第182話 人形姉妹は邂逅する
突然目の前に現れた妙な雰囲気を持つ女性…フィルマリアに驚いたのかアマリリスは慌ててリフィルの背に隠れる。
リフィルは不思議そうにフィルマリアの事を注視して首をひねっていた。
「お姉さん誰?」
「私ですか?一応今はフィルマリアと名乗っています。どうぞよろしく」
「よろしく~私はリフィルですっ」
「…アマリリスです」
たとえどんなに怪しい者であろうと挨拶だけは欠かしてはいけないとリリから言われているので素直にぺこりと頭を下げて自己紹介をする習性が付いてしまっている二人なのだった。
「はい、ご丁寧にどうも。それにしても随分と派手にやりましたね、びっくりですよ私は」
「すごいでしょ!アマリがやったんだよっ!すごいよねー!」
「えへへ…でもお姉ちゃんが手伝ってくれたからできたんだよ…?」
「じゃあ二人の成果だね!ぎゅ~っ!」
「ぎゅ~っ」
心底嬉しそうにリフィルとアマリリスはお互いを抱きしめ合った。
そのままムニムニとお互いの頬をすり合わせてみたり、身体をもみくちゃにしてみたりとまるで何事もなかったかのようにじゃれ合いだす。
「いいですねいいですね。魔王が何を考えているのか分からないので悩んでいたのですがあなた達でもいい気がしてきましたよ私は」
フィルマリアは無表情をわずかに崩して笑うと膝を折ってリフィルに目線を合わせた。
「ん?お姉さんなぁに?」
「いえね、一緒にきませんか?私と」
「お姉さんと?どこに行くの~?」
「お、お姉ちゃん…なんだかこの人怖いよ…」
アマリリスは本能的な部分でフィルマリアに恐怖を覚えているのに対しリフィルは不思議な事に彼女に対して何か不思議な親近感のような物を感じていた。
乱暴に言ってしまえばリフィルは初対面の相手はほぼ全員嫌いだ。
この世のだいたいの物が嫌いなリフィルは今初めて初対面で不快感以外の物を感じる人物に出会ったと少しばかりフィルマリアに興味が出ていた。
「いいところですよ。そこではあなたは自由。何をやってもいいし何に縛られることもない。ただ好きなように好きな事をしていられる場所です…いえ、そういう場所を私が作ってあげましょう」
「じゆう?」
「ええ。あなたきっとこの世界が嫌いでしょう?残念ながら世界をどうこうされるのは困りますが嫌いな魔族と人間をいっぱい殺していいですよ。それ以外にもあなたの要望は出来る限り答えてあげましょう。あなたにうるさく言う者ももはや誰もいません」
「ほんと?怒られない?」
「ええ怒られませんよ。うんざりしてるのでしょう?あなたは「作られた魔王」や人形風情の元にいるような存在ではないのです。私と一緒にこの世界を好きにしませんか?」
「ん~」
「お姉ちゃん…」
アマリリスがリフィルの手をぎゅうっと握った。
このまま最愛の姉がどこかに行ってしまいそうで怖くなったから。
顔を上げるとリフィルはアマリリスの顔をじっと見つめていた。
握られた手と差し出された手…リフィルが選んだのは、
「帰ろうかアマリ」
「おや」
リフィルが選んだのはアマリリスだった。
握られた手を握り返し、そのまま妹の手を引いて屋敷に帰ろうとする。
「いいのですか?そちらを選んで」
「うん」
「なにか不満でも?」
「ないけどよく知らないお姉さんよりアマリのほうが好きだもん」
当然だとでも言いたげにリフィルはきょとんとした顔で言い切った。
「ならこれから知ってくれればいいではないですか」
「え~…でもお姉さんなんかママとリリちゃんの事嫌いそうだし。私はみんな大好きだから嫌だな~って」
「私も人の事言えませんがあの二人はかなりろくでもないですよ?それに二人と違って私はあなたの事を叱ったりはしませんよ?まぁどういう育てられ方をしているのか知りませんけど」
「だから何?ママもリリちゃんもアマリも全部全部私の大好きなもの…なのにお姉さんについて行く理由なんてないよ~だ」
「ないですか」
「うん。なんか最初はあんまり気持ち悪くなかったけどお姉さんのこと気持ち悪くなってきちゃった」
「なってしまいましたか…まぁいいでしょう。覚えておくといいですよ。愛していたものがいつまでもそのままなんてことは無いのだと」
勧誘をあっさりとひっこめ、立ち上がったフィルマリアは少しだけ悲し気な表情をした後リフィルに呟いた。
それはどこか実感を感じさせるような言葉だったがリフィルはニッコリと笑う。
「大丈夫だよ!だって私はずっと大好きだもん!」
「…そうですか。それならばよいのです…ところで一つだけお願いを聞いてもらえないでしょうか」
「なぁに?」
「あなたが魔王たちにかけている隠匿の魔法を解いてはもらえないでしょうか?アレのせいであなた達の居場所がよく分からなくて困っているのですよね」
「しらなーい。はやく帰ろアマリ」
「え…うん…」
リフィルに促されるようにしてアマリリスは転移魔法を発動させた。
一人取り残されたフィルマリアは空を見上げて先ほどのリフィルの言葉を思い出していた。
「私はずっと大好き、か…そうですね。そう思うからこそ私は…はぁめんどくさい」
その場からはいつの間にかフィルマリアの姿も消えていて、ただただ魔法による大穴だけが残っていた。
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