第295話 会議2
フォスは目の前で着信音を発し続ける魔道具を何もせずに見つめていた。
会議がお開きになってまだ一分も立っておらず、おそらくは別の所からの連絡だろうと思われたため自分がとるものではないだろうと考えたためだ。
それよりも先ほどの話を続けようとは思うのだが魔道具の横やりでなんとなく続けられる雰囲気ではない。
なので魔道具を持ってきた男に視線を送り、さっさととれと合図をしたのだが何を勘違いしたのか男はハッとした顔をした後に魔道具を起動してフォスに差し出したのだ。
「え」
あまりにも自然な動きにフォスはつい間抜けな声を出してしまったが自分に魔道具が向けられていることを思いだし咳払いする。
どうせ自分への連絡ではないのだから、適当に返事をして他の奴に回せばいいのだと気を取り直して魔道具を操作すると、先ほどと同じように空中に窓が展開され、そこに複数の人物の顔が投影される。
そしてそれは先ほどまで会議していた面々とほぼ変わらない顔ぶれだった。
「なんでだよ!」
つい心の声が漏れてしまったフォスだったが、映し出された人々は先ほどとは少しだけ違った。
フォスと言い争いを繰り広げていた者たちの姿が無くなっていたのだ。
「突然すまない、もとよりこうする予定だったのだ。そちらに伝える手段がなかったためにこうして無礼を承知で連絡させてもらった」
「あ?」
先ほど議長を務めていた男が今の状況を長々と語った。
それを要約すると、
「つまり元々怪しい動きが多かったあいつらをこの機会にハブって会議をするつもりだったと?」
「その通りだ。理解が早くて助かる、さすがはかの帝国皇帝の一人娘だ…あの連中はあなたの言っていたように連絡が取れなくなっている王国と結託し侵略戦争を各地に仕掛けようとしていた疑惑がある。先ほど示し合わせた限りでは「黒い流れ星」の被害も少ないようでな…それでいて各国に率先して支援を要求する始末だ。何か対策が必要だと常日頃から我々で話し合いをしていたのだが、こうなった今具体的な対処が必要だと思い、あなたにも声をかけさせてもらった」
めんどくさい事に巻き込まれたな、再びため息を吐きそうになったフォスだったが、それよりも彼女の神経を逆なでしたものがあった。
「話はわかった。だがなぁそれよりもだ」
「何か?」
「なんで上から目線なんだよ、ふざけんな」
「あなたは国の代表というには言葉遣いがなっていない。そのような人物にこちらも格式ばった言葉を使う必要があるかね?」
フォスと議長の視線がぶつかる。
どちらも一歩も引かず、二人以外の会議に参加している者の間には張り詰めたような緊張感が流れていたが二人は数秒の後にどちらからともなく視線を外した。
「議長…?」
「すまない時間を取らせましたね。では会議を始めましょう」
「え…?よろしいので…?」
議長に話しかけていた男が議長とフォスを交互に見て、おずおずと議長に尋ねるが頷くだけであり、またフォスもそれに対し文句は言わなかった。
「構いません、では最初の議題ですが…」
そうして始まった会議は前回のアレが何だったのかと思うほどスムーズに進んでいき、国家間での被害状況のすり合わせ、資源の分配、ここに居ない国への対応など次々に決定されていく。
「よし…今回はこの辺りでいいでしょう。一気に全部まとめようとしてもパンクする確率が高くなるだけですしね。さて、それでは最後にあの流れ星についてなのですが…」
「それなら気にするな。よっぽどのことがない限りはもう起こらないはずだ」
唯一流れ星の原因を知っているフォスは頬杖をつきながらぶっきらぼうに言い放った。
「…まさか何か知っているのですか?」
「知っていると言えば知っているが…お前たちは知らないほうがいい」
「そういうわけにはいかないですな。あなたが事情を知っていて、それを隠すというのなら…別の疑惑が産まれますがご理解いただけますかな」
「ちっ、その原因となったモンスターの特定は済んでいる。だが一応だが今のところ再現性はない」
「ま、待っていただきたい!あの災害をモンスターが引き起こしたと言うのですか!?」
「ありえない!」
やはりこうなるかとフォスはざわめきだした会議を他人事のように見つめた。
嘘は言っていない、しかし百パーセントの真実も伝えていない。
これにはある理由があり、議長が他の代表たちを沈めたのを確認して再びフォスは口を開く。
「ありえないだなんだと言っても事実なのだから仕方がない。原因を特定して我らが対処をしようとしたがどこかに逃げ去った。そこでちょうどいい機会だ、どこかでなにか異変は起こっていないか?もしそうなら教えてもらいたい、対処はこちらが請け負う」
「なぜあなたが?」
「討ち損じた責任。それとあの規模の災害を起こせるモンスターだぞ、我ら帝国…元帝国に属する者以外に誰が対処できる?」
「それは…その通りだが…」
かつて戦力という一点のみでどこも手が出せない大国としての力を持っていた帝国。
そこの皇帝の一人娘の言葉とあれば説得力が違う。
たとえそれが今は無き栄光だとしても。
「あの…そういうことなら一つ…このご報告しようとしていたことが…」
おずおずと比較的若い男が手を上げた。
議長が視線で続きを促すと男は緊張したような面持ちで話し出す。
「じ、実は…流れ星の被害を確認していた時なのですが…我が国から見える霊峰が消えたのです…」
「貴国から見える霊峰と言うとアレか?」
「え、ええ…龍が住む地があると噂のある立ち入り禁止となっているあの山の事です…」
「消えたとは?」
「わ、我々も事態を把握できていないのです…突如として「消えた」としか…直前に大きな音がしていたので崩れたのかもしれませんが…それにしては余りにも…な状況でして」
「流れ星で崩れたのでは?」
「いえ、調査ではあの流れ星は霊峰にはほとんど被害を与えていない事も分かっていましてその…」
不自然な霊峰と呼ばれる山の状況に話し合いを進めていく議員たちだが、フォスは一人頭を抱えていた。
一般的には噂だがフォスはあそこに実際に龍が住んでいたことを知っている。
あの場所が本当に神聖な力に満たされた場であることも…そこが突如消えたというのなら何かがある。
そこでフォスはある事を想いだした。
(そういえば原初の神をさらって行ったあの女…あまりにもイカレた女だったから気が付かなかったが今思えば…まさか…)
また一つ新たな問題が持ち上がり…フォスは吐いてしまいたい衝動に襲われた。
────────────
そして同じころ、マオの住む屋敷において。
「え…?今なんて…?」
「リリさんがさらわれました」
ティーカップが地面に落ち、砕けた。
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