第192話 人形少女はアイドルと話す

 それは余りにもアンバランスな光景だった。


私は前世でもアイドルという物にはまったくもって触れてはこなかったがそれでも最低限の知識は持っている…はずだ。


そんな私がイメージする偏見に満ちたアイドル像を具現化したのならこんなのが出てくるのだろうなぁというくらいこってこてのアイドルが目の前にいる。


だがしかしここは私が過ごしていた世界とは別の異世界…見渡せば城が建ってたり甲冑を着た人間が歩いてたりするところだ。

つまりびっくりするほど私の頭の中で処理ができない!!


「にゃッは~~~~☆「愚民」のみんなぁ!クララのライブ楽しんでるぅ?もっとも~っと声出してこーっ!」

「「「うおおおおおおおおクララちゃぁああああああああああああんんん!!可愛いいいいいいい!!!!!」」」


すごい熱気だ…!!!というか今愚民って言ったよ!?ファン(?)のことたぶんだけど愚民って呼んでるよね!?


「くららちゃ~ん!かわいい~っ!がんばれー!」

「がんばれ~」

「!?」


私の隣で娘二人が周りに混じって声援を飛ばしていた。


子供の適応力は凄い。


ちなみにマオちゃんは割と興味深そうな顔をしているが声を出したりはしていない。

クチナシは無の表情でその場に直立不動の構え。


「ふわわわわ☆そこのちびっこたちありがと~!はにゃにゃにゃにゃ~~んって気持ちだよぉ!」


なんかもはや異国の言葉のようでさっぱり意味が分からない事を言いながらクララちゃんがリフィルとアマリリスのほうを見て手を振った。


そしてそのまま隣にいる私の姿を見て、まるで凍り付いたかのように固まった。

顔は笑顔のままなのだがそのままフリーズしている感じ。

やがてクララちゃんの視線は私のさらに隣、クチナシのほうを見るとカッ!と目を見開いてなんだか怖い。


私もクチナシのほうを見てみたらクチナシは口元にピンと伸ばした人差し指を当ててクララちゃんの方を見ていて…それは静かにとか何も言うなとかのジェスチャーだと思うのですが本当に何?


「ど、どうしたの!クララちゃん!」

「なにかトラブルかな…?」


突然クララちゃんが動きを止めてしまったものだから周りに居る愚民の皆さんがざわめきだしてしまう。

それを感じてハッとなったクララちゃんが再び可愛らしいアイドルスマイルに戻り不思議な踊りを再開した。


「ごめんね~☆ちょっと踊りと歌詞を忘れちゃった☆てへっ。クララってばドジなんだからぁ~☆でもでも?愚民のみんなはそんなクララの事が~?」

「「「「大好きぃいいいいいいいいいい!!!」」」」


愚民のみなさんめちゃくちゃ調教されてやがる。

しかし先ほどのクララちゃんの反応は一体何だったのだろうか?


私は完全に初対面だと思うのだけど…いやでもなんだかクチナシとは顔見知りなのかもしれないからもしかして私とクチナシを間違えたのかもしれない。

色以外はほとんど一緒だからね私たち。


やがてとんでもない熱気につつまれたクララちゃんのライブ(?)はその後3時間ほど続き、無事に幕を閉じた。


「すっごく面白かったね~っ!」

「うん…クララちゃん可愛かった」


娘たちの中ではかなりヒットしたらしくふんふんと鼻息荒く語り合っている。

私は何というか衝撃のほうが強かったんだけど二人が楽しめたのならまぁいいかと思った。


「マオちゃんはどうだった?」

「…」


「マオちゃん?」

「…え?あ、なに?」


なんだかマオちゃんがぼ~っとしている。大丈夫かな?


「疲れた?大丈夫?」

「いや…でも、うん…疲れたのかも…なんか頭がくらくらするような」


「大変だ!とりあえず宿に戻ろう」


娘たちはもう少し遊びたいかもしれないけど何かあったら大変だし私はマオちゃんを連れて一回宿に戻ることにしたのだが…。


「おい!」


背後から急に呼び止められてそちらを振り向くとそこには怒ったような表情をしたクララちゃんがいて、そのままズンズンといった感じでこちらに向かってくる。


「きさ、」

「ストップです、クララ・ソラン。何を言うつもりかは知りませんが口調だけは気を付けてください。そういう約束のはずです」


何かを言おうとしたクララちゃんを遮ってクチナシがそれを制した。

やっぱりこの二人知り合いっぽい。


「こほん…あなた達こんなところでなにしてるのぉ~☆クララに会いに来てくれたのかなぁ?おしえてほしなぁ~☆」


なぜかポーズ付きで甘ったるい声を出すクララちゃん。

確かに会いに来たと言えばそうなのだけど別にそれが主目的というわけでもない…それよりもマオちゃんを休ませてあげたいのだけど…。


「ただ遊びに来ていただけです。あなたに何か干渉しようとは思ってないのでそちらも気にしなくていいですよ」

「なぁんだぁ~すっごく目障りだったからクララちょっと心配してたんだよぉ~☆よかったよかった~」


え?目障りって言った?アイドルさん?


「リリ…」


私の腕の中でマオちゃんが小さく私の名前を呼んだ。


「マオちゃん!?どうかした?本当に具合悪い?」

「ちょっと…ダメか…も…」


マオちゃんの身体から力が抜けて崩れ落ちた。

私は慌ててマオちゃんが地面とぶつからないように抱き上げたけど完全に意識を失ってる!?

冷や汗も出てきてるしなんでこんないきなり…!?


「早くどこかで休ませないと…!」

「この感じ…待てガラクタ…じゃないリリちゃん☆」


クララちゃんが私の肩を掴んで引き留めてきたのでその腕を払った。

うざったかったので腕を折ってやるつもりで弾いたけど、クララちゃんは見た目の可憐さに反してひらりと最低限の動きでそれをかわすという達人のような動きを見せた。


「ふわわ~☆落ち着いてよぉリリちゃん。もしかしたらクララならその魔王ちゃんの身に起きてる事が何かわかるかもしれないよ☆」

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