第193話 人形少女はアイドルに任せる
クララちゃんは少しだけ人を馬鹿にしたような顔で目の横でピースをした。
その動作はともかく表情に見覚えがある気がして…いや、今はそれどころじゃない!
「クララちゃんマオちゃんに何が起こってるかわかるの!?」
「多分だけどわかるよぉ☆」
全く持って信用できないけれどなんで急にマオちゃんが倒れたのかさっぱりわからないし話を聞いてみたほうがいいのかもしれない…私がそんな事を考えていると「ママ…!」と心配そうな声で半分泣いているような表情のリフィルがマオちゃんに向かって手を伸ばしていた。
「っ!リフィルいけません!」
クチナシが大声を出して、それと同時にクララちゃんが私が抱きかかえたマオちゃんとリフィルの間に割り込んだ。
「邪魔しないで…!」
「ちびっ子ちゃんダメだよぉ☆クチナシちゃんから話は聞いているけど私の想像通りの事態が魔王ちゃんの身に起きているのならきみのしようとした力を無理やり吸い取るなんてしたら魔王ちゃん死んじゃうよぉ☆」
「おねえちゃん…」
私には何が何だか分からない。
リフィルが何かをしようとしたの?そしてそれをクチナシとクララちゃんが止めて…?
というかそもそもなんでクララちゃんはマオちゃんが魔王だって知ってるの?あれ…そういえば私の事もリリって…?
あ~~!!こんな時に頭をぐちゃぐちゃにするようなことしないで!!
「一度落ち着きましょう、クララ・ソラン。あなたは本当に魔王様の状態に心当たりがあるのですか?」
「あるよぉ~☆なんでこんなことになってるのかは少し分からないけどほぼ間違いないと思う~きゃはっ☆」
言動的にはふざけているとしか思えないのだけどクチナシは真面目な顔で何かを考え込んでいるし、先ほどの動きからクララちゃんがただものではないのが分かる。
マオちゃんの顔色はどんどん悪くなっていくしリフィルとアマリリスもお互いに手を握り合って涙をぽろぽろとこぼしている。
落ち着け、落ち着くの私。
私は一体何?今目の前で泣いている娘たちの母親で…まだ指輪を渡せていないけどマオちゃんの家族でたった一人のパートナーなんだから…私がしっかりしないと!
「みんな一緒に来て!クララちゃんも!」
私はその場の全員を空間移動でこの国の宿ではなく私たちの住んでいるお屋敷の寝室に連れて行った。
「ありゃりゃ~困るなぁクララまだこの後ライブがあるのに~」
そんなクララちゃんの言葉を無視してマオちゃんをベッドに寝かせた後、少し乱暴になってしまったけどクララちゃんの腕を引いてマオちゃんの元まで連れてくる。
「本当にマオちゃんの今の状態をどうにかできるんだね」
「できるって言ってるよ☆」
「じゃあやって」
「いいよ~☆」
大層な決意をしたけれど結局は他力本願なのが情けないところ。
だけどあのままあそこで皆おろおろしているよりは私がクララちゃんを頼ってみるという決断をすることは重要な事なのだと信じたい。
クララちゃんはしかし苦しんでいる様子のマオちゃんをしばらく眺めた後、また少し馬鹿にしたような表情を私に向けてきた。
「なに?」
「ん~もし~クララが手を貸してあげたらぁ~リリちゃんはクララに何をしてくれるぅ?」
何が楽しいのかニヤニヤとした視線を私に向けているクララちゃん。
「報酬が欲しいって事?」
「端的に言えばそうかなぁ~☆」
「何が欲しいの」
「クララはぁ~リリちゃんに聞いてるんだよ?何をくれるのかなぁって」
「クララ・ソラン。あまり調子に乗ってると碌なことになりませんよ」
クチナシが珍しく少し怒ったような表情でクララちゃんを睨みつけていた。
リフィルもアマリリスの手を握ったまま今にもクララちゃんに飛び掛かりそうな表情をしている。
「きゃはっ☆こわぁ~い!でもでもいいのかないいのかな?今この状況をどうにかできるのは断言するけどクララだけだよぉ~?そして言ってあげる。クララはリリちゃんが魔王ちゃんの状態をよくするために何かそれ相応の物を払ってくれないと動かないしぃ~たとえ脅されて殺されるとしても絶対に助けてあげないぃ~☆」
さぁどうする?とでも言いたげに甘ったるい声で、それでいて部屋中に広がる声でクララちゃんが言い切る。
今こうしている間もマオちゃんは滝のように汗を流して苦しんでいる。
それどころか初めて出会ったときのコウちゃんみたいに身体の半分がだんだんと黒く染まっているように見えた。
「わぁ~始まっちゃったね~☆ほらほら早くしないと魔王ちゃん大変な事になるかもよ?…もしかしたら死んじゃうかもねっ☆」
弾かれたようにクララちゃんに伸ばされたクチナシの腕を掴んで止めた。
「マスター…」
「クララちゃん。欲しい物言って」
「だから~何が払えるのかはリリちゃんが、」
「全部」
「え~?」
「私の心と命と家族だけはクララちゃんにはあげられないけどそれ以外は全部上げる」
マオちゃんとは死んでもずっと一緒という約束をしている。
でもこんなわけもわからずに死んでしまうなんてダメだ。
このままだとマオちゃんが死んでしまうかもしれない…クララちゃんが言っているだけのそれはしかしマオちゃんの状態を見る限り嘘だと言い切れない。
だからこそ。
「全部何でも欲しいのならあげる。だからマオちゃんを助けて」
「…」
クララちゃんの顔から笑みが消えた。
やはりどこかで見覚えがあるような真面目な顔をして私の目を覗き込んでいる。
しかしそれも一瞬、ニコッとした笑顔に戻るとマオちゃんに向かって手を伸ばした。
「椅子持ってきてくれるとクララ嬉しぃなぁ~」
「ん?」
「椅子ぅ~立ったままだとやりにくいしぃ~」
「助けてくれるの?」
「もともと助けてあげるつもりだったよぉ~クララにとっても大事な事だもん。ただぁリリちゃんが魔王ちゃんのためにどこまでやれるのか見て見たかっただけぇ~☆いやぁん、小悪魔なところもクララかわ~い~い~☆」
そんな良く分からない事を言った後、クララちゃんは用意された椅子に腰かけてマオちゃんに手を伸ばしたまま目を閉じた。
「きっとクララと魔王ちゃんが出会った瞬間にこうなったことには理由がある…貴様なのか?女狐」
かざした手が淡く光だし、マオちゃんの中に吸い込まれるようにして消えていく。
何かを始めたクララちゃんの最後の部分の小さな呟きはよく聞こえなかった。
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