第153話 人形少女は娘にも弱い

「うえぇえええええん!」


アマリリスが大泣きしながら私にしがみついてきたのでそのまま抱きかけて背中を優しく撫でる。


「リリちゃ~ん!びぇえええええええん!!」

「よしよし、今日はどうしたの」


身体はいつの間にか大きくなったのに、泣き虫なところは全く変わらない…それどころか悪化している気すらする。

ちなみに私の事を娘たちはリリちゃん、マオちゃんの事をママと呼んでいるがこれは別に私が母親認定されていないという事では断じてなく、ただ単に言葉を教える段階で「ママだよ~」ってマオちゃんと二人で言ってると娘たちが混乱したので名前で覚えてもらおうとしたところ何故か私だけ名前呼びになったという経緯があるのだ。

そしてアマリリスはどちらかと言うと私に懐いていて、こうしてよく私に泣きついてくる。

いや別にマオちゃんに懐いていないとかではなく、ただ単にどちらかと言うと私のほうに来るってだけだよ。


「ひっく…ぐすん…おねえちゃんが見つからないの~…ぐすっ」

「リフィルが?どこか行っちゃったの?」


「かくれんぼしてて…ずっと探してるのにいないの…」

「なるほど…」


私の視線の先…部屋の入口の扉からこちらを覗いてニコニコと楽しそうな顔をしている黒をベースに様々な色のメッシュが入っているという髪色をしてアマリリスと同じようにピンク色のつけ髪を横から垂らしている女の子がいる。リフィルだ。

あの様子だとかくれんぼと言いながら後ろからこっそりとついて行ってリフィルを探し続けるアマリリスを見て楽しんでいたのだろうとわかる。


「こらリフィル。あんまりアマリリスをいじめないのっていつも言ってるでしょう」

「ごめんなさぁいママ」


マオちゃんに軽くたしなめられた後に部屋に入ってきたリフィルはマオちゃんに寄っていくと私たちと同じように抱きかかえられる。

リフィルのほうはどちらかと言うと私よりマオちゃんに懐いている。


「あ、おねえちゃん見つけた~」

「見つかっちゃった!」


キャッキャッと私とマオちゃんの腕の中で楽しそうにしている二人。

別に喧嘩してるとかじゃなくて一安心。

いや、この二人は仲がいいというかなんというか常に二人一緒でべったりなのでたまには喧嘩したらどうだい?と思わない事もない。

しかし私とマオちゃんがほとんど喧嘩をしないからそんなもんかとも思う。ちなみにだが私が一方的に怒られることはよくある。


「ほら二人ともリリはこれからお出かけするみたいだから見送ってあげて」

「え…リリちゃんどっかいっちゃうの…?ふぇ…」

「ちょっ!泣かないでアマリリス。そんなにかからず帰ってくるから」


瞳をウルウルさせて今にも泣きだしそうになるアマリリスを慌てて宥める。


「どれくらいで帰ってくる…?」

「え~…一週間くらい?」


「う…うえぇえええええん!ながぁいぃ~~~!!うわぁあああああん!!」

「ええー!?わかった、もう少し早く帰ってくるから!」


夜は帰ってくるけど夜中になるので二人とも寝ているはずだし…時間を早めるとそれはそれで夜の行動が制限されて支障が出るかもしれないし。

こうなったら頑張って調査に時間がかかりそうなら三日に一度は休みで家に帰るとかしたほうがいいかもしれない。

そんな事を悶々と考えていた私をマオちゃんとリフィルはニヤニヤとして見ていた。


「もう~マオちゃん助けてよ~」

「ふふっ、ホントリリって私たちに対してすっごく弱いよね。ほらアマリリス、わがまま言わないで離してあげて。そのかわり帰ってきたらリリが遊びに連れて行ってくれるってよ」

「ぐすっ…リリちゃんほんと…?」


「え…えー?」

「連れて行ってくれないの…?ふぇ…」


「待って!行く!行くから!どこに行こうかなって考えてたの!!」


見よ、齢五歳の娘に翻弄される人形の姿を。

そのままなんとかアマリリスを宥めてお出かけの準備をしたけれど、その間もアマリリスは私から離れようとしなかったしリフィルは何故か私の荷物の中にニコニコしながらお手製のぬいぐるみ(メイラにお裁縫を教えてもらっているらしい)を入れようとしてくる。


「じゃあ行ってきま~す」

「行ってらっしゃい」


マオちゃんにお出かけのちゅーをしたいところだけど娘たちが見ているのでどうしたものか。


「ママにちゅーしないの?」

「ぶほっ」


リフィルがそんな私の心を読んだかのような事を言うので動揺してしまった。


「してくれないの?リリ」


マオちゃんまでいたずらっぽい笑顔で自分の口を指さしたのでもうどうにでもなれぃ!と軽く唇同士を触れさせた。


「きゃーっ!」

「ふわわ~」


何故か娘二人から歓声が上がり、少し気恥ずかしい。

どうで夜は戻ってくるからと私は逃げるように屋敷を飛び出したのだった。


久々の外出だし頑張ろう。

クチナシからも「なんだかきな臭いものを感じるので十分に気を付けてください」と言われているので気を引き締めよう。

よ~し!頑張るぞ!



────────


リリが旅立って数時間後。

ぬいぐるみが大量に転がっている部屋で幼い子供二人身を潜めて小声で会話をしていた。


「おねえちゃんほんとうに行くの…?」

「うん!」


「おこられないかなぁ…」

「大丈夫だよ!クチナシちゃんもメイラちゃんも出かけてるし、ママも魔界にちょっと行かないといけないって言ってたし!」


「うぅ~でも~」

「アマリだってリリちゃんについて行きたいでしょう?」


「…うん」

「ちょっとお出かけするだけだし大丈夫だよ!リリちゃんにこっそりついて行くだけ」


「でもでもママに勝手にお出かけしたことがばれたら…」

「こうちゃんとあーちゃんにうまい事ごまかしてもらえば大丈夫!」


「う~」

「じゃあアマリはお留守番する?お姉ちゃんは行くけど」


「ふえ…それはいやぁだぁああああ~、うぇええええええん!」

「でしょ?じゃあ行こう!」


今ここにコッソリと人知れずと小さな冒険が始まろうとしていた。

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