第169話 人形少女はめんどくさがる

 ヒートくんとの戦いが始まって数分が立った。


場所が広いとは言え建物の一室であるため非常に動きづらく、また個人的にレイちゃんを巻き込みたくなかったからあんまり派手な魔法とかは使わないようにしているしクチナシもいないから惟神も使えない。

色々な制限があっての戦いで正直言ってなかなか辛いものがある。

まぁしかし…。


「気が済んだ?ヒートくん」

「…いやはや、まさかここまで手も足も出ないとは思わなかった」


どうやら彼は私に有効な攻撃手段を持っていないらしく、達人のような動きで私を殴る蹴るしてきたんだけど全く痛くないのよこれが。


だから隙を見て頭を掴んで地面に叩きつけてみたり、足の骨を砕く勢いで蹴りつけてみたりと、とにかくボコボコにしてみた。


そして今は倒れているヒートくんを足で踏みつけている状態です。


…いや別にそういう趣味があるわけじゃないよ?ただやっぱり悪魔なので無駄に頑丈で何度も何度も立ち上がってくるからめんどくさくなってもう起き上がらないように押さえつけてるだけ。


「それじゃあもういいかな?」

「いいや、僕はまだ諦めていない」


「ん~…もしかしてなにか時間稼ぎとかしてる?」

「どうかな」


「むかつく言い方するねおぬし」


なんでここに勇者くんたちが現れたのか疑問に思っていたけど、もしかしてこの事件の生き残りがいて通報とかされちゃったのかな?と思ったりして。


となるとこの後大量に人が集まってくる可能性もあるわけで…そうなるとさすがにめんどくさくなってくる。

どうしたものかなぁ。

逃げてもいいけれどヒートくんはこの調子だとどこまでも追ってきそうだし…もう殺してしまう?


「ねーねーヒートくん。もしこれ以上続けるのなら私はあなたを殺すけどまだ立ち上がる?」

「ああもちろんさ。僕は正義の使者だからね。たとえ何度踏みつけられようと立ち上がるさ」


「そっかぁ~。じゃあ死んじゃえ」


私はヒートくんを踏みつける足に思いっきり力を込めた。


軽い抵抗感の後に何か硬く細長いものを連続で砕くと同時に柔らかく水分を含んだものを踏みつぶす感触が同時に伝わってくる。

ちょうど胸の心臓がある部分をまるまると踏み砕いた形になった。


「ひ、ヒートくん!!!」


レイちゃんが悲鳴のような叫びを上げながらヒートくんに駆け寄り何か魔法をかけていく。

たぶん回復魔法だと思うけど…さすがにどうしようもないと思うな私は。


ところで気になるのは勇者くんだ。


こんな状況になったわけだが先ほどから一歩も動かず、妙な顔をして立っているだけだ。

やっぱり仲間ではなかったのかな?


「ねーねーレイちゃん。ヒートくんとはどういう関係なの?」


私はレイちゃんの邪魔をせずにしゃがんで目線を合わせた後、少し気になったので聞いてみることにした。

実際マオちゃんと少しだけ心配していたのだ。


「ヒートく、んは、一緒にたび、したお友達、!」

「へぇ~じゃあ勇者くんは?」


「レクトくん、も!いっしょ!」

「そうなの?その割には…」


勇者くんはいまだ動かないでいる。


「その割にはあんまり仲間には見えないね?ヒートくんが死んでも特に何も思っていないみたいだし」

「…え?」


私の言葉にレイちゃんも勇者くんのほうを見て驚いたような表情で固まる。


「…ヒートは悪魔だ。人に仇なす悪魔で…レイ、リリさんと親しそうに話しているキミの事も信用できない」

「そ、そん、な!な、んで!きょう、まで楽しくたび、してきた、のに!ヒートくんともさっきま、でわらいなが、らお話、してたの、に!」


「騙されてたんだ。俺は勇者で人を守らなくちゃいけない…だから…」

「私が言えた義理じゃないけど相変わらず気持ち悪くてサイテーな子だねぇキミは」


うまく言えないけどやっぱり勇者くんの事は好きになれそうにない。

最初の出会いから始まり神都から今に至るまで、出会うたびに私の中で彼の好感度は落ちていく。


「あなたにそんなこと言われる筋合いは…!」

「あーあー、そういうのはいいから。よくは知らないけど楽しくやってたのに悪魔だなんだってだけで突き放すなんて人としてどうかな?って思うよね」


「どう思われても俺は誰かを助けるために勇者になったんです!悪魔に与するわけにはいかない」

「誰も助けられてないじゃん。みんな死んでたけど?」


私は天井を指さした。

丁度この上があの死体だらけの部屋のはずだから。


「あなたがそれを言うな!」


そこでついに勇者くんが剣を抜いた。

あ~めんどくさい事になってしまったかもしれない。

彼を殺すのはさらにめんどくさい事態を招いてしまう可能性が高いので殺せない。

さてどうしたものか…。


「落ち着けよレクト」


足元で声が聞こえた。

次の瞬間、突然爆発したかのように炎が広がる。


「うおっなんだこれ」

「!?」


レイちゃんも勇者くんも驚いた顔をしているのでどうやら二人が何かをやったわけではないみたい。

やがて炎は一瞬だけ鳥のような形になると、その中心で人型の何かが動いている。


「正義は不滅。炎の中から復活する僕はつまり正義という事だ。そうだろう?」


炎の中から現れたのは今しがた殺したはずのヒートくんだった。

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