第195話 魔王少女と先代魔王
私に向かってくる赤いオーラは一見して何か害を及ぼすようには見えないものだ。
だけどその力の恐ろしさは私は良く知っている。それにそのオーラからは溢れんばかりの殺意が感じられて半ば無意識に腕を前に出し、同じようにオーラを展開して身を守っていた。
「…魔王の力?なんで?、どうして?あなた魔王?私魔王…夢?生きてる?死んでる?」
先代の魔王は不思議そうに首を傾げ、再度私を攻撃しようとその腕に赤いオーラを纏わせ、投げつけてくる。
先ほどよりもオーラに込められた力が強いようで受け止めるだけで精いっぱいだ。
「弱い?力、魔王じゃない?どうして、それ?夢?死んでる?生きてる?」
「ぐっ…!落ち着いてください!私は当代の魔王です!あなたと話がしたくて…!」
「魔王?私魔王、なぜ?…あ、夢…?」
オーラに込められた力がさらに強くなり、私の力を明らかに超えたそれはたやすく私の身体を吹き飛ばす。
「ふっしぎだねぇ~☆同じ魔王の力…そこに本来は優劣は無いはずなのにテクニックもクソもない真正面からの打ち合いで魔王ちゃんが負けっちゃったぁ~…あ!クソなんて言っちゃった~☆クララ反省!てへぺろりんこ~☆」
「お前…本当にどうしたんだ?頭でも打ったとしか思えないのだが…」
「そんな事よりぃ~どうして魔王ちゃんが撃ち負けたのか教えてよぉ~☆」
「…お前の言った通り魔王の力に優劣なんてない。どこまで行こうと同じ威力、同じ出力の力であることは絶対に変わらない。それが魔王の力だからな…だが明らかにアルソフィアのほうが力の質が劣っている。その理由は一つ…やはりアルソフィアの力は本来の魔王の力ではないという事だ」
吹き飛ばされた私を見ても二人はどうやら私を助けるつもりはないらしい。
少しだけ腹が立つけど今はそんな場合じゃない。
私の魔王の力は本当の魔王の力じゃない…それは私が一番よく知っている。
私は魔王の力を与えられなかった魔王だから。今のこの力は与えられた力…そしてそれを私に与えたのは私の愛しい娘、リフィルで間違いない。
あの子はお腹にいる時から何もかもが異常だった。
成立するはずのない私とリリの子供。
何がどうなったのか授かったその子は普通の存在じゃないなんてずっとお腹の中に入れていた私が分からないはずがない。
産まれてきたその子を見たとき一目で異常だと思った。
人でもなければ魔族でもない。もちろん人形でもないし他のモンスターでもない。
ただ異常としか言えないそんな存在がリフィルという子。
だけどそんなのどうでもいいの。
あの子は私とリリの大切な娘…重要なのはそれだけだから。
リフィルがなぜ私に力を与えたのかは分からない。初めてこの力を手に入れた状況的に私に自分の身を守らせたからという理由かもしれないし他の理由かもしれない。
だけどそれもどうでもいい事で、私はただ力が欲しいのだ。
そうしないと私は…きっと私の心が耐えられないから。
「だから…私は何としてもあなたの力をいただかないといけないの…!」
痛みが走る身体を無理やり起こす。
先代の魔王とはちゃんと話をしてみたかったけど、どう考えても話が通じるような相手には見えない。
だったら悪いけど無理やり力を貰うしかない。
アルギナに乗せられているだけの気はするけれど…それだけ今の私は力に貪欲だ。
大丈夫、正気を失っている相手ならいくらでもやりようはあるはず…。
「痛い?」
「っ!?」
いつの間にか目の前に先代魔王の顔があった。
ギリギリまで近づけられた深い闇のような瞳が私の姿を飲み込むように映す。
「痛い?じゃあ生きてる?夢…昨日?明日?誰?だ、だ、だ、だ、だ、れれ、れ?」
先代魔王の赤いオーラが動きを変えた。
その右腕を覆うようにして集まると先代魔王の腕は大きな鎌のような形に変わってしまった。
それがものすごい勢いで振り下ろされ、私は身体を横に転がしてなんとか避けたが…もし当たっていたら確実に殺されていた。
不快な冷たい汗が背中に流れていく。
「心配するなアルソフィア、ここは現実じゃない。お前の夢の中のようなものだ。つまりはここでどうなろうとすぐには死なん」
「…すぐにはってところが気になるんだけど?」
「現実では魔王ちゃんの身体結構ヤバいことになってるよぉ~☆早く戻らないと死んじゃうかもね☆」
すっごい軽くとんでもない事を言うねホントに…。
それなら少しくらい手を貸してくれてもよさそうだけどアルギナは何を考えてるか分からないしクララさんはアルギナの隣でニコニコ笑っているだけだ。
やっぱり私がどうにかしないといけないらしい。
これはおそらく本来の魔王の地位を継ぐための儀式なんだと思う。
先代の魔王から魔王の力を貰う事で真に魔王となれる…想像だけどね。
「ほらほら頑張れ~リリちゃんやちびっ子ちゃんたちも心配してたよぉ~」
そうだ私は絶対に帰らないといけない…家族が待ってるんだから。
私は狂ったように腕の鎌を振り回してくる先代の魔王を見据えて歯を食いしばる。
「…一人、ひとり、独り。あなたひとりじゃない?あかかかか、可愛そう、いつか独りに、なるの、に、ね」
虚ろな目から赤い涙を流して先代の魔王はそんな事を言った。
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