第61話人形少女は悲しみを知る
空間移動が使えることを思い出した私はすぐにあの二人の子供に出会った場所まで戻ったのだけれど…当たり前だけど時間もたっているので二人はそこにはおらず…別の人に話を聞いたほうがいいかな?と考えていた。
「でもなんかあんまり人いないね?」
「匂いはしますよ…なんか一か所に集まってるみたいですね?」
「そういうのわかるのね」
「ええまぁ。こうなる前から嗅覚はすごかったの知ってますよね?それに人間なんてすっごくおいしそうな匂いさせてますし」
なんか…ほんとに吹っ切れたねメイラ!少し怖いぜ!
「あ、もしかしてあの子供二人もそういう目で見てたの?」
「どちらかというと?でも子供はさすがに食べませんよ?小さいですし脂身多そうですし」
そういう問題かなぁ?
まぁでもそんなもんか…レイちゃんにメイラを近づけたくないっていうアルギナさんの気持ちがわからんでもない今日この頃。
「じゃあとりあえずそっちに行ってみようか」
「はい~」
メイラの嗅覚を頼りに道を進んでいくと私にもだんだんと人間の気配が感じられるようになってきた。
やっぱりこの先に人がいるみたいだ。
そしてやっとの思いで人を見つけることができた。
「ちぇ、乗り遅れたな~」
「まぁ仕方ないさ。それにしても馬鹿なガキどもだな、こっそりと貴族様にでも崩してもらえばよかっただろうになぁ」
こちらに気づいていないようで、壁にもたれかかって疲れたような表情をしていた。
「ねーねーお兄さんたち」
「ん?…うおっ!めっちゃ美人!」
「いい服着てるしまさか貴族様か…?」
「そう言うんじゃないけど道を教えて欲しいんだ」
「道?」
そしてまた上に行きたい旨を伝えると普通に教えてくれたので今度はちゃんと覚えるように努力する。
メイラのほうを見ると今度はちゃんとメモのようなものをとっていたので大丈夫だろう。
「うんうん、ありがと~。ところで何かあったの?」
「ああ、いや…ちょっとこの辺に住んでるガキ二人がちょっとな」
「ちょっと?」
「ん~なんかどっかから金貨を盗んできたらしくてな~平気な顔して食べ物を買おうとしてたんでちょっとお仕置きをね」
なんだそれ、子供のしたことくらい見逃してあげなよ…とは言えないよね。
金貨といえば私はよくわからなかったけど大金だ。なんせ宿に一月程度泊まれるんだから。
「ふむふむ。お仕置きって何するの?」
「あ~…いや…」
「?」
「あんまお嬢さんに言う話じゃないけど…あの感じだともう死んでるんじゃねぇかな」
「だな~なにせ金貨だからな…もう寄ってたかっての奪い合いだろうし」
「話が見えないんだけど…悪いことしたから叱ってるんじゃないの?なんで金貨を奪い合うのさ」
「いやだって…なぁ?」
「ああ…そんなの建前で実際はただガキから金貨を奪い取ろうってだけだからな」
彼らは笑いながら当然のようにそう言った。
そして次の言葉に私は絶句することになる。
「でもあいつらそこらへんで花売ってるだけなのになんで金貨なんて貰えたんだろうな?」
「な~、普通貴族様があんなの相手にするわけないし不思議だよなぁ」
は…?花を売ってた子供…?それってもしかして…。
「ねえお兄さんたち。その二人ってカルセンとヒリルって名前じゃないよね?」
「ん?あ~…そんな名前だっけ?」
「確かそうだな」
待って、待ってよ。
それじゃあなに?今殺されてるかもしれないっていう子供はあの二人だってこと?そもそも金貨って何?私が渡したのは銀貨のはず…。
あぁだけど…だけどなんだか、
無性に腹が立つ。
「行くよ、メイラ」
私はそのまま人が集まっているという場所に向かって歩みを進める。
「…「これ」はこのままにしておくんですか?」
「食べたいならいいよ」
「いえ、やめておきます。半分以上消し飛んじゃってますし」
べちゃっと人の形も保っていない肉塊が地面に落ちる音がした。
でもそんなことどうでもいい。
私はとにかく、この先で何があったのかを知りたいだけなのだから。
――――――――
≪メイラside≫
こんな状態のリリさんは初めて見たかもしれない。
いやメイラこと私を神都から連れ出してくれたとき、勇者様に対してリリさんが怒っていたことを覚えている。
あの時は私に向けられたものではないと知りながらも腰が抜けてしまうほどに恐ろしかった。
でも今はその時よりさらにおかしい。
怒りだけじゃない…なにか他の感情がごったまぜになっているような重くて痛い…そんな気配がリリさんから漂っている。
理由は今目の前に広がる光景だ。
大勢の大人が、ピクリとも動かない二つの小さな身体を囲んでいる。
「・・・」
それを見つめるリリさんの目からは感情が読み取れなくて…いつも微笑みを浮かべている顔も無表情になっている。
「おい話が違うじゃねえか!銀貨じゃねえかよ!」
「誰だよ金貨って言ったやつ!」
「知らないよ!あたしも金貨持ってるって聞いただけだもん!」
「くそっ!…だがまぁいい銀貨でも今は大金だからな」
「おいおい分け前はどうするつもりだよ」
「んなもんあるわけねぇだろ!銀貨なんだから!」
「んだよ!働き損かよ…この!余計な手間かけさせやがってガキが!」
好き勝手な事を口にしながら物言わぬ二人の身体を蹴とばす男女。
悪魔の私から見てもそれは醜悪な光景に見えた。そしてその小さな二人は…カルセンとヒリルに間違いなかった。
話を聞く限り、あの後リリさんから貰った銀貨で買い物をしようとした二人を泥棒と決めつけお金を奪い取ろうとした誰かがいたらしい。
そして話が大きくなり二人が金貨を持っているという話になり、それを奪いたい欲深い者たちによってなぶり殺しにされたらしい。
もう二人が生きていないのは匂いでわかる…人喰いの悪魔である私がこんなことをするのはおかしいと思うけど二人の冥福を祈らずにはいられなかった。
やがて人々は散り散りに去っていき、そこには私とリリさんと小さな亡骸が二つだけ残った。
リリさんはゆっくりと二人に近づいていき…しゃがんでその顔に手を伸ばした。
「…死んでる」
「…はい」
「なんでこうなったんだろう。私がお金を渡したから?」
「…そうかもしれませんね」
確かにリリさんが二人に銀貨を渡さなければこんなことにはならなかったかもしれない。
「そっか…なんだろうねこの気持ち。私は今…すっごく良くない気分だよ」
「リリさん…」
「どうすればこの気持ちは晴れるかなぁ…ここにいた人を皆殺しにすればおさまるかなぁ」
「それはダメです」
「どうして?」
「ここは帝国です。そして私たちは招かれた客で…そこでさすがにあんな大人数を殺してしまうのはまずいです…今さらではありますがこれ以上は目立ちすぎるかと」
皇帝がどんな用件で私達を呼びつけたのかよくわかっていない上に教主様の事もある。
ここで無意味に刺激するのは絶対に得策じゃない。
「…それ、私に関係ある?」
「大ありです」
「私はそうは思わないよ」
「…教主様は私達がいる場所を何故か知っていました。方法は分からないですけど私たちの情報をある程度持っていると思ったほうがいいです」
「何が言いたいの?」
「私たちがもし…魔王様の関係者と知られればそれこそ今の均衡が崩れて本格的な戦争に発展してしまうかもしれません。そうなれば魔王様にも迷惑がかります」
正直これをリリさんに伝えるのは少しだけ勇気がいった。
彼女がどれだけ魔王様を好きかは普段の会話からもわかるから…問題はリリさんがそこに触れられて引き下がるか、怒るか…どっちのタイプかだ。
私なんてリリさんが少し小突けば殺されてしまうのだから…だけど私は言わないといけないと思った。
だってきっとこれはリリさんのためになると思うから…きっとここで衝動的に行動すると、そのしわ寄せがいつか来る…そう思うから。
「そうなったら…マオちゃんとメイラを連れて逃げればいいだけでしょ」
ギィィィィ…と歪な音を立てながらリリさんの首がこちらを向いた。その顔はぞっとするほどの恐ろしくて…だけど妖艶さや可憐さを感じる薄い微笑みを浮かべていた。
そうか…ようやく理解した。この人は…自分の心を許した人以外の事なんてどうでもいいだ。
自分の心以外はすべて等しく価値を感じてない…どうでもよくないものと、どうでもいいもの。
その二つしかないのだ。
その中に私が入っていることに嬉しさと…安堵を感じる。でもやはりそれは危険だ。
ここは帝国…軍事力で言えば世界最強の国なのだから。
「でもリリさん、」
「メイラ、これ以上何か言うつもり?」
その真っ赤な瞳が昨夜の様に私を映す。
でも昨夜とは違い…私の全身から冷や汗が噴き出した。忘れてはいけない…彼女は何よりも美して…そして何よりも恐ろしくて…決して逆らってはいけない神様なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます