第180話 人形姉妹は挑戦する
魔族たちは知る由もない事だがアマリリスが持っていた本はクチナシが用意した「リリが使える全ての魔法が記された本」である。
アマリリスに尋常ではない魔法の才能がある事を見抜いたクチナシが4歳の誕生日に送った物でリリの事が大好きなアマリリスはそれはそれは喜び、毎日その本を熟読し、再現できそうなものは実際に使ってみるという事を繰り返していた。
そして今、リリが持ちうる最大威力の魔法に初めての挑戦を行おうとしていた。
「えーとえーと…まずは全属性の魔法を発動させてその場に固定する…?」
「アマリできそう…?」
「うーんうーん…固定するってどうするんだろう…?えーと…こう?」
アマリリスの背後から灼熱の炎が吹きあがった。
その魔法は固定されることなくそのままアマリリスの背後を焼き払い、その場にいた魔族たちをまとめて炭に変えた。
「ふぇ…できなぁぁいい~!」
「わーっ!泣かないでアマリ!…そうだ!固定なら私ができるかも!手伝うからもう一度やってみよ!」
「ぐすっ…うん…」
たった今10近い命を奪ったというのに幼い少女はまるで気にも留めずさらなる魔法を繰り出していく。
「うーんと、うーんと…えいっ!」
再び猛烈な火柱が上がり、今度は部屋全体を飲み込もうとしたがそこにリフィルが手をかざすと炎はその動きを止めまるでその場所を彩る柱のオブジェのようにその場にとどまった。
「あ!できたよアマリ!」
「お姉ちゃんすごい!じゃどんどんやっていくね」
アマリリスが本の内容を読み上げていくにつれて水、風、土、光、闇と次に次に魔法の柱が上がっていく。
アマリリスが魔法を発動させ、リフィルがそれをその場に固定するのに少しだけ間があり、その度に近くにいた魔族が無残にもその命を散らしていく。
だというのに誰もその場から動くことができない。
逃げ出さなくてはいけないのに…もしくは二人の少女を止めなくてはいけないのにと思っているにもかかわらず指先一つとて動かせない。
「全部できた?次はどうするの?」
「えっと~…発動した魔法がぶつかり合わないようにうまく混ぜ合わせる…?ふぇ…分からないよぉ~」
「ん~?良く分からないけど…これ全部ばーんってくっつければいいんじゃないの~?」
「そ、そんなことしたら普通に魔法同士がぶつかって大爆発しちゃうだけ…だと思う…?」
それを聞いて気が気でないのは周りの魔族たちだ。
今彼らの目の前で制止している魔法は一つ一つが恐ろしい威力の上級魔法ばかりだ。
それがぶつかり合えばどうなるかなど想像するまでもなかった。
間違いなくここに居る全員をこの場所ごと消し飛ばしてしまうほどの威力の爆発が起こる…魔族たちはもはや恐怖を抑えきれなくなり、身体は小刻みに震えガチガチと歯を鳴らす。
しかしそれでもやはりそれ以上の身動きはとれない。
「どうすればいいんだろう?」
「うーん…ちょっとずつゆっくり混ぜ混ぜするしかない…かも」
「そっかぁ~リリちゃんはこれを一瞬で出来るらしいからやっぱりすごいんだね~」
「うん、リリちゃんすごい!」
「じゃあちょっとずつやってみよう!」
「あい…がんばるっ」
ズズズとアマリリスの元に炎と水の柱が少しづつ近づいていき二つの柱が触れた。
魔族たちは一瞬身構えたが何も起こることは無く、難しい顔をしたアマリリスが小さな手を柱に掲げてぶつぶつと何かを囁いている。
時間が経つにつれて柱どうしは融合するように少しづつ合わさっていくが今にでも膨れ上がった魔法が暴発してしまいそうな気配を漂わせていた。
「おい!それ以上はよせ!まずは話を…!」
謎の身体の硬直が他の魔族よりは軽いレザがたまらず大声を上げるとアマリリスが驚いたように身体を跳ねさせた。
それと同時に溶け合いかけていた炎と水が爆発を起こした。
飛び散った炎が魔族の身体を焼き、勢いよく放たれた水がそれまた魔族の身体を打ちぬいた。
絶命した者はその場に崩れ落ちたが少しでも意識があった者は身動きが取れないまま、その場で無残な傷を晒したまま立っていた。
そしてその中心にいたはずのリフィルとアマリリスには一切の被害は及んでいなかった。
まるで魔法が意志を持っていたかのように二人を避けたのだ。
「ふぇ…びっくりしちゃって間違えたぁ~!うぇえええええん!!」
「あれま…よしよし大丈夫だよアマリ。まだ魔法は消えてないし何度でもやってみればいいんだよ!…それにしてもお兄さんは静かにしててよね。アマリがびっくりしちゃうから!」
しーっとリフィルがレザに向かって口元に人差し指を添えるジェスチャーをした。
だがそこでレザは考えた。
(あの少女たちが何をしているのかは分からない…だが間違いなく「それ」は俺たちにさらに悪い状況をもたらすはず…ならば俺がここで取る行動は少しでも生き残る可能性の高いほうに賭ける事だ…)
レザは再び作業を始めたアマリリスに向かってそれを失敗させるべく今できうる限りの大声をぶつけようとした。
その瞬間リフィルが手に持っていたぬいぐるみを天井に向かって放り投げた。
「静かにしててって言ってるのにうるさくしようとするなんて本当に気持ちの悪いお兄さんだなぁ…私、少し怒っちゃった」
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