第155話 人形少女は買い物をする
「およ?」
お人形さんと突然言われて驚いたけれど、まだ私の事がお人形さんの様に可愛い!という意味かもしれないし行動を起こすのは早い。
「店内を見てもらえばわかるようにこれでも名の知れた人形遣いでね、一目見ればすぐにわかるよ。さすがに喋って自立しているのを見るのは初めてだけどね」
「ほほ~」
さてどうしたものか。
私の事を可愛いと思ってくれたのではなく、正しく私の正体を見抜いての発言だったらしい。
う~ん、殺したほうがいいかなぁ?
「おっと、少し落ち着いてよ。別に私はあんたを売ろうだなんて考えてるわけじゃない。というかそんな真似をしたらあっさり殺されそうだし、他にも被害が広がってしまいそうだ」
「どういう意味?」
「それは自分が良く分かっているだろう?血の匂いがするよキミ」
「えぇ~」
自分の腕の匂いを嗅いでみるけど血の匂いは特にしない。
そりゃそうだよ、さっきは返り血なんか浴びないように首の骨を捩じり折ったし。
「君は不思議だ。悪ではないけれど夥しいほどの血の匂いがする。恐ろしくねじ曲がっていて…でもまっすぐで純粋な…とにかく奇妙な存在だ」
「ん~?」
この人もあれだ、難しい言い回しで回りくどい事を言うタイプの人間。
つまりは偉い人、もしくは不思議ちゃんのどちらかだ。
「まぁとにかく私は君をどこかに突き出して売るつもりはない。だから見逃してはくれないかな」
「うーん」
「私はね、人形遣いとして君という存在に興味があるんだ。だから危害を加えるようなマネはしないし何なら君がここに来た目的次第では協力してあげられるかもしれないよ?勿論私を殺しに来たとかだと協力できないけれど」
「別にあなたをどうこうしようとは思ってなかったけど…」
今では若干殺してしまったほうがいいような気がしている。
でもこういう怪しい人は古来より無駄に情報通だと相場が決まっている。
なので少しだけ話をしてみることにした。
「えーとなんだっけ…原初の神様?って知ってる?」
「ん?そりゃあ知ってるけど、あれでしょ?この世界を創った神様とかいう…子供でも知ってる有名な御伽噺だ。それがどうかしたの?」
「んとね、この国にその神様に由来する何かがあると聞いて来たんだけど心当たりあるかな?」
「んん?これまた不思議な探し物をしているんだね。…しかしどうだろう、そんないわれのある物なんてこの国には…いや待てよ?」
「お、なにか心当たりが?」
「そうだね…でもまずは」
ちらりとお姉さんがショーケースのほうに視線を流す。
「なに?」
「ここはお店だよ。まずは何か買っておくれよ」
「協力してくれるって言ったのに」
「まぁまぁ、私も生活があるんだ。情報料の代わりに何でもいいから買っておくれよ」
そう言われればごもっともな気もする。
マオちゃんにお土産買わないといけないしせっかくだからいいのないか見てみよう。
「ちなみに安いの買ってもいいの?」
「うん、値段は気にしないよ。何を買ってもきっちり情報は渡そうじゃないか」
「は~い」
ならいいかとお店の中を物色する。
ショーケースの中に入っているのはやっぱり宝石のような綺麗な見た目だが、よく見ると壁などに無骨な形をした道具もかけられていて魔道具っていろんな種類があるんだなぁと見ていて飽きない。
「魔道具ってどういう事ができるの?」
「いろいろ出来るよ。魔力を流すことで魔道具に込められた魔法を発動出来たり」
「…魔力を流すくらいなら自分で使ったほうが良くない?」
「そう簡単に魔法が使えるのならだれも苦労しないさね」
「そうなんだ?」
あれだろうか、なんか使うのが難しい大魔法的なあれなのだろうか。
まぁでも魔法系の魔道具はいらないかもしれないなぁ。私はもちろんマオちゃんもあんまりいらなさそう。
あ、でも娘たちにはお守り代わりにいいかも?ん~でもまだ小さいし暴発とか怖いか…。
というかどれがどういう効果があるのか分からん!聞けばいいのだろうけど1から全部聞いて回るのもめんどくさい…なにかいい感じのないかな?
そこで私の目に一つの小さな魔道具が飛び込んできた。
「ねーねーこれはなぁに?」
「あぁそれは物好きな職人が遊びで作ったのを私が引き取ったやつで魔法の力が込められた指輪だね」
そう、私が気になったのは小さな箱に入った一組の指輪。
宝石なんかもついてない飾り気のない銀の指輪で、よく見ると模様のようなものも刻まれているが随分とシンプルで簡素な物だった。
「どういう物なの?」
「その指輪をはめた人のサイズに関係なくぴったりとなって外部からはとれなくなるの。自分では外せるけどね」
「へぇ~…じゃあ私これを買うよ」
「おや、意外なチョイス」
そうかな?でもやっぱり魔法が使える系は全くひかれないし、他も良く分からない。
そんな中でこれは明確に使い道があるうえになんで忘れてたんだろうってくらい大切なものだ。
結婚指輪。いや、この場合は婚約指輪なのだろうか?
そんな文化があるのかどうか知らない。だけど私はこれが欲しい。
「とにかくこれ頂戴。いくら?」
「そうだね、じゃあ金貨50枚でどう?役に立たないけど完全な一点ものだし、今後入荷もしないからね」
「いいよ、はいこれ」
財布代わりに使っている袋をひっくり返して中から金貨を出した。
「おお…え、本当に?」
「何が?」
「いや…本当に50金貨払うつもりなの?」
「うん」
「そんなにこの指輪欲しい?」
「欲しいから買うんだよ」
「ちなみに使い方を聞いてもいい?」
「好きな人とね一緒につけるの。私達の愛の証として」
お姉さんが私を探るように見つめた後、ふっと息を吐くようにして苦笑いしてカウンターにぶちまけられた金貨の中から数枚だけ抜き取った。
「あれ?それだけでいいの?」
「ああ。高価な物には変わりないけど君以外に買う人もいないだろうし適正値段はこんなものだよ。吹っ掛けて悪かったね」
私は別に50枚払ってもよかったけどね。
それくらい欲しいと感じるものだったわけだし。でもまぁ安くなるのなら別にいいかと金貨を回収した。
「じゃあそれと情報も忘れないでね」
「ああ勿論さ…んん?なんだか外が騒がしいね」
お姉さんに言われて気づいたけど確かになんだか店の外がざわざわしている。
「なにか事件かな?」
「かもしれないねぇ」
「まぁでも関係ないよ。はやく指輪と情報ちょうだい」
「はいよ」
そうしてお姉さんは指輪を包んでくれながら話もしてくれた。
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