第133話 人形少女と魔王少女のほどけない糸

マオちゃんが無事に救出された翌日。私はマオちゃんに一人、月明かりが綺麗な夜に呼び出されていた。


「どうしたのマオちゃん」

「リリに聞いてほしい事があるの」


なんだかマオちゃんの雰囲気が違う。

何て言うんだろうか…すこし大人っぽくなったというか…妖艶さが上がったというのだろうか?うまく言葉にできない。


「なんでも聞くよ」

「ありがとう。あのねリリ…私はこれからきっととんでもない事をすると思う」


「うん」

「それは過去に歴史で否定された事実が確かにあって私は…無残に殺されてしまうかもしれない」


「うん」

「きっといろんな人が私の事を批難する。それでもリリは私といてくれる?」


私を見るマオちゃんの瞳からはなんの感情も読み取れない。

でも私の答えは決まっている。


「もちろんだよ。どんな時でも一緒にいるよ」


ズンッと胸に衝撃が走ってその仰向けに倒れた。

見ると私の胸に大きな穴が開いていてパラパラと破片が落ちていく。

そしてのしかかるようにマオちゃんが私の上に乗って何度も何度もその腕を振り下ろす。そのたびに私の身体には凄まじい衝撃が走り身体が壊れていく。


「なんで…なんでそんなに簡単に言えるの!?なんでなんでどうして!!」

「ま、お…ちゃん…?」


「私はこんなに不安なのに…!こんなに怖いのにどうしてあなたは…あなたはいつもそんな簡単に返事ができるの!なんでどうして!」


何が起こっているのか良く分からない…なんでか私はマオちゃんに攻撃されていて…そしてマオちゃんは涙を流して泣いていた。


「リリは…私なんかのどこがいいの…わからない…分からないよ…どうして…分からないの…私はリリにこの先もずっと愛してもらえる自信がない…なのにあなたはいつだって何も疑わずに私のために、私に良くしてくれる…それが嬉しいのに…私…わたし…!私なんかあなたに好かれるような女じゃないのに…どれだけ好きだって言ってくれても私が私を信じられないの…!不安なの…!」

「っふ…ふふっ…ふふふふふっ!」


私はたまらなくなって笑ってしまった。


「リリ…?」

「マオちゃん」


手を伸ばしてマオちゃんの身体を引き寄せて抱きしめた。

柔らかい身体の感触と心地のいい体温が身体に染みわたっていく。


「私嬉しいの。遠慮しないで心の内を私に教えてくれて。ごめんね私がマオちゃんを苦しめちゃってたんだね」

「違う!ちがうちがうちがう!悪いのは私…私だけなの…」


「ううんマオちゃんは何も悪くないよ。でもねマオちゃんは私が大好きな世界で一番の女の子だよ」

「…」


「好きで好きでたまらない。今この瞬間も大好き。一生どこまでもいつまでもマオちゃんの全部が大好き。マオちゃんが不安だって言うのなら私だって不安だよ…いつかマオちゃんが私のことなんていらないって言い出すんじゃないかって怖いよ」

「そんなこと絶対に言わない!」


「絶対?何があっても?」

「何があっても!リリがいない日々なんて考えられない…!」


あぁ…私はきっと世界で一番幸せだ。

この世界で何よりも綺麗で可愛いマオちゃんが私にここまで言ってくれるのだから。


「じゃあ私だって絶対だよ。マオちゃんがいない日々なんて考えられない。好きなの大好きなの。私の全てはマオちゃんの物だから…何だってしていいし、どう使ってもいいの。だからほら泣かないで」

「リリ…」


「また不安になったら何度だって大好きだ~!ってこの気持ちを伝えるから笑ってほしいな。マオちゃんは笑顔の時が一番きれいだから」

「で、でも私…こんな…こんなこと…!」


「いいんだよ。これはきっと愛だから」

「愛…?」


「そう…この世界で一番綺麗で尊いもの…愛のためなら何をしても許されるから」

「うん…」


ぎゅうっとマオちゃんも私を抱きしめる手に力を入れてくれる。

まるで最初っからこうであったように、ほどけない糸のように私たちはこんなにもお互いを愛している。


「これから大変かもしれないんだよ…?私はもう変わらないといけない…それでも私の事好きでいてくれるの?」


マオちゃんの涙交じりのそんな声が耳元で囁かれる。

お互いに抱きしめ合っているから顔が見えないけれど泣いていないと信じたい。


「うん、どんなマオちゃんでも大好きだから」

「私が死んじゃったら…?リリは違う人のところに行っちゃう…?」


「行かないよ。もしマオちゃんが死んじゃったら…私も一緒に死ぬよ」

「ほんとうに?」


「うん。そうしたらあの世でもまた一緒だね」

「私たちは…死にも引き裂けないんだね」


「うん。病める時も健やかな時も…死んだとしてももうずっと一緒だよ」

「リフィルとアマリリスに怒られちゃうかもね」


「私たちの子供だもん。きっとわかってくれるよ」

「そっか」


どれくらいそうしていただろうか。

私達は綺麗な月が照らす中でまるで一つの生き物かのようにいつまでも抱きしめ合っていた。


「リリ」

「うん?」


「明日からきっと忙しくなる。リリにも手伝ってほしい事がたくさんあるの」

「うん」


「だから今だけはこのまま…ううん、その先まで私と溶けて」

「うん」


顔を上げたマオちゃんがそのままゆっくりと顔を近づけてくる。

優しくそっと触れるようにお互いの唇同士がくっついた。

その後はマオちゃんの部屋で二人ベッドに潜って指を絡めて溶け合った。

今日だけはゆっくりと寝ていて欲しいと娘二人に願いながら、二人だけの時間を過ごした。

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