第59話人形少女は上を目指す
翌朝、宿に戻った私が昨日の果物を朝ごはんにもぐもぐしているとメイラが目を覚ました。
「ふぁ…おはようございます…」
「おはよ~、果物食べる?」
「ふぁい…いただきます…」
少しねボケているメイラに果物を渡すと小動物のように小さくはむはむと食べていた。
…果物も食べられるんかいとツッコミを入れたく成ったけれど、寝ぼけているだけなのかもしれないからとりあえず放っておくことにした。
「お風呂入ってきたら?目が覚めるよ」
「そうひまふ…」
意外と朝は弱いほうだったらしく、もふもふと果物を口にしたままゾンビのような足取りでお風呂のほうに消えていった。
特にすることもないのでぼ~っとして時間をつぶす…しかし今無心になるとどうしても頭に浮かんでしまうのは昨日の出来事で…無意識に私の指は自分の唇に触れてしまう。
「ふぉぉ…」
なんだかむずむずした妙な気分になってしまう…なんだこれ…?
頭もポヤポヤするし風邪でもひいたのかもしれない…いや風邪ひくのか私?
「むむむ、わからん」
「どうしたんですか?」
いつの間にやらお風呂から上がったほかほかのメイラが隣でお着替えをしていた。
あれ!?そんなにぼ~っとしてたのか私!これはいかんぞ…もっとしゃっきりしないと。
「なんでもないよ!大丈夫」
「ならいいですけど。あれ?リリさん今日は髪を編み込んでるんですね?」
キミが起きたときからそうだったけどね!ほんとに寝ぼけてたんだね!
「そう~昨日…いや日付は変わってたから今日だけど夜にマオちゃんがやってくれたの~」
「あ、昨日も帰ってたんですね」
「うん」
「リリさん綺麗だからそういうのも似合いますね~」
「ふふん」
「いつも長い髪そのまま垂らしてるだけですし、たまにはもう少し冒険してみるのもいいんじゃないです?思い切って短くしてみるとか」
「それはナシ」
「なにかこだわりでも?」
いや、だってさ…。
「私がこの髪切ったらまた伸びるの…?」
「…たしかに」
忘れないでほしいのだが私は人形なのだ。
髪を切ってまた伸びてくるという保証はどこにもないし、伸びたら伸びたで怖くない?呪いの人形じゃん!!
「まぁそんなことはいいのよ。今日は少し歩こうか」
「皇帝に会いに行くんです?」
「いや、食べ歩き」
「なるほど」
そもそも皇帝とやらがどこにいるかもわからないので探し回るしかないのだ。
決して食べ歩きが主目的というわけではない。
「上ってところに行きたいんだ~」
「上?」
「あ~やっぱり昨日話聞いてなかったね?なんかこのあたりは下で偉い人たちが住んでる上ってところがあるんだってさ」
「なるほど~皇帝もいるならそっちでしょうし、そこに行くのは賛成です」
「じゃあ準備していこうか」
「は~い」
準備といっても特にすることは無いんだけどね。
一晩しか止まってないから荷物もほどいてないし、人もみんなメイラが食べちゃったからチェックアウトも必要なしだ。
「あ、そういえば朝ごはんはどうするの?」
またそこら辺から人を連れてくるべきだろうか?
「大丈夫です~、一回食べればしばらくはお腹すかないので」
「そっか~でも無理はしないようにね」
「おやつもありますし、本当にしばらくは大丈夫です!」
「おやつ?」
聞き返すとメイラがそこそこ大きな袋から何かを摘まみ上げた。それは人間の骨のように見えた。
「それって昨日の?」
「ですです。お肉に比べて味は落ちますけど歯ごたえもあっておやつには最適なんです」
そういってメイラは試しにと一本口に運び、ぽりぽりとかじりだした。
本当にスナック菓子を食べているかのような感じで食べているけど顎の力すごいな。
「でも袋大きいね」
「昨日の全部入ってますからね~」
「預かっててもらおうか」
私は隣の空間をコンコンと叩いて例の大きな人形がいる空間を開いてメイラのおやつ袋を投げ込んだ。
「大丈夫なんでしょうか?」
「たぶん?」
一応ゴミじゃないから預かっておいて~って言っておいたから大丈夫なはず。
まさか口ないし食べたりもしないだろう。そもそも食べ物じゃないしね!
「そういうわけでそろそろ行こうか」
「は~い」
なんだかメイラと昨日よりも親密になれた気がする今日この頃。
いいことなんだろうけど昨日のマオちゃんの件もあるしどうしたものかな~と少し悩んだり…前世では人間関係なんて煩わしいとばかりに避けてきたのに、まさか人形になってから悩むなんて思わなかった。
でも本当に考えれば考えるほどよくわからなくなってくる…私はマオちゃんのことは大好きだしメイラの事も気に入っている。
だけどそこに言葉を乗せると両方「好き」となるわけで…でもマオちゃんへの好きとメイラの好きは全然違くて…あぁああああわからーーーーん!!!
「リリさん?」
「ん!」
「ほんとうに大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
たぶんね!
「ならいいですけど…それにしてもあらためて見てみると確かになんだか寂れた感じといいますか…」
「んだね~」
「あの遠くに見えてる大きな塔みたいなのがある場所が上でしょうか?」
「なにもわからぬ」
やっぱり案内を頼んだほうが良かったかな~でもな~。
「誰かに聞いてみたほうがよさそうですね」
「そだね~」
そんなわけで二人で少し探索を始めたところで昨日おばあさんが果物を売っていたあたりに幼い子供がボロボロの服を着てなにやら声を上げていた。
「あれなんだろう?」
「なんでしょうね?行ってみます?」
「うん」
子供二人に近づくとその子たちが何を言っているのか聞き取れた。
「お花買いませんか~!」
「お願いします~!」
どうやら花を売っているらしい。
確かによく見るとバスケットのように見える籠のようなものを持っていてそこから数本の花が見えている。
「お花なんて売れるのかな?」
「種類によっては売れそうですけど…あれはたぶんそこら辺にあったものみたいですね…それほどまでに生活に困ってるんでしょうか」
「ほぇ~帝国って話を聞いた時は裕福そうなイメージだったけどなぁ」
「ええ神都にいた頃は私もそんなイメージでした」
やっぱりこういうのは実際に見ないとわからないよね~。
「こんにちは」
好奇心から私は子供二人に話しかけてみた。
「あ、綺麗なお姉さん!お花いかがですか」
「いかがですか!」
子供二人が手に持った花を差し出してくる。
う~んまじかで見ても少ししおれてるし色もくすんでる…売る用の花かといわれるとノーとしか言えない。
まぁでもいいか。
「う~んじゃあ少し貰おうかなぁ~おいくら?」
「わっ!ありがとうございます!えっとえっと…?」
「お兄ちゃん一本4コルだよ!」
「そうだ!1本4コルです!」
「そっかそっか~じゃあはい、これ」
私は銀貨を一枚、お兄ちゃんと呼ばれていたほうの子供に手渡した。
「え!?銀貨だ!」
「すごいすごい!…あ…でもおつり…」
「え~お釣りないの~?お姉さんショックだな~」
「あうあう…」
「ごめんなさい…」
子供二人はしょんぼりと項垂れてしまった。
なんとなく背後のメイラからの視線が痛い気がするがおそらく気のせいだろう。
「ん~じゃあお釣りはいらないからお姉さん教えて欲しい事があるんだけどいいかなぁ?」
そう、全ては情報収集のため…完璧なリリさんの作戦だったのだよ。
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