第257話 世界が終わると恐れられた日
――それを最初に見つけたのは誰だっただろうか?
空を見上げた誰かがが一筋の黒い流れ星を見つけた。
何だあれ?と一人が呟くと周りの人間も一様に上を見上げる。
すると最初は一つだった流れ星は次々に数を増していき、光が降り注いでいたはずの空は闇に飲まれたかのように黒くなってしまった。
「何が起こってるんだ…?」
「怖い…」
口々に不安をこぼしていく人々だったが次の瞬間、不安の声は悲鳴の叫びに変わることとなった。
「おい…あの星…こっちに近づいてきてないか!?」
「うわぁああああああ!!逃げろ!!」
キラリと瞬いた流れ星の一つが空を見上げていた人々の元に落ちてきたのだ。
それはひたすらに黒く、どれだけ近づいてこられようとも人々には何かわからない…しかし確実に良くないものだとは理解できるため慌ててその場から逃げようとするが、流れ星のように見えるほど遠くにあった時も肉眼で確認できるほどの大きさなのだ。
接近を感知した時点で逃げたところで間に合うはずもなく、数十人が闇に飲まれた。
流れ星が墜ちた場所は闇に削り取られたように穴が開き、何も残らない。
そのような物が一つ墜ちたのを皮切りに、二つ三つと次に次に降り注ぎ、地上を飲み込んでいく。
それが各地で同時に起こった結果、世界中が大騒ぎとなり各国で急ぎ対策が取られた。
ありったけの魔術師が集められ、防御魔法を使い国を守ろうとするも…そのような物は無意味とばかりに破壊の流れ星は魔法ごと魔術師を、そして国を削り取り、そしてまた降り注ぐ。
幸いこの現象は一時間ほどで完全に鎮静化したのだが、その短い間に失われた命は数千を超え、万に届こうとするほどだった。
流れ星の落ち方によっては最大で国土の三割ほどが消失してしまった国も出てきたほどだ。
また、小さな村などは住民を含め完全に消えてしまったものもある。
そんな状況を目にした誰かが言った。
「今日…世界は終わるのかもしれない」
────────
「まさかこんなことになるとはね~。やっぱり世界は面白い事でいっぱいだ」
黒い流れ星を興味深そうにマナギスは観察していた。
リフィルとの会話中に突如として地震に襲われ、慌てて報告に来た部下に連れられ外に出るとそこには彼女にとって興味深いと言うしかない光景が広がっていた。
「ん~あの女の子との会話に夢中になって戦場の様子を見るのをおろそかにしてしまっていたから詳しくは分からないけど…同時に人形兵の反応がロストしたという事から犯人はリリちゃんかな?たった一体のパペットがこれほどの力を持てるなんて…ふふっ!やっぱり長生きはするものだよ」
無邪気な笑顔で笑うマナギスの後方に流れ星が墜ちる。
そこは先ほどまでマナギスがくつろいでいた城だった。
「あ!しまったなぁ…王様をあそこに残してきたままだ。さすがに死んじゃったかな?くそ~いいパトロンだったんだけどもったない事したかなぁ。まぁでも仕方ないか、あの王様には進歩しようという気持ちが足りなさ過ぎた。人の可能性という素晴らしい物を信じきれなかった時点で王様の人生は詰んでたという事かな」
パチンとマナギスが指を鳴らすと、黒いローブで全身を隠した人間が数人ほど現れて跪いた。
「なるべくお金になりそうな物とか国家機密の書類とか手当たり次第に回収してきて。それを元にまた支援してくれそうなところを探すから」
「…」
黒ローブ達は何も言わずに下された命令を遂行するために動き出した。
「さてさて彼らは無事に戻ってこれるかな?…うふふふふ!余計な心配だね。今の私は最高にツイている。前向きに、ひたむきに努力する人を神様は見捨てはしないのだから」
マナギスは両手を広げ、目を閉じた。
流れ星が彼女のいる場所に落ちてくることはついぞ無かったのだった。
─────────
「頑張れー!負けるな―!」
「英雄様ー!」
とある国では他の国々とは違い、人々はとある一人の幼女に熱気のこもった声援を送っていた。
「ちくしょう!なんで我がこんな…!!!」
幼女…フォスは一直線に墜ちてきた流れ星を手にした光の剣で切り裂き、町を守っていた。
「フォス様頑張ってくださいー!」
「てめぇこの駄肉女!なにそっちに混じってんだ!少しは手伝えや!!!」
大声でフォスを応援していたアルスは、怒鳴られてもどこ吹く風でニコニコとした笑顔でフォスを見ていた。
「せっかくの私の光の英雄様の活躍なんです!水を差すなんて無粋ではないですか!」
「こんの…クソ悪魔が!!」
アルスはどこまで行っても自らの欲望を最優先とする悪魔だ。
それはこの非常事態でも当然変わることは無く、今の彼女はただただ自分の最愛の英雄の光を見逃したくないという一点のみで応援に徹している。
フォスは怒鳴りながらもさらに墜ちてきた流れ星を正確に処理していき、そしてその姿を見た人々はさらに歓声をあげていく。
「あの人こそまさに神話に語られる英雄様だ!」
「きゃーっ!英雄様素敵ー!」
その小さな掌を血がにじむほど握りしめ、まだまだ降り注いでくる黒い流れ星を睨みながらフォスは吠えた。
「リリあの野郎!覚えてやがれクソがーーーーーーーーーー!!!!!」
─────────
かつて龍の住処が存在していた木々が生い茂り、崖や谷が複雑に絡み合い天然の迷宮と化しているその場所に、周りの景色とは明らかに浮いた人の住むような家が建っていた。
その窓から外の様子をやけにオーバーな身振り手振りで覗いている女の姿があった。
「うっわ~外凄い事になってるよぅ☆クララこわぁ~い~ぃ☆誰の仕業だろうね~☆」
甘ったるく、語尾が上がるような喋り方でクララは部屋の中のベッドに縛られた状態で転がされているもう一人に話しかける。
「…あんな規模で魔法を行使できる存在などそう何人もいないでしょう」
「あなたとかね!原初さまっ☆」
「こうやって捕らえられている私なんかにできると思いますか」
縛られた人物、原初の神フィルマリアはベッドの上で瞳だけを動かして外の流れ星を見つめていた。
「やろうと思えばできるんじゃない?今だって抜け出そうと思えばできる癖に~☆」
「どうでしょうね。しかし本当に私ではないですよ」
「わかってるよぉ~☆あの真っ黒な魔法…クララ覚えてるもん☆リリちゃんの魔法よぉ間違いないっ☆」
「アレにそこまでの力があると?」
「あはっ☆なんでもあのお人形さんはあなたの樹の枝を二本も取り込んでいるらしいからね☆」
「ああ、そういう…」
二人が会話をしている間にも流れ星は次々に降り注ぎ、人の手は入っていない龍の住処の地形も無遠慮に変えていく。
しかし二人のいる家には塵一つ降りかかることは無かった。
「うふふふ☆それにしても便利だね~あなたと一緒にいるだけで死ぬようなことは無いんだもの☆あの流れ星は「偶然にも」あなたがいるこの場所を襲いはしないんだもんね☆可哀想だよね~そのせいで「死にたくても自発的には死ねないんだから」☆」
「…あなたの命の保証まではしていませんが」
「同じことだよぉ~あんな広範囲に被害が出るような魔法なんて私を巻き込んだらあなたにも被害があるでしょう~☆少し考えればわかるじゃん~お・ば・か・さ・ん☆」
「…非常に腹立たしいのでその喋り方を止めていただけませんかクラムソラード」
クララはその場で華麗なターンを決めると顔に添えるようにダブルピースからのウインクを披露した。
「クララの名前はクララだよ~☆かわいいでしょぉ~☆クララのファンになってもいいんだぞっ☆」
「ぶち殺しますよ」
黒き殺戮の流れ星を背景に、様々な物語が終わりに向かおうとしていた。
─────────
「え~…なにこれ…」
一仕事終え、帰宅したマオがすっかり地形の変わってしまった屋敷の周辺を見て茫然と呟いた。
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