第156話 人形少女は忍び込みたい

「実は今日はおめでたい日でね」

「そうなの?何かの記念日とか?お祭りやってそうな雰囲気だもんね外」


「そうそう。と言っても記念日になるのは今日からだけどね」

「ん?」


今日から記念日とは一体…?

良く分からず首をひねっているとお姉さんが一枚の紙を差し出してきたのでそれを受け取ってから読んでみる。


「えっと、王女殿下が結婚?」

「そそ。長年婚約者もいなかったこの国の王女様の結婚相手がようやく決まってね、今日はめでたい結婚式なのさ」


「なるほどね~それであんなに賑わってるんだねぇ」

「国民から人気がある人だからね~王様も大層溺愛しててそのせいで婚約者がいなかったわけなんだけど隣国の第二王子だったかな?その人と婚約が数か月前に決まって今日までぽんぽんと手際よく言って本日結婚さ」


「ほぇ~。で?それが何の関係があるの?」

「そう急がない急がない。なんでもこの国に代々伝わる特殊な王冠があってね」


「王冠?」


偉い人が頭にかぶるアレだろうか?ごくまれにコウちゃんもキラッキラの金ぴかの奴をかぶっていた記憶がある。


「そう王冠。それはこの国の王に受け継がれて行って、受け取った者は生涯それを自分だけしか触れないように保管するらしいのだけど…なんでも特殊な魔法が込められてるとか、加護が付いているとか言われてるのよ~」

「それが原初の神様由来の物って事?」


「さぁ~?それは分からないけど、でもキミの言う物が本当にここにあるのなら心当たりがあるのはそれかなって。だいぶ古いものらしいし」

「なるほどね~」


確かになんだかそれっぽい気がする。

一度見てみる価値はありそうだ。


「それって見れるのかな?」

「普通は無理だけどね。だけど今日は結婚式だ…つまりは王冠の譲渡も同時に行われるわけで、キミは随分と運がいいという事さ」


「結婚式って私でも行っていいの?」

「そこはキミ、頑張って潜入したまえよ。どうせこの国にも違法入国してるでしょう?」


何も言い返せない。

はぁ~人形って辛いなぁ~どこに行くにもいちいち忍び込まないといけないこの理不尽!


「むむむ…じゃあちょっと頑張ってみることにするよ」

「ははは、躊躇しないのが凄いね。でもキミってすごく綺麗だしドレスとか着れば正面からは無理でも中に入れれば普通にみんなスルーしてくれそうだ」


「ドレスか~」

「良かったら見繕おうか?そっちの方面にも顔が利くんだ私は」


「でも私は肌が見える物は着れないよ?」


首元を少しだけはだけさせてたり手袋を取ったりして特徴的な関節部をお姉さんに見せてみる。


「ふふっ本当にお人形なんだね。大丈夫だよ、ちゃんと配慮するから」

「そういうことなら」


なんだかあれやこれやと話が進んでいくけどこんなに簡単でいいのかなぁ?

まぁいいか、楽だし。


「じゃあこれ、お買い上げの指輪ね。この後時間貰っていいかな。何着かドレスを試着してもらって…あとは王宮の場所も教えよう」

「は~い。というかお姉さんいいの?不法侵入を後押ししちゃって」


「もちろん私が手をかしてる事はオフレコで頼むよ。そうしてくれるのならできるだけ手を貸すさ。私は人形遣いとしてキミの事を知りたいんだ」

「ふ~ん。まぁ私としても裏切ったりしないのならいいよ別に」


もしなにか不利益があったらその時に対処すればよいでしょう。

このお姉さんそんなに強そうには見えないしね。


「そういえばお姉さん名前は?」

「私かい?私は「マナギス」。よろしくね」


「私はリリって言うの。よろしく~」

「名前まであるのか!ははっ!これはいい。是非とも仲良くしてくちょうだいな」


そこから数時間。

お姉さん…マナギスさんに連れられてお店の裏に行き、そこにあったたくさんのドレスを試着した。

肌が見えないドレスなんてあるのかな?と思ったけど意外とたくさんあった。

そんなこんなで無事にドレスも決まり、王宮の場所も聞いたしあとは時間まで待つのみ。

もう日も暮れてしまったけど式はこれから始まるらしく、人が入場しきってからこっそりと中に忍び込む作戦で行くことにした。

人に紛れる案もあったけど失敗した場合どうしようもなくなってしまうからね。

一人二人に見つかったくらいなら「口止め」すればいいけど人が多いとそうもいかないのだ。


「そろそろかな」


夜も更け込み、真っ暗な王国。

目の前にある大きな王宮からは中の明かりが漏れていてそれ自体が大きな電灯のようだ。


「ん~窓から入るのは目立つかなぁ~?」


王宮を眺めてみるけど正直忍び込めそうなところがない。

もう入口にいる人を数人やってしまって正面から入るほうが簡単な気がしてきた。

式とやらはもう始まっているはずなので皆そっちに集まってるだろうし。

よし、そうしよう。

私は堂々と正面入り口に向かって歩いて行く。


「ごめんください~入りますよ~」


扉を開けて勝手に中に入ったけど…なんと誰もいなかった。

拍子抜けした。

警備ざる過ぎない?いやでも王女様の結婚式なら皆見たいよね~。

私としては無事に中に入ることができたのでいいのだけど。


「…あれ?なんだか静かだね?」


王宮内部は驚くほど静かで物音ひとつしない。

どこかで盛大な式が挙げられているはずなのにびっくりするほど静まり返っている。

随分と静かな式を挙げてるのかな?と思わない事もないけど…なんというか人の気配を感じないのだ。

もしかしてマナギスさんにはめられた?

猜疑心に駆られながらも私は王宮の中を進んでいった。


やがて一際豪華な扉を見つけたのでそっと開いて中に入ってみた。

どうやらこの部屋がお目当ての場所だったらしく、部屋の中は豪華に飾り付けられて、美味しそうな食べ物もたくさん並べられている。

でもそれ以上に目を引くのは…まるで床を彩るように散らばった夥しいほどの死体の山だった。

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