第174話 魔王少女は対峙する

 その日は無駄に天気のいい朝だった。

窓から刺すような日光に起こされて、隣でスヤスヤと眠るリリの頬を起こさないように注意しながら撫でる。


昨日はさすがに甘えすぎてしまったかもしれないと反省しながらベッドから抜け出し、身支度を整えて朝食の準備を始める。


クチナシとメイラはまだ戻っていないみたいなのでリリと娘たちの朝食だけ用意すればいいから楽だ。

コウちゃんさんとアーちゃんさんの分は屋敷の掃除とかしてくれてる二人の悪魔さん達が用意してくれるから必要がない。


当初は私たちの分も作りますよと言われたのだけど、私はご飯を作りたかった。

昔は料理を人にふるまうのが趣味だったからね。魔王になってからは出来なくなってしまったから今がとっても楽しい。


「ママ~」

「んむぅ…」


朝食を作っていると厨房にぬいぐるみを片腕に抱えたリフィルと、その手を繋いで眠そうにもう片方の手で目をこすっているアマリリスがいた。


「二人ともおはよう」

「おはよう~」

「…おはよう…ごじゃます…」


リフィルはとっても朝に強いけどアマリリスはびっくりするほど弱い。

でも姉と離れるのは嫌なようでこうしていつも二人そろって起きてくるのが可愛いって思ってたりして。


「ママ手伝う~」

「ありがと。でも先に顔を洗っておいで」


その後は戻ってきた二人がお皿を並べてくれたりして無事に準備ができたので三人で食卓を囲む。


「ママ~リリちゃん起こさなくていいの?」

「うん。疲れてるみたいだし寝かせててあげて」

「リリちゃんとご飯食べたかった…」


アマリリスは少ししょんぼりしてたけどきっと夜ご飯は一緒に食べれるからと説得した。


「食べた後ママは出かけるけど…ちゃんとお留守番しててね」

「は~い。今日はおとなしくこーちゃんと遊ぶ~」

「リリちゃんは?」


「リリもお昼から少しだけ用事があるみたい」

「しょんぼり」

「ママは遅くなるの?」


「そうだね~今日は大事な日だから遅くなるかもね。だけど明日からはお休み取れると思うからみんなで遊びに行こうね」

「ホント!?やったー!」

「やった~」


喜ぶ二人を微笑ましく見つめながら朝食を平らげ、しっかりと準備をしたのちに屋敷を後にした。

ゲートと呼ばれる魔法を使い、魔界まで出向く。

崩れ去った魔王城までたどり着くと、瓦礫の山の中で比較的部屋の形を保っている場所にぽつんと置かれた椅子に座り、足を組む。

そのまましばらくじっとしていると小走りで一人の魔族が現れ、私の前で跪くと資料を手渡された。

そこに書いてある事柄に目を通していく。


「…長かったけどだいぶ人数が減ったね。私が改革を宣言してもう五年。それでやっと魔族の人口をここまで減らすことができたよ」

「…」


反抗的な者は処刑し、無意味な戦争を人間にけしかけさせ、これまた意味のない肉体労働を強制した。

そんな事を続け、今や魔界の魔族の数は五年前の半分まで減っていた。

私の指示でたくさんの魔族が死んだ。人に比べればかなり総数は少ないがそれでも結構な数だ。

先代魔王も虐殺の限りを尽くたそうだけど私も同じような事をしている。


「ねえあなたは先代の魔王にあったことある?」

「…いえ」


彼はなかなかの古株だったはずだけど先代の魔王の事は知らないらしい。

もし叶うのなら会話してみたい。

あなたは何を思って凶行に走ったのか…なぜ最悪の暴君と呼ばれるほどになったのか。


「ま、叶うはずもないんだけどね」

「…?」


「あー気にしないで。それよりこれからどうするべきだと思う?」

「どうとは…」


「私としてはもう少し魔族の数を減らしたいのだけど…もうそろそろ行き詰まりそうでね~」

「…くっ…化け物め…」


「はい、聞こえた。死刑」


半分冗談だったけど男は引きつったような顔をして慌てて頭を下げた。

そうなるくらいなら最初から言わなければいいのに。


さてさてどうしたものか。

そんな時、勢いよく部屋の扉が開かれ見知った二人が入ってきた。


「ああ、待ってたよ。レザ、べリア」

「アルソフィア!」


レザが怒りに満ちた表情で私に詰め寄ってくる。

べリアは私の前で床に頭をつけていた男を立ち上がらせ、この場から去らせた。

今この空間には私たち三人だけが取り残されてしまった。


「お前…!あの人に何をしようとしたんだ!あの人は今までずっと魔界のために尽くしてくれていた、」

「そんな事より今日は二人に話があって来たの。これが最後だからちゃんと聞いてほしい」


レザの言葉を遮って、近くになったボロボロのテーブルに二人を促すと、しぶしぶといった感じだが席についてくれた。


「飲み物は出しても飲まないでしょう?」

「それより話ってなんだアルソフィア」


「そうだね、話をしないとね。ねえレザ、べリア。仲直りしない?」


私はまっすぐに二人を見つめてそう言った。

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