第168話 人形少女は話してみる
「というわけで僕と少し話をしないか」
褐色の男が首元のマフラーを少しだけ緩め、口元を見やすいように露出させた。
どうやら話をしたいという意志表示らしい。
というかこの人…たぶん悪魔だよね?存在感がメイラとか嫉妬と色欲さんによく似ている。
頭に角がないけれどアーちゃんにもないし、メイラの分は私がへし折ったからそんな感じなのかもしれない。
悪魔は角が折れると死ぬとかなんとか聞いたけどメイラだって生きてるし良く分からないのよねそこらへん。
おっと、それより今は会話だよね。とりあえず誤解だけは解いておきたい。
「いいよ。悪魔さんお名前は?」
「おっと」
褐色の男が少しだけ驚いたように目を見開いた。
「どうしたの?お名前を聞いてるんだけど?」
「いや失礼。まさか一瞬で見破られるとは思わなくてさ。これでもかなり人間に溶け込めているほうだと自負していたのだが…」
「待ってよヒート!悪魔って一体どういう事なんだ!?」
さっきから元気だね勇者くんは。
レイちゃんにも褐色の男にも食って掛かってるよ…。一緒にいるけど仲間とかじゃない感じなのかな?
それよりも…。
「ねえねえねえ。どうでもいいけど名前聞いてるんだけど?二回も聞いたよ?これで三回目だよ?お話ししようって言ったくせにどうして名前を教えてくれないの?馬鹿にしてるの?」
私はお話しするのは好きだけどこういうのは嫌いだ。
イライラしてきたしやっぱり適当にあしらって帰ろうかな?でも勇者くんは殺すとまたあのめんどくさい天使が出てくるかもしれないしレイちゃんも殺す理由は無いから邪魔されるとめんどくさいかもしれない…うーん。
「すまない。どうやら気分を害してしまったようだな…レクトも今はとりあえず待ってくれ。説明はこの後、」
私は腕の刃を展開すると褐色の男の首に斬りかかった。
男はギリギリで白刃取りをして首を落とすには至らなかったけどそこまで力は強くなく、こちらが力を込めればゆっくりと刃は首に進んでいく。
「…っ!これは…凄い力だな…!ちょっと待ってくれ!僕は会話を…!」
「名前を聞いてるのに答えてくれないのはそっちでしょう?」
「いや、本当にすまない!ヒートだ!僕の名前はヒート・ダークハート!」
「あっそう。でも私はもうだいぶあなたの事嫌いだし、死んでくれていいよ」
「だ、だめー!」
私を突き飛ばすようにしてレイちゃんが割り込んできた。
あぁ~なんかこれも前に似たようなことあったなぁ。
ちなみに勇者くんは私とヒートとかいう悪魔を交互に見るだけで動こうとはしなかった。
相変わらず不思議と気持ちの悪い子だね勇者くんは。
「レイちゃん。急に割り込むと危ないよ?」
「ん、でも、ヒートく、ん殺すの、ダメだ、から!」
「んーだめかぁ」
「だ、め!」
子供にはどうしても強気に出られない私である。
以前からそんな感じだったが娘ができたからか最近は本当に子供に弱い。
まぁちゃんと名乗ってくれたし一回くらいは見逃してあげようじゃないか。
私は腕の刃をしまって、ヒートくんに向き直った。
「…いやはや助かったよレイ。それと改めて失礼したね、まずは名乗るべきだった。反省してる、うん」
「分かってくれればいいよ~あ、私はリリ。よろしくね」
「ああ、よろしくリリ。じゃあ早速ききたいのだが。僕たちは先ほどここのとある部屋で大量の死体を見つけた。そして他の部屋を調べると王宮全体が荒らされていて、この部屋でリリを見つけたわけだ。状況的にどう見てもキミが犯人としか言えないのだが…どうだろう?」
「そうだねぇ…ん~…ちょっと私も信じてもらえるかは怪しいなぁって思ってきたんだけどさ。最初に言ってた死体云々は無関係~私も最初に見てびっくりした」
「ということは王宮内を荒らしまわっていたほうは?」
「それは私だねぇ、探し物があってさ」
私は片腕に抱えた透明の箱の中の王冠を軽く持ち上げてみせた。
「なるほど…ちなみに死体の件は無関係というがならば犯人に心当たりはあるか?」
「ないね~」
「…」
かなり胡散臭いものを見るような目で見られているがやっていないものはやっていないし、知らないものは知らないのだ。
いや…でも確かに客観的にみると私が怪しすぎるというのもわかるわけで…。
「なら話をかえよう。リリの持ってるそれはなんだ?どうしてそれを求めてここに来たのだ?」
「それがこれが何なのかよく知らないんだよね~。言われたから探してただけだし」
「言われた?誰に」
「ん~…妹みたいな子から?」
個人的に私はクチナシの事を妹のようなものと思っているので間違ってはない。
「キミは発言の全てが怪しすぎるし状況的にはやはりキミが犯人だとしか言えない…という状況を理解しているか?」
「うん」
「それでも人殺しはしていないと?」
「うん」
「…わかった。信じようじゃないか」
「ヒート!何を言ってるんだ!?どう考えてもリリさんは黒じゃないか!この人は以前にも大量の死人を出す事件を起こしている!それをそうして信じる!?やっぱりキミが悪魔だからなのか!?」
勇者くんがまたヒートアップしてきた。
ほんとうるさい子だ。
「レクト。僕は少なからずショックを受けているよ。これまでそこそこ長い時間を共にしていたというのに君は僕を悪魔というその一点のみで糾弾しようというのか?」
「当たり前だ!悪魔なんてそんな…!」
「あのさぁ、内輪もめするならもういいかな?私早く帰らないといけないし」
「そういうわけにはいかないな…どうだろう?僕とここで一戦交えてくれないか?」
「ん?」
ヒートくんがゆっくりと腰を落として拳を構えた。
「戦うつもり?大丈夫?キミさっきかなり力弱かったけれど…」
「先ほどは油断したからね。だが本当の僕は強いぞ」
「いや、帰りたいんだけど」
「少し相手してくれればそれでいいんだ」
意味が分からない。
どうして戦わなくてはいけないのか…めんどくさいし。
「相手してくれれば帰ってくれて構わないよ。少し確かめたいことがあるんだ」
「…まぁそういう事なら。言っておくけど死んでも文句言わないでよ」
「心配しなくても死なないさ。言っただろう?僕は強いぞ」
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