クララ~と~ってもショック~☆」
「いや…ここにいるのなら一人しかいないはずだが…お前クラ、」
「クララだよ~☆」
「…そうか…何でもいいがここに来たからには手を貸してもらうぞ」
「分かってるよぉ~☆でもでもどうして今こんなことをしたのぉ~?」
アルギナは私を一瞥すると何かを考えるように目を閉じた。
「今しかなかったからだ。アルとお前が同じ場所にいたこの瞬間が最後のチャンスだと思った」
「ふぅ~ん…やっぱり女狐ちゃん…」
「私の事はいい。それより立てアルソフィア」
アルギナに腕を引かれて立ち上がらされた。
さっきから全く状況が分からないけれど…いったい何をさせようというのだろうか。
「アレが見えるか」
「あれ…?」
アルギナが指さした先に何かがあった。
黒い靄のような、この真っ白い空間においては明らかに異物の黒い染み。
そしてなぜか私はそれを見ていると胸が締め付けられるような不思議な感覚を覚えた。
「あれは魔王。お前の先代の魔王だ」
「え…?」
「先代魔王は当時私が倒した…だが力はこうしてこの場所に封印していたんだ。魔王の力をお前に受け継がせるわけにはいかなかったし消すわけにも行かなかったからな。この意味、今のお前にはわかるだろう?」
「…」
私が力を手に入れたときに知った魔王の力…いや魔王という存在の意味。
そして私の…。
「だが状況が変わった。お前には魔王の力を継いでもらわなくてはいけない」
「あのさ…急に出てきていきなりそんな事を言って…いったいどういうつもりなの?」
「それだけ切羽が詰まっている。お前だって力が欲しいだろう?」
「本当に相変わらずだねアルギナは」
「も~っ☆こんなところに来てまで喧嘩しないでよぉ~!時間もないのなら早くやってしまわないとだよぉ」
クララさんはその手にいつの間にか古びた本を持っていた。
どうやら今から何かを始めようとしているらしい。
「力を継ぐって何をすればいいの」
「さぁな。あれがそのまま力を渡してくれるのならすぐに済む…だが封印する直前、あれはもはや正気ではなかった。だとすると襲ってくる可能性が高い」
「…戦えってこと?」
「向こうの出方次第だがな。言っておくが私は加勢はできない。こんな身体だからな」
アルギナが半透明の身体を見せつけるように肩をすくめた。
本当に…本当に相変わらずだ。
でも…この状況は私にとってもいいことかもしれない。
この二人が何を考えているのかは分からないけれど…確かに今は力が欲しい。
それに先代の魔王と話ができるかもしれないのだから。
「準備はいいかな~☆じゃあ~はっじめっるよぉ~!」
クララさんが手にした本からすさまじいほどの力が溢れ出し、黒い霧を包み込んでいく。
「さぁさぁ鬼が出るか蛇が出るか~楽しみだねっ☆…【惟神】万象御伽噺 神綴リ儚ミノ昔話」
飛び散った本のページがまるで霧に張り付くようにして人の形をとっていく。
やがてそれは本当に人の姿のように色付き…地につきそうなほど長い赤髪の女性の姿となった。
「あれが先代魔王…」
「ああ。私はアルメティアと呼んでいた」
「…そう」
きっと目の前の彼女もその名前は嫌いだったのだろうなとなんとなく思った。
「…夢を見ました」
先代魔王が突然そんな事を言った。
その声に覇気は無くて、うわごとのような気の抜けた声色だ。
瞳も焦点があっておらずフラフラと今にも倒れてしまいそうな立ち振る舞いで…すべてが痛々しく見えた。
「夢…ここは夢?私は現実…?ららら~…」
先代の魔王の虚ろな瞳が多分だけど私を見た。
深い…底の見えない大穴のような濁った瞳だ。
「あなたは誰…?魔王…?どうして魔王?私じゃない?死んだ、夢?あなたは死ぬ夢見た?私が昨日見た夢は…あなたが死ぬ夢」
その瞬間、先代の魔王から放たれた赤いオーラのようなものが私に襲い掛かってきた。
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