第159話 人形姉妹の小さな冒険3

 馬車に乗ったことでかなりの距離を移動できていたらしく、二人は双眼鏡のようなものでリリの姿を確認できる距離まで近づけていた。


「アマリ見えた?」

「うん、リリちゃんだ~」


目に見えて嬉しそうな表情をするアマリリスにリフィルは優し気な目を向ける。

そのまま近づきすぎないようにこっそりとリリの後をついて行く。

特に何も起きはしないがそれでも仲良し姉妹は母親の後をつけると言うだけの行為がどうしようもなく楽しく思えていた。


「リリちゃんは後ろも見えてるらしいから注意しないとだよ!」

「うん。ドキドキするねおねえちゃん!」


そこから数十分ほどでリリは王国に到着した。


「なんだかリリちゃん困ってる?」

「うん…」


二人の目にはリリが王国の入口である巨大な門の前で困ったようにうろうろしている姿が映っており、何をしているんだろう?と事の成り行きを見守っていたところ、時間が経つと共に外や中から大勢の人が慌ただしく動き回っており、二人が隠れている場所を素通りしていくようになった。


「どうしたんだろう?」

「もしかしてさっきの蛇さんが見つかっちゃったのかも…?」


「あ~それかな?蛇さんうまく逃げてくれるといいね」

「うん…あ!おねえちゃん!リリちゃんがいないよ!」


「え!?」


気を取られたわずかな間にリリの姿は消えており、二人は慌てに慌てた。

あわあわと二人でしていたがすぐにリフィルがリリの姿を「王国の中」で見つけたため、その後を追い門の横にある小部屋から二人も王国に忍び込んだのだった。


「わっ!アマリ気をつけてね、人が寝てる」

「う、うん…あれ?お姉ちゃん…この人首が変な方向向いてる…」


「ほんとだ。もしかしてリリちゃんがやったのかな?」

「そうかも?」


「も~!リリちゃんってばこういうところ大雑把なんだから!アマリ「これ」どこかに飛ばしておいてあげて」

「うん」


アマリリスは転移の魔法を死体に向けて発動すると、それは跡形もなく消えてしまった。


「どこに飛ばしたの?」

「さっきの蛇さんの所」


「そっか。じゃあ行こう!」


二人はリリの後を追い、その場を後にした。

しかしほとんど外出をしたことがない二人にとって王女の結婚で賑わう王国は全てが新鮮に見え、色々なところに目移りしてしまう。

ふらふらと気になるものがあればそちらに、そして次の興味深い物のほうへと寄り道ばかりを繰り返してしまう。


「そこの二人!危ない!」

「ん?」

「え?」


叫びながらフードで顔を隠した何者かがリフィルとアマリリスを抱え上げ地面に転がり込んだ。

そして先ほどまで二人がいた場所を小さな馬車が通り過ぎていった。


「大丈夫だった…?」


フードの人物は心配そうに二人に声をかけ、状況を理解した二人は立ち上がるとぺこりと同時に頭を下げた。


「うん、ごめんなさい。ありがとう」

「ありがとうございます」

「いいのいいの、あなた達が無事だったなら」


フードの人物は声の感じからしてどうやら女性のようだった。

そのまま服についた汚れを落とすと改めてお互いに向き直り自己紹介をした。


「私はリフィルです」

「アマリリス…です」

「丁寧にありがとう。私は…ナーシャ、よろしくね」


ナーシャと名乗ったフードの女性は辺りを見回した。


「二人だけ?ご両親はどこかしら」

「あ~え~と~」

「…」


何と答えた物かと悩んでいた二人の様子にナーシャは勝手に何かを察したようでフードから覗く口元を笑顔の形にすると二人の手に肩を置いた。


「お腹すいてない?なにか食べようか」

「いいの!?」


「うん。こう見えてもお金持ちなんだ私。なんでもおごってあげちゃうよ」

「わ~!アマリ行こ!」

「う、うん…いいのかな…?」


アマリリスは街道での馬車の件もあったので少しだけ警戒したが、るんるん気分と言った感じでナーシャについて行く姉におとなしくついて行くことにしたのだった。


二人が連れてこられたのは静かな雰囲気のレストランのような場所で、見るからに高い食事を提供していそうだとわかる場所にみえた。

そこで出された大きなケーキをリフィルとアマリリスはニコニコの笑顔で食べ、時にお互いに交換しながら夢中で食べていた。

ナーシャはそんな二人を微笑ましそうに見つめながら紅茶を飲んでいる。


「口に合ったかしら」

「…うん!とっても美味しい!ね、アマリ」

「すごく美味しい…ナーシャお姉さんありがとう」


「どういたしまして。満足してくれたのならよかった」

「大満足だよ~!でもすごいね!お姉さんってもしかしてお金持ちなの!?こんなところに来れるなんて」


「ん~まぁそうね。お金はいっぱいあるかな」


少しだけ悲しそうにナーシャは言った。

それを見逃さなかったリフィルはその特徴的なガラス玉のような瞳でナーシャを見つめ口を開く。


「お姉さんなんだか悲しそう。何かあったの?お礼に私たちにできる事ならなんでもするよ!」

「うん、うん…!」


リフィルの言葉にアマリリスも頷く。


「…ありがとう二人とも。でもどうしようもない事だから」

「なになに?話してよ!」


「子供に話すようなことじゃないかなぁ」

「話して、お姉さん」


ナーシャはビクッと身体を一瞬だけ震えさせた。

なぜか目の前にいる小さな子供が、自分よりはるか上の逆らうことのできない強大な存在に思えたのだ。

そして気が付けばナーシャは自分の身の上の話を小さな子供二人に話していた。

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