第152話 人形少女は次の目的地へ

――あれから五年。

いろいろあったと言えばあったし、なかったと言えば…いや無かったとはやっぱり言えないかもしれない。


まず魔王城が無くなった…というかぶっ壊した。マオちゃんが。


詳細は良く分からないのだけど私が黙々と魔界の領地を回っていた時にレザ君とべリアちゃんがマオちゃんに反旗を翻したそうで…その時は私はもちろん、クチナシもいなくてメイラと二人で娘たちを守りながらマオちゃんが応戦したらしいけど結構押され気味だったらしく…うーん、正直あの二人そんなに強くはない気がするのだけどとにかく危ない状況だったらしい。


そこでなにやら胸騒ぎを覚えた私が帰還、からのブチ切れ。

正直な話そのときの事はほとんど覚えていない。

いつもは私を止めてくれるクチナシもいなかったというのもあり、マオちゃんと娘たちに手を出そうとする二人を見て何もわからなくなるほどに怒りが湧いてきて…気が付いた時には辺りがボロボロになっていてレザ君とべリアちゃんの姿もなく、マオちゃんとクチナシが私の身体にしがみつくようにして名前を呼ばれたことで意識が戻った。


どうやら二人は逃げ出してしまってとどめを刺すことは出来なかったみたいで、それもまた腹立たしかった。

追いかける?と提案してみるとマオちゃんが、


「ううん。ちょうどいいしここでもう終わらせてしまおう」


と言って魔王城から全員を追い出したのち…赤いオーラのようなもので魔王城を破壊しだした。

それはもう一心不乱にどかんどかんと大きなお城を手当たり次第に壊していき、突然の出来事に私を含めその場にいた全員はポカーンとして(リフィルは大笑い、アマリリスは大泣き)成り行きを見守っていた。

マオちゃんの力は凄まじいもので30分もしないうちに魔王城は瓦礫の山に変わってしまった。

そして妙にすっきりとした顔で振り向くと


「行こっか!」


と言った。

その後は例のアーちゃんが譲ってくれた家があるという場所に皆で行くことになった。

マオちゃんにはいいの?と聞いたのだけれど大丈夫と笑っていたのでいいのだろう。


何を考えているのかは分からないけれどマオちゃんが話さないのなら知る必要なんてないしね。

私はマオちゃんがする事なら何でもそのまま受け入れるだけなのだから。

きっと本当に困ってるのならちゃんと言ってくれるはずだから。


そんなこんなで教えてもらった場所にたどり着くとそこにあったのは家…と言うよりお屋敷だった。

ただし外装はなんというか結構ボロボロでお化け屋敷と言われれば信じてしまいそうな感じだ。

本当にここ…?と思いつつも扉を開けて中に入ってみるとメイラと似たようなメイド服を着た糸目の美人さんと小さい女の子が出迎えてくれた。

ひとまず挨拶をしようと思ったのだけど、メイラが糸目の美人さんのほうを突然殴り飛ばし、小さい子をナイフで突き刺そうとしたので慌てて止めた。


「メイラ落ち着いて!どうしたの突然!?」

「ふーっ!ふーっ!こいつら…悪魔です」


褐色肌だし角もあるのでそれは分かるけどまさかメイラがここまで悪魔が嫌いだとは思わなくてびっくりだ。

とりあえずメイラを落ち着かせ、悪魔ちゃん二人に話を聞くと糸目の美人さんが「嫉妬」、小さい子のほうが「色欲」という名前らしくてアーちゃんに頼まれてここの管理などを任されているとの事だった。


とりあえず二人には謝って先に住んでいるはずのアーちゃんたちのところまで案内してもらうと豪華な椅子に座ったアーちゃん…に座ったコウちゃんがいて実に偉そうだった。

赤ちゃんなのにこれが当然という顔をして腕を組み、その短い脚を組んでいる姿はまさにコウちゃんだ。

アーちゃんもアーちゃんで本人が足がなくて立てないのもあって椅子役を満喫しているらしい。


そんな事もありつつとりあえずの情報交換。

魔界の事は後はなるようになるし、私もたまに帰るからとマオちゃんが言っているのでそちらはお任せ。


問題はもう一つのほうで、なにやら原初の神とやらが最近悪さをしているという話になった。

私の身体に使われているなんか変な木の枝に関係している人らしいけど正直私的には何の興味もないというのが本音だ。

別にその人がどこで何をしようと私には関係ない…と思っていたけれどマオちゃんもちょっかいを出されかけており、なおかつレザ君とべリアちゃんの突然の離反もその神様の仕業ではないかという事だ。

クチナシが二人にかけておいた呪いが断ち切られていて、そこに帝国を襲った神様と同じ気配を感じたそうだ。


そんなわけで私達の次の目的はその神様の対策やらなんやらという話になった。

しかし特に進展のないまま五年が過ぎてしまった。

いや、私は基本的に何かを探るとかは向いていないので何もしなかったから本当は進んでいるのかもしれない。


そんなある日。


「神様の手がかりになるかもしれないものが見つかった?」

「はい」


クチナシからもたらされたそんな情報を頼りに私はなんたら王国に出向くことになった。

同時に二か所ほどで手がかりを得られるかもしれないとの事でクチナシと分担して事に当たることになり、メイラもなにやら呼び出しを受けたとかなんとか言ってどこかに行くそうなので久しぶりの完全な一人旅だ。


「ちゃんと準備した?」


マオちゃんにそんな事を言われるが私は戻ってこようと思えばすぐに戻れるので忘れ物なんてさほど問題ではない。


「ダメだよ。それでも普段からきっちり意識してないといつか取り返しのつかない失敗をしてしまうかもしれないからね」

「は~い」


五年もお母さんをやっているとやっぱりなんだか母親的言動が増えるのかマオちゃんは娘だけでなく私の世話も焼くようになった。

それが私は嬉しいのでニヤニヤしてしまうのだけどね。


「だらしない顔しないの」

「はぁい」


ぎゅうっとマオちゃんの身体を抱きしめる。

そうするとマオちゃんも抱き返してくれるのでしばらくそうして二人で抱きしめ合う。


「たまには帰ってこないと嫌だからね」

「毎日帰ってくるよ」


「うん。待ってる」

「ありがと~」


五年たってさすがに環境もいろいろと変わった。

マオちゃんは短くしていた髪をまた伸ばして、それが関係しているわけではないだろうけど、なんだか最近すっごく色っぽくなった。大人になったと言うべきなのかもしれない。

でも私たちの間にある熱は何も変わらなくて…どちらからともなく見つめ合って唇を近づけていき…もう少しで触れるというところで。


「うえぇえええええん!ぐすっ…わーん!」


そんな泣き声が聞こえてきて私たちは慌てて離れた。


「ままぁ~!リリちゃーん~…うえぇえええええん!」


泣きながら部屋に入ってきたのはピンク色の髪を二つ結びでおさげにして横髪の部分に七色を束ねたつけ髪を垂らした幼い少女…五歳になった娘のアマリリスだった。

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