第181話 人形姉妹は完成させる

 リフィルは先ほどまで浮かべていたリリに似た笑顔を消し去り、おおよそ幼い少女がするものではない無表情でレザの事を見ていた。


「ただでさえ気持ちが悪いのに可愛いアマリの邪魔をするなんて何を考えているの?まぁそんな気持ちの悪い気配のするお兄さんだから転移魔法でこの場所を見つけることができたんだけどさ…正直もうダメだよね。お兄さんもうダメだよね」

「なにを言って…」


「ねえ喋らないでって言ってるんだよ?喋らないでって言ったよ?なんで聞いてくれないの?魔族のくせにどうして私の言うこと聞いてくれないの?なんでアマリの邪魔をするの?そんな権利お兄さんにはないんだよ?わかる?」


上に投げられたぬいぐるみは落ちてくることなく空中でレザのほうを見ているような形で制止していた。


「可哀想だからこういうことはしたくなかったけどお願いを聞いてくれないから仕方がないよね」


ぬいぐるみの口がひとりでに開く。


それを見たレザは少しだけ自らの身体に違和感を覚えた。


なんだか疲れたような…力が抜けたようなそんな感覚をわずかに覚えた。


それと同時にカツンと小さな音を立てて何かがリフィルの足元に落ちる。それは先ほども見た透き通るような色をした小さなガラス玉のように見えた。


それが一つ…二つ…そして三つと次々どこからともなく落ちてくる。

その度にレザの中から力が抜け落ちる。


「なんだ…これ…」

「まだ喋るの?」


今度は一気に10個ほどガラス玉が落ちた。

そしてそのままとどめなくガラス玉が地面に落ち続け、地面と別のガラス玉にぶつかりやや騒々しく音を反響させる。


レザはそこで気が付いた。


あのガラス玉は…原理は一切分からないが間違いなく自分の力だと。


ガラス玉が一つ落ちるたびに身体から力が抜けていく。

もはや立つことすら出来ないほどの虚脱感に襲われているがリフィルのじっとしていてという「お願い」のせいで膝をつくことが許されない。


(…おれ…は…)


もはや思考することさえできないほど身体からありとあらゆる力が抜かれレザは声を出すことができなくなった。


そんな姿を見たリフィルの表情はいつの間にかリリを思わせる笑顔に戻っており、満足そうにうなずくと足元に散らばったガラス玉を手元に戻って来たぬいぐるみの口の中に押し込めだした。


「ふんふふんふ~ん、いっぱいあって嬉しいなぁ~」


鼻歌を歌いながらガラス玉を拾い続けるリフィル。

ぬいぐるみは幼い少女が片手で持つことができるサイズにも関わらず、確実に体積を越えているであろう量のガラス玉を延々と飲み込み続けていく。


そんな中、いままで黙って作業をしていたアマリリスが明るい笑顔で顔を上げた。


「あ!お姉ちゃん!できたよ!」

「ほんと!?やっぱアマリはすごいねぇ~いいこいいこ~」


「えへへ~やったぁ~。あれ?おねえちゃんこの玉どうしたの?」


地面に落ちていたガラス玉をアマリリスが拾い上げようとしたがリフィルがやんわりと止める。


「だめ~地面に落ちてるやつだから食べちゃめ~だよ」

「食べないよ!きちゃない物はたべちゃめー!」


「うんうん。よし!じゃあ残りの魔法も混ぜ混ぜしちゃおうか!」

「うん!」


その後はレザが完全に沈黙してしまった事もありアマリリスの作業は時間こそかかったものの無事に終わり…その結果アマリリスの前には巨大な黒い塊が鎮座していた。


「できた…!リリちゃんのオリジナル魔法かおすすふぃあ!」

「わ~!やったねアマリ!」


「ねーねー!お姉ちゃんお姉ちゃん!これうってみていいのかな!いいのかな!」


普段は小動物的おとなしさのあるアマリリスだったが大好きな母親の魔法を再現できたという興奮と元々が魔法に対して並々ならぬ興味を持っていたことが作用し、今すぐにでも手元にある魔法をとき放ちたいという衝動を抑えきれず興奮状態になっていた。


それがどんな結果をもたらすのか…それはアマリリスにとって重要ではないのだから。

そしてそんなアマリリスの様子を見たリフィルは…。


「いいよ!どかんといってみよー!」


勿論楽しそうな最愛の妹の行動を止めるはずはなく、魔族たちにとっての死刑宣告があっけなく下されたのだった。


「わーい!いくよいくよ~!かおすすふぃあ!」


闇が全てを飲み込んだ。

反乱軍の隠れ家ごとそこにいた魔族たちは散り一つ残さずに分解され消えていく。

大人も子供も、生きていた者もすでに死んでいた者も全て一様に価値のない塵となって空気に溶けていった。


(べリア…俺は…)


迫りくる闇を見たレザが最期に何を思ったのか…もはやだれにも分からなかった。


────────


その場にあった何もかもを吹き飛ばし、ただ残った大穴の上でアマリリスは満足そうに微笑んでいた。

リフィルは妹の頑張りを讃えるようにアマリリスの頭を優しく撫でそのまま姉妹のじゃれ合いタイムに突入していった。


「はいアマリ~おでこちゅ~」

「ちゅ~」


何人死んだ、何人殺した。

そんな事を気にも留めない幼い姉妹はいつものようにお互いの仲を深めていき日常を過ごす。

だが、


「こんな地獄みたいな光景を作ったというのに随分と微笑ましいですね。ええ微笑ましい」


言葉とは裏腹に全くの無表情を顔に張り付けた女の形をした神…フィルマリアが二人の前に現れた。

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