第154話 人形少女は王国を歩く

 いったん帝国に空間移動してそこから歩いたり馬車を捕まえたりすること三日。

時間はかかったけれどなんとか王国とやらにたどり着いた。


なんかもっとこう便利に移動できるようにならないものだろうか?一度行けば空間移動で行けるんだけどなぁ。


日中は移動して夜は一時間くらいお屋敷に戻ってその後は再び移動…なかなかのハードワークだ。

まぁ私は疲れないから別にいいんだけどさ。

筋肉痛とかないし…あれ、私の身体もしかして関節の摩耗とかでゆるゆるになったりしないよね?

怖い事考えちゃった…。


なんだろう、最近日中歩いてる時に背後から視線を感じる事があるんだけどそのせいでネガティブ思考になっているのかもしれない。

いやね、歩いてると後ろから視線と気配を感じるんだけど振り向いても誰もいないし怖いのよ本当に。

お化けとかいるのかなこの世界…しかし夜中は視線を感じなくて昼間だけなのでお化けだとしたらなかなかに枠にとらわれないお化けだ。


そんなこんなでたどり着いた王国。

そしてここで降りかかるお決まりの問題…入国審査である。


ざっと見たところ身体検査とかされてしまうらしい。なぜ私にこっちを任せたんだクチナシよ。

いや、クチナシでも結局は人形ボディだから同じか。さてどうしたものか。

せめて日が落ちてれば門番さんをさくっと始末して中に入るんだけどなぁ…神都では問題になってなかったし今回もいけるはず。


そう私が考えながら王国の入口の大きな門を眺めていた時、なにやら騒がしくなってきた。


「お~い!ちょっと手をかしてくれ!」

「どうした?」


「近くで商人の死体が出たんだ!馬車も壊されて酷い状況らしい」

「モンスターの仕業か?」


「分からん…だがかなりひどい状態で辺りも警戒しないといけないしで人手が足りないんだ」

「そうかわかった。とりあえず門を閉じるから少し待っててくれ!」


「急いでくれよ!」


バタバタと鎧を着た人たちが私の横を慌てて通り過ぎていく。

話を聞く限り近くで事件が起こったみたいだけどこれはチャンスだ。

人が少なくなるのならこっそりと正面から入れるかもしれない。

私はその場で少しだけ待ち、門番をしていた人が同じように走って行くのを確認した後、堂々と門をくぐろうとした。


「…閉まってる」


そりゃそうだ。

閉めるって言ってたもん。


だけど外から開け閉めできるはずないしどこかから少なくとも門の操作ができる場所には入れるはず?

その予想は当たり、門から続く外周のところに小さな扉を見つけ、中に入ってみた。

鍵がかかっていたので思いっきり引っ張るとバキッと壊れてしまったけど許してほしい。


「な、なんだあんた!?」

「あ」


しまった。まだ人が一人だけ残ってた。


────────


「さてさて、無事に入国で来たけど何をどうしたものかな」


不幸な事故で一人死人が出てしまったので、ここでなんの手がかりもなく帰るのは心苦しい。

え~とクチナシの話によるとこの国に原初の神様にまつわる何かがあるらしくて、それを探してほしいらしいけど…そんなものどうやって探せば?


聞き込みでもする?


神様にまつわる何かを知りませんかー!って?変な人だと思われないだろうか。

そもそもどうして神様の手がかりなんてものが必要なのかと言うとコウちゃん曰く「頑張ってみたけど殺せなかった」そうで、なにか有効な切り札が欲しいとかなんとか。


う~む…どうしたものか。

とりあえず私は王国を観光がてら歩くことにした。


数時間ほど歩いてみたけれど今日はお祭りでもあるのかとても賑わっており、人通りもとても多い。

露店もたくさん出ていて普通のお店も含めセールしてるみたいだし道行く人達の表情も明るい。


このがやがやした雰囲気は好きだけど人から話を聞くにはうるさすぎる。どこかいい場所はないかなとキョロキョロしていると一つのお店が目に留まった。


なにやら高級そうな外観で、外から覗いても客はそんなにいないように見える。

ここなら落ち着いて話が聞けるかも?よし、入ってみよう。


重めの扉を押し開けて店内にはいると落ち着いた雰囲気の場所で、たくさんのショーケースの中にいろんな宝石のようなものが並んでいる。

宝石屋さんかな?私はあんまり興味はないけれどマオちゃんはこういうの好きかな?


「いらっしゃい」


カウンターに気怠そうな雰囲気のお姉さんが座っている。

どうやらこの人が店員らしい。


「こんにちは。ここは宝石屋さん?」

「んにゃ、ここは魔道具屋だよ」


「魔道具?」

「読んで字の如し、魔法の力が込められた道具の事さ。知ってるだろ?」


「知らない~」

「ん~例えばあれも言いようによっては魔道具だ」


お姉さんが指をさしたのは私以外のお客さん…と思いきやよく見るとそれは人間じゃなくて人形…私と同じくパペットのようだった。


「お客さんだと思ってた」

「ははは、あれの役割は店員だよ。人件費もかからんし休みもいらん。実に優秀な店員さ」


「ほほ~」

「それで?うちに何の用かな。お人形さん」


お姉さんがにっこりと笑った。

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