第60話人形少女は双子が気になる

「なんでも聞いてください!」

「わたしも、なんでもお話します!」


子供二人は銀貨を大事そうに握りしめてこちらにキラキラとした目を向けている。


「ありがと~。あのね私たちは上ってところに行きたいんだけど、どっちに行けばいいのかな?」

「上?あそこは貴族様じゃないといけないです…」

「いけないです…」


「うん、それはいいんだけどどこから入るのかとか教えてくれると嬉しい」

「えっと場所は向こうのほうで…」


二人が身振り手振りで場所を教えてくれた。

正直私はよくわからなかったが後ろでメイラが頷きながらあたりを見渡していたのでおそらく大丈夫だろうという他人任せ思考。


「そっかそっか~ありがと~」

「いえ…でもでもあそこは門番の人がいて…」

「貴族様の許可証がないと入れないです」


許可証か~もしかして貰ったやつでいけるのかな?

ものは試しに行ってみるか~。


「まぁそこら辺は何とかすると~ありがとね、え~っと私はリリで後ろのお姉さんはメイラ。あなたちの名前はなぁに?」

「僕はカルセンです!」

「わ、私はヒリルです…」


お兄ちゃんのほうがカルセンで、おそらく妹のほうがヒリル。

うん覚えた!まぁまた会うのかは分からないけれどね。


「ちゃんと自己紹介出来て偉いね~じゃあこの果物もあげよう」


実はあのおばあさんのお店で果物をありったけ頂戴してきたのでいっぱいあるのだ。

いやほら…店主がいなくなったら腐って食べられなくなっちゃうじゃん?だからこれは悪い事ではないんだよ。


「わー!いいんですか!?」

「ありがとう…」


うんうん子供たちもこんなに喜んでくれてるんだし、おばあさんも文句ないだろう。


「どうぞどうぞ~」


もぐもぐと美味しそうに果物を食べる二人の可愛い事、可愛い事。

私はもしかしたら食べ物を美味しそうに食べる人が好きなのかもしれない。

そんな私をメイラがじっ~っと見つめていたのでメイラも欲しいのかと果物をもう一つ取り出して手渡した。


「…ありがとうございます」

「うむ」


なぜか微妙な顔をしているが気にしない。

それにしてもカルセンとヒリルはどう見ても年齢が一桁かギリ10歳くらいに見えるけど、なぜこんなところでお花を売っているのか少し気になった。


「二人はどうしてお花を売ってるの?」

「お金が必要だから…」

「お金ないとご飯買えない…」


そりゃそうだね。確かに二人ともめっちゃ痩せてるし…そんなに貧乏なのかな?


「お父さんとお母さんは何してるの?」

「リリさん」


メイラがたしなめるように私の名前を呼んだ。

カルセンとヒリルを見ると悲しそうにうつむいていたので私はどうやら空気が読めなかったらしい。

すごくやってしまった感が強くていたたまれなくなる…。

おかしいなぁ私ってこんなに他人を気にする性格だっただろうか?最近自分の気持ちが良くわからないときがある。


「あ~ごめんごめん。変な事聞いちゃったね~」

「ううん。だいじょうぶ」


大丈夫とは言うもののテンションは明らかにがた落ちしている。

どうしたものか…いや、どうにかする必要ある?別にいいじゃん、知り合ったばかりの子供だし。

うんうん、放っておけばいいのよ。

はぁ…ダメだ、何故か放ってはおけない…なんでかなぁ。

私は何かをごまかすように二人の頭を撫でた。


「あ…」

「んみゅ…」


気持ちよさそうに目を細める二人の姿に謎の満足感を覚えた。

もし無事にマオちゃんが子供を産んでくれたらこんな事をするようになるのかなぁ…あ、そうか。

私はいつの間にかこの二人に産まれてくる子供を見ていたのかもしれない。…変なの。本当に前世では考えられなかった事が最近たくさん襲い掛かってくる。そしてそれをなかなかに楽しんでいる自分がいる。


「あはは!」

「…どうしたんですか?」

「…?」


急に笑い出したものだから驚かせてしまった。


「なんでもないよ~。じゃあ私たちは行くね。これで美味しい物でも食べて」


私はもう一枚銀貨を取り出して今度はヒリルのほうに手渡した。


「ええ!?そんな…もらえません…」

「もらえるもらえる。じゃあね~」


有無を言わさず私はその場をスタスタと立ち去った。

ふっ…クールでかっこよくて粋なお姉さん感出してしまったなこれは。


「リリさんって子供好きなんですか?」


今までだんまりだったメイラが突然そんなことを言ってきた。


「いや別に?」


嫌いではないけれど、子供好きってわけでもない…はず。


「そうなんですか?なんか今までにないほどになんか…こう…優しい感じでしたけど…」

「そう?」


「ええ、少し不気味なほどでした」

「おいこら」


そんなに?そんなにか?そんな気はしないんだけどなぁ…まぁでもあの二人は素直でいい子だったし可愛かったしで好感を持ったことは確かだけどもさ。


「まぁでもそうだね。このあといろいろ片付いたらあの二人を連れて行こうか?」

「…そんな事言い出すとは思いませんでした」


「私もそんなこと考えるとは思っても見なかったよ」


そんな他愛のない会話をしながら歩くこと1時間…いまだに目的地にはつかず…広くね?


「この道って曲がるの?」

「え?」


「え?」

「なんで私に聞くんです?」


「だってメイラ道を覚えてたんじゃ…?」

「いやリリさんが聞いてたじゃないですか?私は周りの景色をなんとなく眺めてただけですけど」


なんてこった。なんて役に立たない悪魔っ子なんだ!


「じゃあ今までどうやって進んでたのさ」

「リリさんの後ろについて行ってただけですけど…」


「戻るか…」

「戻りましょう」


「1時間ただ散歩しただけじゃん」

「ですね」


私達はとぼとぼと来た道を戻った。

そして一度来た場所なら空間移動で戻れることを思い出したのは30分後のことでした。



―――――――――


リリたちが子供と別れ、上を目指す少し前。彼女たちが宿泊していた宿…のような建物も前に数人の男たちが集まっていた。


「くそっ!ザットさんたちどこに行ったんだよ!」

「まさか俺たちをのけ者にして自分達だけ…?」

「今度の仕事がうまくいったら貴族様達に口をきいてもらって俺たちごと上に連れて行ってもらえる手筈だったんだろ!?自分達だけなんてそんな話あるか!」


「でもだいぶ探したけどどこにもいねぇじゃねえか…姿を見た人もいねぇし…」

「ちくしょう…金もあの人たちが持ってたしどうすんだよこれから…」


男たちが探している人物はすでにメイラのお腹の中なのだがそんなことを知るはずもなく途方に暮れていた。

男たちは上に住む一部の貴族に騙した旅人や下に住む条件に合う人間を奴隷として秘密裏に売り渡していたのだが昨夜からリーダー格の人間や貴族たちと連絡が取れなくなり困惑していた。


「とりあえず金だ…金がないとなんにもできないぞ」

「ちっ…どこかに金持ってるやつはいねえのか?そいつ脅して奪おうぜ」

「馬鹿か。旅人でも来ないと無理だろ…最近は出入りも厳しくなってんだしそうそうこねぇよ…だから昨日が正念場だって話だったんだろが」


項垂れる男たちだったが遠くからなにやら怒声が聞こえてきた。

そして男たちの横を走り去っていく子供が二人と、それを追いかけてくる10人ほどの男女。


「おい!なにしてんだ?」

「あのガキどもどっちに行きやがった!?」


「あ?」

「あの子供が「金貨」もってやがったんだよ!」


「なんだと!?」

「貴族風のやつらに貰ったとか抜かして買い物しようとしてやがったんだ!」

「どうせ盗んだに決まってるんだから「お仕置き」してやろうと思ってね!」

「へへっそりゃあいい…俺たちも一枚かませてくれや」

「ああ、だったら向こうから行ってくれ!挟み撃ちにするんだ!」


ここに一つの悲劇が起ころうとしていた。

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