第175話 魔王少女の世界論
「仲直り…?」
べリアが呆気にとられたような顔をして繰り返すようにつぶやいた。
しかしレザは私を睨んだままで今にも飛び掛かってきそうな気配さえある。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりもなにもただ仲直りがしたいだけ。また昔みたいに友達に戻れないかなって」
「今までしてきたことを悔い改めるって事か…?そうなのかアルソフィア」
「レザが言ってる今までしてきたことってどこの事?」
「それはお前が狂った政策を打ち出した五年前からの事に決まってる!いったいあれから何人の魔族が死んだと…」
悲しくてたまらない。胸が痛くてしょうがないとでも言いたげな表情でレザが私を見る。
だから私も私の言葉を返す。
「あぁ…その事なら私は一切後悔していないよ」
「なんだと…?」
「私が後悔しているとすればそれは、その前までの自分。馬鹿みたいに自分より魔族の事を優先してた愚かな私だったころだよ」
「アルソフィア…やっぱりもう戻れないんだな」
「戻る?どこに戻るって言うの?」
「俺たちが共に切磋琢磨して魔界の未来を思い邁進していたあの時にだ!」
レザのそんな言葉についつい私の口からはため息が漏れてしまった。
やっぱり彼らと私とでは戻りたいと思う場所が違うみたい。
「レザ、べリア。私はね、ずっとずっと…寂しかったよ」
「何を言っている?」
「私が魔王になることになった日から、あなた達は私の友達でいることを辞めた。私がせめて公ではない場所では友達でいて欲しいってお願いしたのにあなたたちはダメだと一蹴した」
「当たり前だろう…!お前は魔王で、俺たちはその臣下になったんだぞ!」
「そうよ!その時だってちゃんと話し合って決めたじゃない!魔界を良くしていくためになれ合いはダメだって」
「それでも」
あの時の事は今でも思い出せる。
ずっと一緒だった気ごころ知れた友達が私と一緒にご飯を食べてくれなかった。
一緒に出掛けようと声をかければ三人で遊びに行っていたのに気安く話してくれることさえなくなった。
私に対して敬語を使うようになった。
それから、それからとあげだしたらキリがない。
あの日の私は表に出さなかったけど…寂しくて寂しくていつだって泣いていた。
「それでも私は寂しかったんだよ。レザ、べリア」
「だったらお前が戻りたいときというのは…そのためにお前は魔界をめちゃくちゃにしたって言うのか!?そんな事のために!」
「そんな事、か。とりあえず言っておくと今私が魔界を荒らしまわってるのは別の理由ね。だけどそっか…やっぱりあなた達にとってはそんな事なんだね。良く分かったよ」
結局何もかも私の独り相撲だった。
寂しいと思っていたのは私だけで、大人になって割り切れなかったのは私の弱さ故。
だけど…だけどだよ?
「強くなれなかった私を魔王に選んだのは「お前たち」だ。そして私がどれだけ傷ついて泣き叫んでもその地位に縛り付けたのもお前たち魔族。だから私のやることにいちいち口を出さず受け入れろ」
「…アルソフィア。お前の言いたいことは分かった。俺たちに不満があったというのならそれでもいい!だがなぜ罪のない魔族を巻き込む!」
「この期に及んでまだそんな事を言うの?罪のない魔族ねぇ?魔族たちは魔王である私に対して何回反乱を起こした?何回暴言を吐き、何回私の人生を奪った?私が何をしたの?どうして魔族のために望まれたことをやった私が虐げられないといけなかったの?それは罪ではないの?」
「一部だけを見るな!確かにいろいろな事があったのは事実だ!だがそれでも全ての魔族がお前に対してそんな行動をとったわけではないだろう!?」
頭が痛い。
どうして彼の言葉がこんなに耳障りに聞こえるのだろうか。
「一部?一部を見るなって本当に言ってるの?じゃあ私をちゃんと尊重してくれてた魔族がどれだけいたというの?誰も彼もが私に当たり前のように暴言を吐いた。ただの一市民でさえ私を指さし嘲笑った。あなた達もそんな私を助けてくれることはなかった。私を魔王として敬意を払ってくれた人なんてそれこそ一部じゃない」
「それでも少しでもいたのならなぜ…!」
「ねえ?今さっき一部だけを見るなって言ったばかりじゃない。矛盾してるよ」
「それは…!」
「結局お前たちも私の事を見ていない。何も知らない小娘に自分たちの好きな都合を押し付けたいだけなんだよ。そしてお前たちはそれに失敗したんだ。散々好き勝手な都合を押し付けたんだからこれはそのつけだよ。粛々と受け入れろと私は言ってるんだ」
そこまで言い終わったところでべリアが立ち上がった。
「レザ、もうダメだ。この子はもうどうにもならない。辛いけどここで止めるのが私たちの役目だよ!」
「ああ…悪く思うなアルソフィア」
レザも立ち上がり、それぞれが武器を手にして私に向けた。
「一つだけいいかな。私さそのアルソフィアって名前は捨てたの。正直しっくりこないし私の事は「マオ」って呼んでほしいな」
「やっぱり…何もかも全部あの人形が悪いんだな…。あいつがここに来たのが間違いだったんだな」
「ん~あの人形って誰の事だろう?あ、もしかして今べリアの後ろにいるリリの事かな?」
「え…?」
瞬間、べリアの胸から銀色に鈍く光る刃のようなものが突き出してきた。
「あ…え…?」
突然の出来事に二人とも反応できずに茫然としている。
そしてべリアの背後、ナイフを彼女の背後から突き刺した張本人であるリリは何かを確かめるようにつぶやいた。
「あのね、聞いた話だから詳しくは知らないのだけどね?ナイフは突き刺した後に横に捻るんだって。こんな風に」
ぐちゃっと小さく音が聞こえてべリアに刺さったナイフがリリの力で無理やり九十度ほど捩じられる。
「これでいいのか?とにかくこれで傷口が広がって云々って…魔族にも効くのかはわかんないけどね~」
そのままナイフが引き抜かれべリアが崩れ落ちるように倒れた。
「べリア!貴様ぁ!!」
レザが勢いよく振り向くと同時にリリに向かって手にした大きな銃を叩きつける。
それをリリは難なく手にしている血濡れたナイフで受け止めて涼しい顔で鍔迫り合いを続けていた。
「やぁやぁレザ君久しぶりだね~少し見ない間になんだか随分と気持ち悪い雰囲気になったね」
「わけのわからないことを言うなぁ!!」
さて、私も戦いに加わらないとね。
もしかしたら二人と友達に戻れるかもしれない…そんな想いがあったのは間違いなく私の本音だ。
だけどこうなってしまったらもうしょうがない。
まぁどっちにしろ殺すつもりだったんだけどね。
だからリリについてきてもらった。
この二人は以前初めて私に襲ってきたときに娘たちに手を出そうとした。
その時はまだ少しだけ情があったけど、もはや殺すべき魔族の一個体だ。
私は私のために魔族を殺す。
そして私の幸せを。家族を奪おうとした奴らを絶対に許しはしない。
私の幸せは誰のものでもなく私の物なのだから。
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