第158話 人形姉妹の小さな冒険2
通りかかった馬車はリフィルとアマリリスの側で止まると、馬の手綱を引いていた男が二人に声をかけた。
「そこの二人!こんな危ないところでどうしたんだい!?」
「私たちの事?」
リフィルがこてんと首をかしげて、アマリリスはおどおどしながら姉の背中に隠れている。
「そう!ここいらは一応整備されてるけどモンスターは普通に出るんだぞ!?親はどうしたんだ!」
「ママたちはお出かけしてるの~」
「なんだって!?なんて親だ!とにかくここは危ないからお嬢ちゃんたち乗りな!」
リフィルは少しだけ悩んだ。
ここは乗せてもらったほうがらくちんな気がすると。
実はアマリリスの転移魔法は少し不安定であり、本来ならばリリのもう少し近くに転移するはずだった。
しかしまだ完璧には魔法を使いこなせていないためやや遠くに飛んできてしまい、再度魔法を使うと今度は近すぎたりしてリリにバレてしまう危険もあったため歩いて追いかけようとしていたところだったからだ。
「ええ~?どうしようアマリ」
「知らない人こわい…」
「そっか~、ごめんねおじさん。妹が怖いって言ってるから」
「いいから乗れって!」
怒鳴り声を上げながら馬車の中から別の男が現れて二人を抱え上げ、無理やり馬車に乗せた。
放り込まれるようにして座らされると馬車は走り出してしまった。
「ふ…ふぇ…」
「よしよし泣かないでアマリ。進んでる方向はリリちゃんのほうみたいだしちょうどいいよ」
「うん…」
アマリリスをあやしながらリフィルは馬車に乗っていた人たちに目を向けた。
けっこう綺麗な服を着ているな~と呑気に考えながらそのまま声をかけてみる。
「おじさんたちはどこに向かっているの?」
「あ?この先は王国しかないだろうが」
「そっか~。やったねアマリ、王国だって!」
「リリちゃんが行くって言ってたところ…?」
「そそ!」
「じゃあよかった…うん…でも追い越しちゃったりしないかな?」
「そうなったら待ち伏せしてればいいんだよ!そっちのほうが探さなくて済むしいいかも!」
そんな二人の会話を馬車の中の男たちは鋭い目で睨んでいた。
そしてそのまま二人には聞こえないようにひそひそと何かを話し出す。
「縛っておかなくていいのか?」
「馬鹿野郎、そんなことしたら検問がやべぇだろうが」
「そうだぜ、ああでも騒がれないようにはしとかないとな」
「よし任せろ」
リフィルとアマリリスに鋭い目つきながら人当たりのよさそうな顔をした男が近づき、目線を合わせるようにかがむ。
「なぁお嬢ちゃんたち」
「なぁに?」
「この後少ししたら王国につくからそこで入国できるかどうかの検査があるんだけどな。悪いんだけどおじさんたちの知り合いで同行者だってちゃんと言ってくれるかい?」
「うん、いいよ~」
その明らかに怪しい男の言葉にリフィルは年相応の無邪気な笑顔でそう答え、アマリリスはおどおどしながら姉の手を握っていた。
そこからしばらくは何事もなく馬車は進み、リフィルとアマリリスは持参したお菓子をお互いに「あーん」と食べさせ合うなどしていた時だった。
「お、おい!まずいぞ!」
外から中に聞こえるような大声で馬の手綱を握っていた男が叫んだ。
「どうした?大声出して」
「モンスターだ!でかいやつが後ろから追って来てやがる!」
「なんだと!?」
男たちが慌てだしたがリフィルとアマリリスは我関せずとばかりにお互いのほっぺをつついて笑っていた。
そんな様子にイラつきながらも男の一人が外に顔を出しモンスターの姿を確認して舌打ちする。
「ちっ!だめだ!ここにある武器じゃあんなの相手できねぇ!もっとスピード出せないのか!?」
「これ以上は無理だ!荷物が重すぎる!」
「くそ!どうすれば…」
「おい、もったいない気はするがガキを…」
「マジかよ…これだけ上玉なんだぞ?」
「でも二人いるし一人は諦めるしか…命には代えられないだろ?」
男たちは頷き合うと一人が姉妹に近づき、アマリリスの腕を掴んで持ち上げ…そのまま馬車の外に放り投げた。
「…え?」
「アマリ!」
アマリリスに手を伸ばすリフィルの身体を男の一人が掴んだ。
そんな男の事をリフィルは無表情で睨みつけ…。
────────
「ふ…ふぇえええええ~…」
空に投げ出されたアマリリスは半泣きになりながら身体を丸めた。
そして地面に激突し…まるでクッションに落ちたようにポヨンと跳ねた。
勢いは完全に殺され、無傷で着地したアマリリスの元にリフィルが飛びつくように駆けつける。
「アマリ!大丈夫だった!?」
「う、うん…怖かった…お姉ちゃんもだいじょうぶ?」
「私は大丈夫!」
「よかった」
えへへ、と二人は顔を見合わせて笑っていた。
そんな二人の目の前に唸り声を上げながら巨大な蛇のようなモンスターが姿を見せた。
馬車を追っていたモンスターで、二人に追い付いてしまったのだ。
「蛇さんこんにちは」
リフィルは友達にあったかのように挨拶をしてアマリリスは先ほどまでとはうって変わり、特に怯える様子もなく服の汚れを落としている。
シャァアアアアーッ!
と蛇が二人を威嚇するように音を出すがまるで恐怖を感じていないように二人は平然としていた。
「蛇さん。私は挨拶をしてるんだよ?」
リフィルの言葉を受けたモンスターが身体を一瞬だけ震えさせた後、身動きを取らなくなる。
その様子を見て満足げにリフィルは頷くとモンスターに近づき、その身体を撫でる。
「いい子だね~蛇さん。お腹がすいてるんだね可哀想に。だけど私たちはちょっと行くところがあるから、向こうのほうにね?いっぱい動けなくなってる大人の人いるからそっちは食べてもいいよ。きっとお腹いっぱいになると思うな。ね?」
言葉が通じているのかは不明だがモンスターはそのまま二人を素通りしてリフィルの指さしたほうに向かっていった。
そこから数十秒後、複数の悲鳴が上がったが二人は気にせずにリリを追う冒険を再開したのだった。
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