第157話 人形姉妹の小さな冒険
時間は少しだけ戻り、リリが旅立った数日後の昼下がりのこと。
リリたちが住んでいる屋敷の一部屋…無駄に豪華な装飾が施された部屋で二人の子供がその小さな身体を折り曲げて頭を下げていた。
「お願い!こうちゃん!」
「お願い…」
二人の名前はリフィルとアマリリス。
リリと魔王の娘でありお互いの髪色を模したエクステをつけているなど、見た目からもわかる仲良し姉妹である。
そしてそんな二人が頭を下げているのは二人と同じくらいの年齢の少女…いや、少女のような見た目をした長年を生きる元帝国皇帝フォスであった。
「いやそれ頭を下げてるってかもはや前屈運動じゃねえか。べったりと地面に手を付けやがって、二人して身体柔らけぇなおい」
どうでもいいツッコみどころに律儀に反応してしまうのもひとえに彼女の性である。
「くすっ、相変わらず仲良しです二人とフォス様は」
フォスが座っている椅子…ではなく車椅子に座った状態でさらに膝にフォスを座らせていた女性アルスが楽しそうに笑いながらフォスの少女特有の柔らかなほっぺをムニムニと弄んでいる。
「やかましい、シバくぞボケこら」
「やぁん、怖いですぅ~」
「もう!イチャイチャしてないで話を聞いてよ~!」
不満げに声を上げたリフィルの訴えに対し、めんどくさそうにため息を吐いたフォスがこれまためんどくさそうに口を開く。
「嫌に決まってるだろ。なんで我がお前たちの遊びにつきあってならにゃならんのだ」
「付き合ってなんて言ってないじゃん~ただ私たちがお出かけする間ママたちにバレない様に協力してほしいだけ!」
「うんうん…」
「断る。バレたらあの二人にどやされるのは我ではないか」
「ええ~?こうちゃんママの事怖いんだ~?」
「ち、違うよお姉ちゃん…こうちゃんって前にリリちゃんにコテンパンにされたんだって…だからきっとリリちゃんのほうだよ」
その二人の幼女の言葉にただでさえ低い沸点を持つフォスの怒りゲージは速攻で限界に達した。
「んだとガキども!この我があいつらを怖いと思っているだと!?ぶっ飛ばすぞ!」
「わーっ!こうちゃんが怒った~!」
「ふぇ…」
リフィルは楽しそうに笑い、大声にびっくりしたアマリリスは反射的に泣きだそうとし収拾がつかなくなりそうになったところで再びアルスがフォスの頬をいじり出す。
「ダメですよ~フォス様。子供相手に大声出しては」
「…ちっ」
「そして二人も、大人をからかってはいけません。それこそ魔王さんとリリさんに怒られてしまいますよ」
「はぁい、ごめんなさい~」
「ご、ごめんなさい…」
「うんうん謝れて偉いですね。ではご褒美に私のほうからうまくやっておきますのでお外に行ってきていいですよ」
「いいの!?あーちゃん!」
「ええ。でも危ない事をしてはいけませんよ」
「はーい!やったー!じゃあ早速行ってくるね!行こ!アマリ!」
「わ!ま、待って!お姉ちゃん!」
バタバタと話も半分に二人はフォスの部屋から走り去っていった。
「おい、そんな安請け合いしてあの二人に何かあったらどうするつもりだ?」
「私としては二人のそうしたいという欲望を優先させてあげたかったのです。それに…あの二人に何かあるなんてあまり考えられないですしね」
「…はぁ。面倒なことにならなけりゃいいがな」
「もしもの時は私が行きますから大丈夫ですよきっと」
────────
屋敷の外に出たリフィルとアマリリスは手をつないだ状態で遠くを見渡すようにきょろきょろとしていた。
「あ!あった!リリちゃんの気配が向こうのほうからする!」
「うー、やっぱりお姉ちゃんすごいなぁ…私全然わからない…」
「でもここからはアマリのお仕事だよ!ほら!」
「う、うん…!」
アマリが瞳を閉じると二人の足元に巨大な魔法陣が現れ、そこから漏れ出た淡い光が二人を包んでいく。
本来なら人間の魔法使い数名が丸一日作業して行うようなものだが、アマリリスは必要魔力の確保、魔法陣の構築、制御を全て自分一人で行っていた。
異常な魔力量に魔法の才能…もし彼女が人の世界で生きていたのならさぞかし有名な魔法使いになれたことは一目瞭然だった。
「あんまり近いとリリちゃんにバレちゃうから少しだけ離れたところに跳んでね!」
「うん…転移魔法…はつどう…!」
アマリリスの言葉に反応して魔法陣と共に二人の姿がその場から消えた。
そして二人が現れたのはリリが数分前に通った街道だった。
初めて訪れた場所にリフィルは瞳を輝かせ、アマリリスは心細そうに姉に引っ付いた。
「お、いるいる~リリちゃんだ!あ~!なんか果物食べてる~!いいなぁ~」
「お姉ちゃんばかりずるい…私もリリちゃん見たい…」
リフィルが見ている方向にはもちろんリリの姿などない。
ここはすでにリリが通った場所で、本人はそこから数キロ以上は離れた場所を現在歩いている。
しかしリフィルには確かにリリの姿が見えていた。
「じゃあここから少しづつ近づいて行こっか!」
「うん」
二人は手を繋いで歩き出した。
その時、ちょうどよく一台の馬車が通りかかったのだった。
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