第258話 人形少女は脱がされる

 クチナシに抱きかかえられて屋敷まで連れて帰ってもらったのちに、寝室で動けるようになるまで休もうと眠っていたところ、どうやらマオちゃんが帰ってきたようで、ちょっと声が聞こえてたのだけど…しばらくして悲鳴のような声が聞こえた。


何事だ!?と思いはしたけど身体は動かない。


その後は慌ただしく人が動いているような音が寝室まで届いていてずっと気になっていたのだけど、急いだ様子でリフィルが寝室に入ってきて動けない私の手を取った。


「どうしたの?」

「リリちゃん起きてたの!ちょっとおてて貸して~」


「ごめんね~まだちょっと動けなくて」

「うん~だから手を貸してほしいなって」


この子は何を言っているんだ?


動けないってことの意味が分からないわけじゃないはずだよね…?うーん?

必死に娘の事を理解しようと頭を悩ませていたけど、リフィルはそのまま私の腕を肩の辺りから引っ張った。


カコンと音をたてて私の身体から右腕が取り外されてしまった。


「え!?」

「すぐに返すね!アマリ~!運ぶの手伝って~!」

「うん」


いつの間にか寝室に入ってきていたアマリリスと一緒に私の腕を持って行ってしまった…。


「ええ~…」


あまりにも鮮やかな犯行に言葉も出ない。

というかあんなに簡単に外れるのか私の腕は…何か色々とショックだ。


娘にナメられてるのだろうか…。

いや別にいいんだけどさ…言ってくれればそもそも惟神の闇の中に人形はいっぱいいるから貸してあげるのに…。


「こらーーーーーーーーーーー!!!!」

「わーーーーーー!ごめんなさいママー!」



そんなマオちゃんの怒鳴り声が聞こえてきたのはそれから数十秒後くらいの事だった。

怒り声もかわいいなぁ。


そして数時間後。

今現在はベッドの上でマオちゃんに膝枕されている私。

至福である。

腕も無事に戻って来たので一安心!


「全く…あの子たちは…」

「まぁまぁ」


頭を抱えて渋い顔をしているマオちゃんを何とか宥める。


「リリがそうやって甘い顔するからやんちゃするんだよ」

「うぇえ…でもなんか怒ったりするの苦手で…」


正確に言うのなら怒るという行為のさじ加減が分からない。

前世で親に怒られた経験なんてないからさ。

私が何かしても、あの両親は私に何も言わなかったから。


「だから腕持っていかれたりするんだよ」

「うぅ…私ナメられてるのかな…」


「そういうんじゃなくて甘えられてるんだと思うけどね。リリなら自分達をちゃんと受け入れてくれるって思われてるんだよ」

「むむむ、そういうものなのかなぁ。ところであの二人は私の腕を何に使うつもりだったの?」


「高いところの汚れを拭こうとして手が届かなかったからリリの手に雑巾を持たせて距離を伸ばそうとしたみたい」

「おおう…」


まさかの掃除用具扱いである。

本当に甘えられているのだろうか…?もう考えないようにしよう。


「ところで掃除って?」

「ああ…なんかあの子たちの隣の部屋がすっごい汚れててね…」


「え、私ちゃんと掃除してたよ?」

「うん、まぁ…」


マオちゃんは何故か遠い目をしていた。

おかしいなぁ~マオちゃんがいない間に汚くしちゃいけないと思って簡単にだけど掃除はしてるんだけど…。

メイラや悪魔さん達も掃除してくれてるし。


「あ、もしかしてリフィルたち?」

「いや…あの子たちが言うには悪魔達がやったみたいだけど…」


歯切れの悪いマオちゃんの話を要約すると、どうやら私たちが戦っている時に屋敷に侵入してきた連中がいたそうで…そこで青ざめた顔をした私にマオちゃんはみんな無事だったから大丈夫だと言ってくれた。


それでその侵入者たちをはりきった悪魔さん達がここぞとばかりに凄惨な血祭りにあげたそうで、部屋に色々なものが飛び散っていたという事らしい。


「ひぃ~それは災難だったね…」

「ほんとだよ!もう…皆手伝ってくれたから何とかなったけどね」


「そっかぁ…でも動けるようになったら悪魔さん達にお礼言わないとね。娘たちを守ってくれてありがとうって」

「私もそう思ってお礼言ったんだけどさ。なんか微妙な顔してたんだよね」


「ありゃ、なんでだろう?部屋汚しちゃったから気まずかったのかな」

「かもね~」


それにしても今日は大変だった。

謎の侵入者に、気味の悪い人形と…体も動かなくなるし散々だ。


娘も危険にさらしてしまったみたいだし、あとで外も何とかしないといけない。

私の魔法のせいで屋敷は無事だけど周りの環境がエライことになってしまっているからだ。


今日は厄日だ…。


「リリ」

「うん?」


「私が家にいない間にちゃんと守ってくれてありがとうね」

「…なんかいろいろダメになっちゃたみたいだけどね」


「それでも全員無事だったんだからいいんだよ。住む場所なんてどこでもいいんだからさ」

「そっか」


相変わらず身体は動かないけど、優しく頭を撫でてくれるマオちゃんの手が心地よくて…厄日でもないなと思った。


「まだ動けない?」

「う~ん無理~」


マオちゃんの目がキュピーン!と光った。


「そっかぁ、動けないんだ~」

「なに…?怖いよマオちゃん…」


ニヤニヤといたずらっ子のような顔で笑うマオちゃんが私のドレスに手をかけた。


「ドレス汚れてるね。ちょっと脱ごうか」

「え…」


驚きの手際の良さでドレスが脱がされてしまい、私はすっぽんぽんにされてしまった。

なにやってるの!?


「いつもリリが私に好き勝手してるからこういう時くらい私がリリに好き勝手したい!」

「ええ!?」


妖しい目をしたマオちゃんが私の素肌(?)にそっと触れた。

いや、私の身体は人形そのものだから触っても楽しくないと思うんだけどな…硬いし。


「やっぱり綺麗だね」

「綺麗?」


「うん。リリの身体…とっても綺麗」


そう言ってマオちゃんは私の身体を撫で続けていた。

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