第173話 人形少女は一緒に行きたい
――まだ私の事好き?
これは時折マオちゃんが聞いてくる質問だ。
私の事を信じてくれてないわけではないと思う。だから私の返す答えはいつだって同じ。
「いつまでだって好きだよ」
「よかった」
安心したようにマオちゃんは私の胸元に頭をのせる。
「首痛くなっちゃうよ?私硬いし」
「いいの。こういうのは気分だから」
そのまま特に会話もなく二人でぼ~っとする。
マオちゃんの体温と息遣いが聞こえてきて…なんというか安心する。
イチャイチャするのも好きだけど、こうやって何もせずのんびりしてるのも大好きだ。
…もしかしてこれもイチャイチャしているに入るのだろうか?
「ねえリリ」
「なぁに?」
「今日ね…リフィルとアマリリスの事すっごく怒っちゃった」
「うん」
ちょっとだけマオちゃんの身体がこわばってきた気がするので背中側から手を回して、話すマオちゃんの頭をできるだけ優しく撫でる。
「嫌われちゃったかも」
「マオちゃん」
普段はあまりマオちゃんの言葉を遮ったりしないのだけど今回は止める。
「…ごめん」
「うん。私の事はいいけどあの子たちの事をそんな風に考えだしたらダメだよ」
「…そうだよね。だめだなぁ私…そんなことないって分かってるのにね。どうしても少しでもあなたの気が引きたくてどこまでもめんどくさい女になっちゃう」
「不合格」
「え?」
「さっきのお返し。そういう目的なら全然だめだよ。だって私はこれっぽちもめんどくさく思ってないもん」
先ほどまでのヒートくんたちの事は死ぬほどめんどくさかったのに、今は微塵もめんどくささを感じないのだから間違いない。
「…今私以外の人の事考えてたでしょ」
「んん!?」
「二人きりの時は私だけを見て、私だけを考えて。私だけのリリでいて」
「いつだってマオちゃんだけの私のつもりなんだけど…」
マオちゃんの要求値はあの夜空に浮かぶ星よりも高いのかもしれない。
いや、何言ってんだ私。
それにしても今日のマオちゃんはいつにもましてちょっと精神的にまいってる感じだね。
たまにこういう状態になることはあるんだけど今回はいつものそれよりも重い気がする。
「…」
「マオちゃん本当に何があったの?私に話せない事?」
「違うよ…たださ変わらない関係なんてないのかなって思って」
「変わらない関係?…あ~レザ君たちのこと?」
「そう。今日も魔界に行ってたんだけどさ…案の定また絡まれちゃった」
「あらら」
「昔はあんなに仲が良かったのに…今では顔を合わせれば殺し合いだよ」
「マオちゃんたちってだいぶ古い仲なの?」
ただ何となく聞いてみただけなのだがマオちゃんは頬を膨らませて怒り出してしまった。
「なんで今私以外の名前出したの?そんなにあの二人の過去話が気になる?」
「えぇ…!?」
いやそういう話じゃなかったの!?理不尽だ!
それに気になったのはどちらかと言うとマオちゃんの話のほうで…。
「どう?さすがにめんどくさいって思った?」
「いや…驚きのほうが強いかな…」
「くすっ、だよね~」
「あ、今の本気じゃない…?」
「当たり前だよ、こっちからそういう話してるのに。これじゃあめんどくさい女じゃなくてヤバいやつだよ純粋に」
「してやられた…」
「まぁそれでどれくらいの付き合いかだっけ?ん~…もう90年くらいになるのかな?よく覚えてないや」
「おおう…」
平然ととびだす恐ろしい数字にやっぱり未だに困惑してしまう自分がいる。
「私は両親が居なくてさ。物心ついた時にはすでにアルギナに面倒を見てもらってたの。そこで当時アルギナがやってた施設があったのだけどね、そこでレザとべリアには出会って、そこからずっと友達だったの」
「ほほう」
「でも私が魔王になってからは関係性も変わっちゃって…というよりは向こうの態度が変わったの。私はそれが寂しくて悲しかった」
「マオちゃん…」
「それが今はさ、さらにこんなことになっちゃって…ちょっとだけ不安になっちゃったの。今この屋敷の中は私が唯一幸せな私でいられる場所。だけど瞬きした瞬間に全部また崩れちゃうんじゃないかって…不安になったの」
「そうなんだね」
今マオちゃんはびっくりするくらい頑張ってる。
母親として魔王として。
魔界でのマオちゃんが何を目指しているのかは私は良く知らない。
だけどどんなに忙しくてもマオちゃんは娘二人の食事は絶対に作るしお風呂にも入れて、絵本も読んであげて、二人が外に遊びに行きたいと言えばなるべく連れて行って…悪い事したらちゃんと叱って。
もちろん私もやってるけど、それでもあの子たちの親としてマオちゃんがやっていることの足元にも及ばないと思う。
だからなのかたまに精神のバランスを崩してこうなってしまう。
でも私はそれでいいって思ってる。
ただこうして私が話を聞いて、一緒にいるから。
「リリは不安になることは無い?」
「ないよ。そもそもマオちゃんもそんなに思い詰める必要なんてないんだよ。約束したでしょう?たとえ死んだって少なくとも私とマオちゃんはずっと一緒だって」
「うん、そうだね。ずっと一緒だよね」
「そうだよ」
「私、リリがいなくなったら本当にもう生きていけないんだからね」
「私だってそうなんだよ?マオちゃんがいない世界なんて何の意味もないんだから」
「じゃあ安心だ」
「安心だね」
私達はどちらからともなくお互いの唇を優しく触れさせた。
「ありがと。これで明日からも頑張れるよ」
「私も魔界に行こうか?」
「ん~…でもこれは私が何とかしないといけない問題だしなぁ」
「マオちゃんの問題は私の問題だよ」
「そっか。でもギリギリまでは頑張ってみるよ。あと一回だけちゃんとあの二人と話してみる」
「うん、いつだって私はマオちゃんの味方だからね」
そうしてひとしきりお互いを抱きしめ合った後、娘たちが眠る横で私達も眠りについたのだった。
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