第134話 魔王様改革

≪アルギナside≫


「お前は何を言っている…?」


アルギナの元に現れた満身創痍のクラムソラードが話した内容にアルギナは動揺を隠せなかった。


「何ももない。全部ワシとワシの眷属が見た物をそのまま伝えただけじゃ」

「アルソフィアが魔族たちを皆殺しにしただと?あり得ない!」


「…それはあの小娘の感情的な話か?それとも能力的な事か?」

「力のほうに決まっているだろう!確かにあそこにいた魔族は戦闘力という点で秀でた者はいなかった…だがそれでもアルソフィアにどうこうできるはずがない!私は「あの子をそういう風に作っていない」!」


その叫びを聞いたクラムソラードははぁとため息を吐いた。


「やはりそういう類のあれか…」

「ああそうだ!先代の魔王は失敗作だった…うまく魔族への憎悪を植え付けられたのは良かったがなまじ力を与えていたせいで暴走したんだ。だからアルソフィアからは力を抜いた!アレはまかり間違っても大勢の魔族を相手に戦えるほどの力を持つはずがない!」


「だが事実だ。ワシの眷属がその現場を見届けている。お前は言っていたな?どう転んでも自分の利益になると。どうやら転ばなかったようだな」

「くそっ!なぜこうも何もかもが狂っていく…!」


苦々し気に壁を蹴り飛ばすアルギナだったが脳裏をよぎるのは一体の人形だった。


「…あぁあのガラクタだがな…身に纏う神性が以前の倍以上になっておったぞ。正直無茶苦茶じゃ」

「まさかリリが「枝」から作られたものだったとはな…」


「そのせいなのかは知らぬがワシではもう手が付けられんぞ。悪魔神の奴から聞いた情報もほぼ意味がなかった」

「ちっ!とにかくそっちは後回しだ。何をするつもりかは知らんがアルソフィアが魔王城に魔族たちを集めている。そこでアレがどうなっているのか見極める」


「そうか。ワシはさすがに一度戻るぞ」

「勝手にしろ」


クラムソラードの姿が消え、一人残ったアルギナはもう一度壁を蹴った。


――――――――


魔王城には玉座が置かれた大きな広間がある。

そこに集められた魔族たちはそれぞれの地区の責任者や力を持った貴族たちで突然命令で呼びつけられたことにそれぞれ不満の声を漏らしていた。

そこから一時間ほど待たされた後に広間に入ってくる者がいた…魔王だ。

魔王は睨むように魔族たちを見渡すと玉座に座り、尊大に足を組んだ。

今までとは違うその姿に魔族たちは少しばかり困惑したがそれも一瞬ですぐに魔王に向けて批難の声を浴びせた。


「魔王様、我々は暇ではないのです。何の用事なのかは知りませんがそう簡単に呼びつけられても困るのですよ」

「そうですとも我らは魔界のために日々働いているのです。普段遊んでいるだけのあなたには分からないでしょうけどなぁ」


それに続いてさらに数人の魔族たちが声を上げた。

それを黙って聞いていた魔王だったがひとしきり魔族たちが話し終えた後にゆっくりと口を開いた。


「言いたいことはそれだけか?」

「は?」


「言いたいことはそれだけかと聞いている」

「え…いや…」


やはり魔王の様子が何かおかしいと魔族たちはざわめきだす。


「そうか。ならば今私に暴言を吐いた貴様ら全員不敬罪で死刑だ」


最初に魔王を批難した魔族の身体がぐちゃっとつぶれた。


「…え?」


周りの魔族たちは何が起こったのか分からないと言った様子で茫然と立っている。


「次はお前だ」


続いてもう一人の身体が同じようにつぶれる。

そこでようやく悲鳴が上がった。


「うわぁあああああああ!?なんだこれはぁ!?」

「何を考えているのです魔王様!?」


魔王は一切表情を変えずそんな騒ぎを見つめている。


「何を考えているのかだと?お前たちは法律という物を知らないのか?魔王に…私に不敬を働けば厳罰に処す。当然の事だろう?」

「そんなのはすでに形骸化したもので…!」


「それはお前たちが勝手にそういう事にしているだけだろう?私はな考えを改めたんだ」


そこでようやく魔王が笑った。


「考えを…?」

「ああ。お前たちは私に不満があったのだろう?力のない小娘には従えない、お飾りの魔王に忠節を尽くす価値などないと…私はなお前たちの望みになるべく応えたいと常日頃から思っていた。だからこそ先代の魔王とは違う平和で、必要以上に争うことの無い魔界を作ろうとしていた…しかしだお前たちはまるで手のひらを返したように私を否定したな?だから私はお前たちの望む通り強い魔王になることにした。必要以上に争う魔界にしようと決心した。今この場で宣言しよう、今までの私の大変不評だった政策を全て棄却し、先代の魔王が行っていた全ての政策を復活させる」


魔族たちは何を言われているのかわからなかった。

あのいつも自分たちの顔色を窺っていた小娘だったはずの魔王が…まるで虫でも見るように自分達を見ている状況を理解できない。


「どうした?なぜ誰も礼をしない?拍手をしない?お前たちがそれを望んでいるのだろう?」


その言葉を聞いて真っ先に動いたのは旧ガグレール領の魔族たちだった。

この場にいるのは数にして数人ほどだが慌てて膝をつき頭を下げる。彼らは知っているのだ…恐怖を。

しかしそれ以外の魔族たちは未だにリアクションをとれないでいる。


「はぁ…なるほどそこの数人以外は我に従う気がないのだな?では私が本気だという証を立てるために行動を起こすとしようか…アルニーゼ領並びにユルセリウ領」


自らの領地の名前を呼ばれた魔族がビクッと身体を揺らした。


「私たちの領地に何をするつもりでしょうか…」

「決まっているだろう?皆殺しだ」

「はぁ!?」


「私の意に沿わない領地、領民などいらない。恨むなら頭を下げなかった自分を恨め」

「馬鹿な!そんなことできるはずがないしやっていいはずがない!」

「そ、そうだ!ふざけるな!」


魔族たちが叫び声をあげたときだった。

背後から不思議な何かが軋むようなキィ…キィ…という音が聞こえてきた。

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