第191話 人形少女は偶像を見る
宿で一晩スヤスヤしていると相変わらずテンションマックスの娘二人にたたき起こされて、これまた美味しい朝食をいただいた後で国の中を歩いてみることにした。
ここも王政が敷かれている国らしいけど確かにこの前行った王国に比べるまでもなく賑わっている気がする。
国土は向こうのほうが遥かに大きいのだけどこちらのほうがなんというのか…活気にあふれている?そんな感じだ。
「ねーねーくっちゃんや」
「もしかしなくても私の事ですか」
「そう、クチナシ」
「はい」
「ここって今戦争の準備してるんじゃないの?なんだか平和そうだけど」
「ああ、戦争というほど大げさなものではないみたいですね。私も急にどうしたのかと思いましたけど敵国側にほとんど戦力という物がないに等しいそうなので遠征という雰囲気だそうですね」
なるほどなぁ…向こうは脅威に思っててもこちら側は鼻歌を歌いながらのピクニック気分と、なんだか怖いなぁ。
でもしかしそれで特に戦いもしないのにめちゃくちゃ遠くまで行かされる兵士さん的にはたまったものではないのだろうか?まぁ私には関係ないんだけどね。
「そういう意味では帝国という国がどれほど強い国だったのかも理解できるという物です」
「うん?」
「あそこは他国に対して徹底的な情報封鎖を行っていたにもかかわらず、モンスターおよび魔族の討伐を率先して行うことで国力を誇示することに成功していましたからね。実際国同士の会合でも最上位に近い発言力を持っていたようですし」
いつになく饒舌に話し出すクチナシさん。
もしかしてそう言うのが好きなのだろうか?そういえば帝国にいる時はよくコウちゃんと話をしていた気もする。
今度歴史書とか買ってきてあげれば喜ぶだろうか?いやでも自分で買ってそうだな…なんか前にアマリリスに本をプレゼントしてたりしたし。
「ちょっと~リリちゃんもクチナシちゃんも難しい話してないでよ~!せっかくのお出かけなのにーっ!」
「あぁごめんごめん」
両手に綿菓子のような物を持ったリフィルに怒られてしまった。
確かに子供には面白くない話だったね…私的にもそんなに面白い話ではないがな!
「まったくも~!…はいアマリ、これもあげる~」
「ありがと~おねえちゃん~」
リフィルがアマリリスに手に持っていたお菓子を渡したのだが…私と手を繋いでるアマリリスのフリーのほうの手にはこれでもかと食べ物が抱えられ、それをもきゅもきゅと恐ろしいスピードで消化していた。
どうしてこの子はこんな大食いちゃんになったのか。
「リリに似たんじゃない?」
マオちゃんがまるで私の心を読んだかのようにそんな事を言う。
いやしかし変な意味ではなく事実として私とアマリリスに遺伝的なつながりはないわけで…となるとこの子の生みの親が大食いだった可能性のほうがあるのでは?と私としては主張したい。
そもそもそんなに私大食いじゃないし!たぶん。
「?…リリちゃんも食べる?いいよ、はい」
「…ありがとね」
アマリリスを見ていたのをどうやらご飯が欲しいからと思われたらしく、小指に挟んでいた串焼きを差し出されてしまったので受け取ってから一口食べた。
おお!?なんだこれ!めっちゃおいしい!
「どこにあったのこれ?もう少し買って持って帰ろうよ」
「ほらやっぱりリリに似たんじゃない」
なにも言い返せないでござる。
そんなこんなで和気あいあいと歩いていると、急に人だかりが凄いところが見えてきてなにやら盛り上がっているようだった。
「なんだろあれ?」
ああいうのってちょっと興味が惹かれるよね。
私は基本的にミーハーで野次馬なのだ。
「ああ、マスターあれですよ。マスターが言っていた不思議な芸をする旅人です」
「お!?」
それはラッキーだ。
ここにきた目的の一つでもあるし是非見て見たい!
マオちゃんや娘たちもちょっと興味があるみたいだし行ってみよう。
なおクチナシだけは微妙に乗り気じゃない感じだ。
「ちょっとだけ通してください~」
そう優しく言いながらも思いっきり腕力を持って人込みをかき分けていく。
これだけ騒がしければ私の関節の音は聞こえないから楽だ。
そして人込みを抜けた先、そこで私たちが見た物は…。
「はにゃぁ~~~~ん☆みんなぁ~!今日もクララのところに来てくれてありがと~~う☆」
なんだあれ。
なんだろうあれ?
いやなんなんでしょうかあれは?
私の目の前にアイドルがいた。
ふりっふりで可愛らしく、しかし露出がやや際どい服装に黒と白のツートンカラーの髪をこってこてのツインテールにした可愛らしい女の子…いやお姉さん…?いややっぱり女の子か?とにかくそんなのがやけにキラキラと飾り付けられた舞台の上で歌って踊っている。
「いえ~~~い☆盛り上がってるぅ?」
「「「うおおおおおおおおクララちゃぁあああああん!!!」」」
めっちゃ盛り上がってる!
「彼女が今この国で話題の旅人。クララ・ソランです」
周りのテンションに抗うように平坦な口調でクチナシが彼女の名前を教えてくれた。
「キャッは~~~☆みんなが元気でクララ嬉しぃよぉ~!」
そして私はただただ呆気に取られて立ち尽くすことしかできなかった。
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