第172話 人形少女は気づく
屋敷の広間に無事にたどり着いたところでドレスを借りっぱなしにしてしまっていることに気が付いた。
もともと着てた服もマナギスさんに預けたままにしてしまっている。
どうしたものかな?
「まぁとりあえずはお風呂にでも入ろうかな、汚れちゃったし」
ドレスは魔法で綺麗にして後日返せばいいでしょう。
そんなこんなで手に持っていた王冠入りの箱をぽいっと闇の中に放り投げたのちにお風呂場に向かっていると、軽い衝撃が私の足に伝わってきた。
「ん?」
「うぇえええ…リリちゃ~ん~~~」
見るとアマリリスが泣きながら私の足にしがみついていた。
さらにさらに背中にも何やら衝撃が来てそちらにはリフィルがいる。
「あ~ん!リリちゃんたすけて~!!」
「びぇえええええん!!」
「ど、どうしたの二人とも」
正直今ちょっと私の身体は血なまぐさいかもしれないからあんまりしがみついてほしくないというか…子供たちに申し訳ないのだけれど…。
それでも泣いている娘たちを放っておくわけにもいかない。
「ママが怖いぃぃ~!」
「マオちゃんが?」
「うえぇえええええん!」
泣きながらしがみつく二人を抱えてマオちゃんの…というか私たちの寝室まで進む。
軽くノックをして扉を開けると腕を組んで少しだけ怒ってるようなマオちゃんがいて、私を見ると少しだけ呆気にとられたような表情をした。
「ああ、急に出て行ったと思ったらリリが帰ってきてたのね。おかえり」
「うん、ただいま。どうしたの?」
「二人が勝手に外出してたの。私も帰ってきたら二人が居なくてびっくりして屋敷中探し回ってたらこっそり帰ってきて…少し叱ってたの」
「なるほど」
腕の中の娘たちを見るとリフィルは明後日の方向を見て知らんぷりして、アマリリスは私の胸に顔を埋めてしゃくりあげていた。
「ん~それは二人が悪いかもねぇ…ママたちと黙って外に行かないって約束はしてるでしょ?」
リフィルとアマリリスはまだ5歳でさすがに目を離して外に遊びに行かせるのはまだ早い気がするので遊びに行くときは誰かと一緒という約束をしているのだ。
そして今は私とマオちゃんはもちろんのことクチナシとメイラもそれぞれいないので二人は外に出られない。
コウちゃんとアーちゃんは意地でも外に出ないし、いろいろと家の事をやってくれている悪魔ちゃん二人は娘たちに関わらせると何故かメイラがめちゃくちゃに不機嫌になるのでダメ…というか以前一度あの二人の悪魔ちゃんがアマリリスに関してやらかしてしまった事があるのから余計にダメという事になっている。
そういう事もあって二人ももしかすれば外に出たくて仕方が無くなってしまったのかもしれないけれど…これまたいろいろ事情があって外が必ず安全という事もなく、現に二人は赤ちゃんの時に誘拐されているし、屋敷の外はモンスターだっている。
その件もあってマオちゃんは二人の事にはかなり神経質になっているという事もある。
だからどうしてもきつい言い方になってしまうかもしれないけれどマオちゃんは絶対に二人の事を考えてそういう行動に出ているのだという事はなんとか二人に理解してほしいところ。
「だってだって~…」
「だってじゃないでしょ。心配かけたんだからちゃんとごめんなさいしよ?」
「うん…」
二人を床に下ろすと、そのまま二人はマオちゃんの元におどおどと歩いて行った。
「ママごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
「…ううん、ママも言い過ぎた。ごめんね」
マオちゃんが優しい表情で二人を抱きしめて、娘たちもそのままマオちゃんに抱き着いた。
うんうん、よかったよかった。
「そうだ、遅くなっちゃったけどご飯食べないとね。リリはどうする?食べてきちゃった?」
「ん-ん。何も食べてないから私も食べるよ~」
「そっか。じゃあ今日はリフィルとアマリリスが好きなやつ作ろうかな?」
「私いっぱい食べてきたからいらない~」
「あ、お姉ちゃん!!」
リフィルがぽろっと漏らした言葉を慌ててアマリリスが止めるもすでに遅く…。
「食べてきたってどういう事?外でなにか食べたって事?」
「あわわわわわ…」
「お姉ちゃん…」
にっこりと笑ったマオちゃんがもう一発雷を落とした。
────────
そして深夜。
娘たちが寝静まった後、寝れないのかマオちゃんは窓から空を見上げていた。
私はそんなマオちゃんの元に飲み物を持って近づいた。
「マオちゃん何かあったの?」
「なにもないよ」
「そっかー、はいこれ飲み物」
「ありがと」
そのままマオちゃんの隣に座って一緒に空を見上げる。
星が良く見える綺麗な夜空だ。
「ねーね―マオちゃん」
「ん~?」
「私ね何回も言ってるけどあまりそう言うの良く分からないから、何かあったなら言ってもらわないと何もわからないし、思ってる事も伝えてもらわないと何も伝わらないの」
「うん」
「でも最近なんとなくだけど少しだけマオちゃんの事は分かるようになってきたから…だから何かあったんだよね?多分だけど…」
マオちゃんは表情を変えず夜空を見上げたままで、
「不合格」
と言った。
「え…」
「なんとなくや多分じゃダメ。ちゃんと分かってよ私の事」
「う…努力します…」
「ふふっごめんね。めんどくさいこと言っちゃった」
「めんどくさくなんてないよ」
「ん…めんどくさい女だよ私は」
マオちゃんが一口、手元の飲み物に口を付けた。
窓から差し込む数かな光に照らされてマオちゃんはとてもきれいに見えた。
そして私のほうを表情の読めない顔で見つめるとそのまま。
「ねえリリ。まだ私の事好き?」
そんな事を言った。
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