第189話 人形少女はご飯が大事

――翌日。

私たちよりも早く起きた興奮している娘たちに起こされて朝の支度を始める。


「リリ、髪が跳ねてるよ。こっちにおいで」

「うん~」


ゆっくりと優しい手つきでマオちゃんが私の髪をくしで梳いてくれる。

その様子をじっと娘たちに見られてるのがなんだか落ち着かないけど別に悪いことしてるわけじゃないし心地もいいのでされるがままだ。


何度か全体的にくしを通された後にマオちゃんは機嫌よさそうに鼻歌を歌いながらなにやら私の髪をそのままいじり出す。


「なんか編み込んでる?」

「うん。だめだった?」


「ううん。大変じゃない?髪長いし」

「長いから編み込みがいがあるんだよ~。これが楽しいの」


そんなこんなでマオちゃんの手によって綺麗に編み上げられていく私の髪を見て娘たちも真似をしてみたくなったらしく、いつの間にか寝室にいたクチナシの髪を見よう見まねで二人で編み込もうとしていた。


意外と器用なもので雑で不格好ながらそれらしくはなっている。

でもまぁやっぱりところどころ絡まったりしてるけどクチナシは涼しい顔で受け入れており、昨日の怪我というか身体の損傷もキレイに治っているようで安心した。


最終的に私の髪を編み込み終わったマオちゃんがクチナシの髪を綺麗にほどき、了承を取ってから娘たちに教えるようにさらに編み込んでいき私とクチナシでお揃いのヘアスタイル…かと思いきや全く違う髪型になったからマオちゃんの女子力の高さに改めて驚愕した。


「よし、じゃあ準備もできた事だし出発しようか」

「うん!しゅっぱつぱつ~!」

「ぱつぱつ~!」


ちょっと大人しくなってたかと思えば再びテンションが最高潮になった娘たちに引っ張られるようにして屋敷を後にした。


と言ってもほとんどの道中はクチナシの空間移動でカット。


モンスターもあまりでなさそうな景色のいい場所でマオちゃんが作ったお弁当をみんなで食べたり軽く遊んだりして気分はピクニックだった。


途中でリフィルとアマリリスがトイレに行くと言っていなくなった後に凄い大きなモンスターがやけに衰弱した状態で見つかるなど良く分からないハプニングはあったものの無事に目的地である国まで丸一日かけて到着したのだった。


娘二人はほとんど移動だけだったにも関わらず、本当に楽しかったようでずっとテンション高く歩いていたのだがやはり体力的に限界だったようで寝てしまい、私が二人とも抱えている。

前側で抱っこしている形のアマリリスは分かるのだが、私の背中にしがみついて寝ているリフィルのほうは本当に寝てる?と言いたくなるほどの安定感を持ってしがみついていた。


「よ~し到着~。日もくれちゃったけどどうする?一回帰る?」


一応マオちゃんにそう聞いてみた。


「子供たちも楽しんでるし水を差したくないからどこかに泊まったほうがいいかもね」


うむ。

私もこれで起きたらいつもの屋敷にいたなんてことになったらなんとなく盛り上がれないよなぁと考えていたのでそう言ってくれてよかったよかった。


「では宿まで案内しましょう。こちらです」


クチナシが先導してくれたのでついて行く。

その迷いの無さからそこそこの間この国に滞在していたことが分かる。

やがてたどり着いた場所はなかなか綺麗なところでパッと見た感じは神都にあったメイラのお家に似ているかもしれない。


「ここ?」

「はい。サービスも問題なく、静かで過ごしやすかったので」


「ご飯おいしい?」

「…申し訳ありません。私はあんまり食事はしないので失念していました」


「食べられないわけじゃないんだから食べたほうがいいよ。せっかくなんだし」

「善処します」


クチナシはこちらから食べろと言わないとご飯を食べないのでほんとにもったいないと思う。

私なんて新しい場所を訪れたらまずご飯だというのに。


「私なにか作ってこようか?」

「いやいや、せっかく旅行に来てるんだからマオちゃんもたまには休まないと」


「そっかぁ~そうだよね~なんか逆に落ち着かないけど…」


家庭的すぎるぞマオちゃん!


数年前までは魔王城で黙っててもご飯が出てくる生活をしていたはずなのに…いや、だからこそ今は作りたくなってるのかもしれないけどさ。

私はマオちゃんにも羽を伸ばしてほしいのですよ。


「とりあえず入ろう!宿として経営できてるんだからご飯だって美味しいはず!」


どれだけ居心地が良かろうがご飯がおいしくなければ宿なんて経営できないと私は思うのだよ。

だから大丈夫!はたして結果は!??


「うん、おいしいね。作り方とか教えてくれないかな?どうやったらこんなにお肉柔らかくなるんだろう?」


出されたシチューのような料理を興味深げに見渡してスプーンで少し掬い口に含んだマオちゃん。

その後もまじまじとまるで研究するかのように探り探り料理を食べていくその様子にはたしてその楽しみ方であっているのだろうか?と思わなくもないが楽しそうにはしているので良しとする。


クチナシなんて何も言わず無言で、かつ一定のペースで淡々と料理を機械的に口に運んでいるのでそれに比べればかなりマシだ。


「クチナシどう?おいしい?」

「ええ美味しいと思います」


全く信じられはしないがこの子は嘘は言わないので本当に美味しいのだろう。

実際出された料理はどれも美味しいので私的には満足だ。


子供が寝ていると言ったら食事を本来なら食堂で取らなくてはいけないところを特別に部屋に運んでくれたりしたのでサービスも良い。あたりだね、うん。


「はっ!!ここどこ!?あー!ママたち何か食べてるー!!」

「むにゃ…」


突然跳ね起きたリフィルとつられるように目をこすりながら身体を越したアマリリスも加わり騒がしくしながらもどこか落ち着いた雰囲気で一晩を過ごした。

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