第58話人形少女は一歩前に進む

「それで?その後はどうなったの?」

「う~ん?別にどうもなかったよ」


一日の終わり、私は空間移動で魔王城に帰り、マオちゃんに膝枕されている。

数日に一度は絶対に顔を見せる事…そう言われているので、いや言われていなくても私はちょくちょくとこうしてマオちゃんの元に帰ってイチャイチャを楽しんでいる。

ただ寝る前にその日あった出来事をなんとなく語るだけだけど不思議と心地がいい。


「どうもなかったって言うのは?」

「ん~?」


私は先ほどまでのメイラのお食事会について回想することにした。


「うわぁああああああ!?」


悲鳴が上がったのはメイラの肩に手を置いた男が喉を食いちぎられた時だった。

食べる量もだけれど、ここにきて食事のスピードも速くなっておりものの数十秒で一人の成人男性を平らげて、血は先ほどと同じく空中に一つの玉状になって浮いている。


「お、おい貴様!?いったい何を連れてきたのだ!?」

「し、知らねぇ!俺たちはこんなの知らねぇ!」

「くっ!誰か!」


男の一人が部屋の外に声をかけると、やけに煌びやかな装備で武装した男たちがぞろぞろと部屋に入ってくる。


「どうかなさいましたか?まさかもう私たちの順番が?」

「馬鹿なことを言っている場合ではない!あの女を殺せ!早く!あれは人喰いの化け物だ!」


それを聞いた武装して男たちが一斉に武器を構えメイラに向ける…もしかして危ないかな?と思ったけれどメイラは嬉しくてたまらないといった表情で笑っていたので様子を見る事にした。


「あぁ…いいんでしょうかこんなにご飯が…太ってしまうかも…でもでも出されたものは食べないとダメですよねぇ!」

「何をしている!早く殺せと言っているのだ!」


武装した男の一人がメイラに駆け寄り、斬りつけた。

肩口からお腹くらいまでバッサリといかれたけど大丈夫かなぁ?まぁ笑ってるしきっと大丈夫でしょう。

その私の考えの通り、メイラはその口を弧の形にして笑いながら、その瞳を輝かせ行動に出た。


「【神楽喰血】…!」


メイラがそう呟くとその身体から噴き出した血がまるで意志を持っているかのように動き出し、鋭い刃の様に男を切り裂き…また、巨大な棘となり突き刺す。

そうして解体され、突き刺され…男の身体はまるでバーベキューの串焼きのような見た目になってしまった。

そしてメイラはそれを一かじりした後に幸せそうに笑う。

うんうんご飯を美味しそうに食べる人って好感が持てるよね~…それにしてもメイラまでいつの間にか神楽とか言う力を扱えるようになってる?う~む…なんなんだろうねこの力?誰か教えてくれる人はいないのかっ!


「ひ、ひぃ…!」

「化け物だ…逃げろ!」


男たちが数人部屋の外に走り出す。

あ~逃げられるのはまずいかなぁ?いろいろめんどくさいことになるかも…と考えていたけれどメイラがいつのまにか血の棘で扉を塞いでいた。


「ダメですよぉ~まだご飯中ですからね~…でもでも新鮮なお肉が一番おいしいですから…いきがいいのは大歓迎ですよ」


そんなこんなでメイラの食事をしばらく見守っていた。


「そろそろさすがに満足?」

「はいっお腹いっぱいです!」


「うんうん、それはよかった。顔色も良くなったし肌艶もいい…うんやっぱりご飯は大事だよ。次からは我慢しちゃだめだよ?」

「はいっ、ご心配おかけしましたっ!」


ぺこりとお辞儀したメイラと残った骨を適当に片づけた後、お風呂に入って別の部屋でゆったりしましたとさ…。


「で、その後すぐにメイラは寝ちゃったから私はそのままここに来たの~」

「…なかなか過激な晩御飯だったんだね」


「ね~」


まさかあんなに食べるとは思わなかったよね。


「それにしてもリリ…だいぶメイラさんと仲良くなったんだね」

「ん?うん、そうだね~」


マオちゃんの私の頭を撫でる手が止まった。


「マオちゃん?」

「…リリ、あの子に随分と優しいけれど…メイラさんのことどう思ってるの?」


「どう?どうってなに?」

「好きとか…」


「ん~?そりゃあ嫌いじゃないよ~。どちらかというと好きだよ」

「私より?」


何を言っているんだろうと仰向けになってマオちゃんと目を合わせてみると…少しだけ泣きそうになっていた。


「どうしたのマオちゃん。なにか悲しいの?」

「…なんでもない」


「何でもなくないよ、泣かないで。ねえマオちゃん何が悲しいの?教えて?マオちゃんが泣くと私も悲しいよ」

「違う…本当に違うの…ただリリが…私の物じゃなくなるんじゃないかって…勝手に思っちゃっただけだから」


私は体を起こしてマオちゃんと正面から向き合って抱きしめる。


「なんでそんなこと思うの?私はここにいるよ。ずっとずぅ~っと私はマオちゃんの物だよ?ねぇどうして?教えて?私ってそういうのあんまりわからないから…ちゃんと教えてくれないとわからないよ」

「不安になったの…」


「不安?」

「メイラさんにリリが盗られるじゃないかって…」


…?

必死に考えてみるけれど、マオちゃんが何を言っているかわからない。

彼女が何を悩んだのかわからない。


「メイラが私を盗るの?」

「わかんないけど…リリは私の事好き…?」


「大好きだよ!」

「じゃあメイラさんは…?どういう意味の好きなの…?私と同じ?」


「う~ん…よくわからないけれど…マオちゃんとメイラは違うよ。私がこうやってずっと一緒にいたいって思うのはマオちゃんだけだもん」

「ほんとうに…?」


「どうしたら信じてくれる?」


マオちゃんが私を強く抱きしめる。


「私の夢を叶えて」

「夢?マオちゃんの?」


「うん」

「なになに?」


「私…小さい頃はずっと…素敵なお嫁さんになりたかったって言ったら笑う?人間の作る物語のような…素敵でキラキラしたお姫様になって…好きな人のお嫁さんになって生きたかった…リリはその夢を叶えてくれる?」

「いいよ」


私は恋なんてさっぱりわからないし…何をどうすればいいのかなんてさっぱりわからないけれど…それをマオちゃんが望むのなら私はその全てを叶えてみせる。


「というかそもそも…子供を作った後だよ?もう」

「そうだね」


二人でそっとマオちゃんのお腹に手を添える。


「それでも不安?」

「…うん」


「そっか…じゃあ私いっぱいいっぱい頑張るね!それでマオちゃんが安心できるようにする!今はもしかしたら難しいかもしれないけれどマオちゃんが望むものは全て私が叶える!だから泣かないで、笑ってほしいな」

「うん…リリ」


マオちゃんの唇が、私の唇に優しく触れた。


「…おぉ」

「くすっ…なにその反応」


「いや…なんかよくわかんなくて…」

「あははっ…リリもそんな顔するんだね」


「え…今どんな顔してる?」

「可愛い顔してる」


なんだか恥ずかしくなって、私は顔を隠すようにマオちゃんの膝に顔を埋めた。

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