第167話 人形少女は濡れ衣を着せられる
いったいどうしてこんなことになっているのか。
意気揚々と結婚式に乗り込んでやるぜとやって来たのに目の前に広がるのはたくさんの死体。
少し前までよく嗅いでいた血や臓物の臭いまで充満しており、明らかに普通じゃない事が起こっていたことを物語っていた。
「えぇ~…そんな事ある?酷いことする人がいるもんなだなぁ。というかよりにもよってなぜ今日なのか」
これじゃあすべてが台無しだ。
…いや台無しか?私はここに何をしに来たんだっけ…そう、確か不思議な王冠を見てみようとしてここに来たわけで…となると皆死んでいるのはむしろラッキーなのではないだろうか?
「あ~でももしかしてその王冠を狙った泥棒の仕業ってこともあるのかな?うーん?まぁいいや、この部屋にはめぼしいものはないみたいだし他の部屋を探してみよう」
私は一応両手を合わせて黙祷しておくと扉を閉めて王宮内の探索をすることにした。
と言ってもさっきの部屋が一番大きくて豪華な扉していたので、それ以外となるともうしらみつぶしに探すしかなくめんどくさい事この上ない。
もう見つからなかったって言って戻ろうかなぁ?こんな不測の事態が起こっているわけだし、はやく帰らないとまた娘に泣かれてしまうし、そもそもクチナシが別のところに行ってるのならそっちでちゃんと成果を上げてくるだろう。
あの子は出来る子だからね、うん。
そうと決まれば帰ろう。帰ってマオちゃんとイチャイチャしよう。そうしよう。
「ってわけにもいかないよねぇ…」
ただでさえ数年間のあいだほぼほぼ外に出ない引きこもりのニート…いやマオちゃんのヒモといってもいい生活を続けてきてだいぶ私のクズ度が上がっている気がするのよね…。
たまにマオちゃんに連れられて魔界に顔を出したりもしてたけど何もせずに魔界を歩いてるだけだったし…いやマオちゃんからは「それで十分だから」って言われてたけどさぁ…あとは娘たちの面倒を見てたくらいで…これで愛想が付かされたってなると後悔してもしきれない。
ただでさえあのお屋敷には出来る女のメイラと、たまにやらかすけどできる子のクチナシがいるのだからここいらで私もできるってところを見せておかないとね。
…ちなみにだが私よりもニートを極めているコウちゃんもいるのだが下を見ても仕方がないからね。
「うおーがんばるぞー!」
こうして私は無駄に広い王宮内の扉を開けまくり、部屋の中をひっくり返しめぼしいものを探し続けるという行動に出るのだった。
そこからかれこれ2時間くらい経っただろうか?ようやく私はそれらしいものを見つけることができた。
「あったーーーーーー!かも」
なんだか良く分からないものがごちゃごちゃと置かれていた部屋の中心に透明の箱のようなものの中に入れられたキラキラと煌めく王冠を発見した。
「ん?でもこれ…どうやって入れたんだろう?というかどうなってるの?」
透明の箱はどこも外れそうになく、蓋のような部分が見当たらない。
さらには中の王冠も箱の中央に浮くようにして存在していて中に仕切りや台のようなものも見えないしただただ不思議だった。
ま、別にこれごと持って帰ればいいかと私は箱を手に取った。
その時、私がいた部屋の扉が勢いよく開かれた。
「およ」
そちらのほうを見ると…いや私は別にそっちを見なくても見えてるのだけど、どうも癖でやっぱり正面を向いてしまうのよね。
ともかくそちらのほうに目を向けるとそこには二人の男と一人の…少年のような少女のような子供がいた。
というかだいたい見覚えがある。
「勇者くんとレイちゃんだ。久しぶりだね~」
最後に会った時から結構時間が経ったけど間違いなくそうだ。
勇者くんはあんまり見た目が変わってないけど少し大人びて見えるしレイちゃんは背も伸びて中学生くらいの見た目になっている。
それでも性別が分からないのはさすがだと思った。
「リリさん…またあなたの仕業なのか!」
なんだか既視感があるこの光景!
恨めし気に勇者くんは私を睨んでいるけどこれはあれだよね、もうさすがにわかるけどどうせ上の死体の山を私の仕業だと思ってるんだろうなー!はぁー!疑われるの辛いなぁー!
「いうだけ言ってみるけど違うよ?」
「…」
明らかに信じていないという顔で黙り込む勇者くん。
そっちを相手にしてもしょうがないので私はレイちゃんに話しかけてみることにした。
「それにしてもレイちゃん久しぶりだね~突然いなくなったからマオちゃんと少し探したんだよ?…レイちゃんであってるよね?」
「お、お久し、ぶりです…」
ぺこりとレイちゃんが頭を下げた。
どうやら本人で間違いないらしい。その独特の話し方は変わっていない。
しかし声色からも性別が良く分からない。
もう少し成長して声変わりとかしなかったら女の子…と言えるのかもしれない。
いや本当に絶妙な顔立ちだ。
「レイ、もしかしてリリさんと知り合いだったのか!?だとすれば君は…!」
勇者くんが何かを言おうとした時、それを制するように手を突き出した男がいた。
褐色の肌に真っ赤で長いマフラーを首に巻き付けたイケメンくん。
「まー落ち着き給えレクト。ここは僕に任せてもらおう」
その男は一歩前に出ると、私に向かって人のよさそうな笑顔を見せた。
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